55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

「Bistro73」とマクドナルド〜若者たちの食欲と希望と

食いしん坊のローラ(日本語を勉強中のフレンチ・ガール。18歳)に誘ってもらって「Bistro73」という店へ。
「ジェラルディンやジョンが先週末お疲れ様会で行ったところだよ。凄くナイスらしいよ」と娘。
ビストロというからにはフレンチの店なのかなと思ったら、アイリッシュだとローラは言う。グルメ・サイトで調べたそうだ。
学校の前で待ち合わせ、アレクシ(シェアメイトのフレンチ・ボーイ。23歳)、ブルーノ(同じクラスのフレンチ・ボーイ。たぶん十代)、ポール(初めて会うスパニッシュ・ボーイ。年齢不詳。たぶん十代)と6人でお店へ。

f:id:lifeischallenge:20170805191744j:image

素敵なオジさんが美味しいサンドイッチとスープとビッグオニオンリングを出してくれたパブの2階。
ドアを開けると、パブとは全然違うモノトーンのスタイリッシュな内装が、ビストロ感を高めている。シャツにベストの細身のマスターがメニューを持ってきてくれて、いかにも高そう……と思いきや、€10を超えるものはほとんどないリーズナブルな料理が並んでる。
食材、調理法ともに、お洒落で美味しそう。

f:id:lifeischallenge:20170805191800j:image
私はランゴスティーニを注文。ブルーノはTで始まる白身魚の蒸したのを(名前、忘れた)。ローラはラムのゆっくり煮、ポールはミートボール・シチュウ、アレクシと娘はポークのクロケット(コロッケ。でも、日本のとは違う)を注文。

f:id:lifeischallenge:20170805191817j:image
料理の前にデミタスカップのスープと小さなもっちりしたパンが出てきて、またまたお洒落。でも、スマートなマスター以外に従業員らしき人の姿はなく、一人でやっているのかねー? と、みんなやや不安顔に。


やや時間があって、料理が登場。ブルーノの白身魚はとっても美味しそう。私は思ったのをちょっと違っていたけれど、まあ美味しかった。

他の皿からも少しいただいて食べてみたら、どれも手がかかっていて繊細で、いい感じ。

f:id:lifeischallenge:20170805191833j:image 

でも、なんだかみんなの顔が今ひとつ明るくない。
そのうちローラが「みんな、お腹空いてない? フライがあったらなー」と。
若者たちには量が足りないらしい。
私にも「お腹いっぱいになった?」と聞くので、「デザートがあればね」と答え、デザート・メニューを頼んだら、メイン料理を同じくらいの値段。
シブい顔の若者たちに、別の店で食べることを提案したらみんな大賛成。
そのうちに、隣のテーブルに巨大なハンバーガーが運ばれてきて、みんな「?」。
そんなメニュー、あったっけ? 実は、下のパブと繋がってるんじゃない? と私。

 

ブルーノと私以外は飲み物も頼んでいない客に、マスターは嫌な顔一つせず、最後にはミニ・アイリッシュ・コーヒーを出してくれた。
ウィスキーたっぷりで、これもとっても美味しかった。
帰りがけ、ポールの名前を聞いたマスターが、さっと手を差し伸べて「僕もポールなんだ」と。
実はフランスからの移住者なのだとか。
若者たちにはともかく、量も味も私にはいい店だった。また来よう。

 

その後に入ったのは、マクドナルド。
ひゃー。でも、ま、いいか、と初めてアイスクリームを注文。
娘は帰ってから美味しいヨーグルト・アイスを家で食べるんだと言って何も注文せず。こういうところはとっても頑固。

みんなはオレオ入りのアイスをパクパク、アレクシに至ってはブリトーみたいなラップサンドを食べていた。

 

将来何を勉強する? 何になりたい? という会話を聞きながら、若いって素敵だなぁ、と思う。

とくに男の子たちの真っ直ぐで、その分ちょっとおバカな感じは『木更津キャッツアイ』を思い出させる。
お金がなくても、自信がなくても、自分の前に道がすーっと伸びていて、見たこともない景色がそこにある期待と少しの不安が入り混じった感じ。

食事中、初めて福島原発の事故の話をしたのだけど、コンピュータ技師志望のアレクシは、フランスの原発の制御ルームを見にいったことがあるという。
驚いたのは、40年も前のコンピュータ・システムを使っていたことなのだとか。
システムを変えるには何度もチェックする必要があって、原発を止めることになるからやらないのだ、と。
もし、自分がそういう企業で働くことになったら、新しいシステムに変えたい、と。
エネルギーの4分の3を原発に頼る国で、安全なのだと信じたい思いと不安とが一瞬交錯して見えて、胸がキュッとなった。
ポールはこの時代に文学を学んでいるそうだ。

f:id:lifeischallenge:20170805192720j:image 

安全な国、安全な地域なんてどこにもないこの小さな地球の上で、私がいなくなった後も、若者たちが希望を失ったり、お腹を空かせたりすることがありませんように。

 

雨が降り出した帰り道、貸してあげた小さな傘でくっつくように歩いていくアレクシとポールの後ろ姿を見つめながら、家までの道を歩いた。

 f:id:lifeischallenge:20170805192418j:image

 

 

 

 

アイリッシュ・ダンシングの熱い夜

f:id:lifeischallenge:20170805083924j:image

慣れてきたのか、だれてきたのか、90分の授業が短く感じられるようになってきたこの頃。
イタリアンが集結していた前のクラスとは違い、いまのクラスはフランス、ブラジル、スペイン、コロンビア、イタリアからの留学生で、アクセントもそれぞれに違って面白い。
正直、聞き取りにくいこともあるけれど、お互いの国の食事や風習の違いにも触れられる。

f:id:lifeischallenge:20170805083843j:image

昨日はジェラルディン(先生)も休みだったそうで、急に歯医者に行くことになったそう。何かを食べたとき、歯がブレイク(!)したそうで、歯医者で€500(約6万5000円)とられたと悔しがっていた。
歯医者をはじめ、医療費は高いらしい。ついでに家賃もめちゃくちゃ高く、独立するのは大変だそうだ(平均€1500もするのだそうだ!)。

 

ジェラルディンの授業は未来形について。
“will”と“be going to”と“be 〜ing”の違いを学ぶ。
こういうの、高校か大学で習ったのかな。あまり記憶にはないけれど、けっこう違いがあって興味深い。

“will”はいま思いついたことを言う時に使う。偶発的な未来形だから意思を伴う。
相手と約束する時や、いま思いついたプランを話す時、そして感情的な(根拠のない)予想をする時。
「電話に出るわ」というのは間違いなくこれ。

“be going to”は、予め考えていたことや、根拠のある予想をする時に使う。
だから今晩の食事や映画の誘いを断る時などは、こっちを使うほうがいい。
天気予報で言ってたから雨が降るよ、と伝える時もこれ。

“be 〜ing”は、オーガナイズされて、他者とコミュニケーションも取って決まっている計画について話す時に使う。
チケットも持っているコンサートに行く時や結婚式などはこれ。

誘いを断る時はwillを使わないほうがいい、というのは何かの本で読んだけれど、こんなに違いがあるのか。でも、ただでさえ言葉が出てこないのに、あんまり考えるとよけいに出なくなるなー。

 

ジュリアナ(先生)の授業では、身体の部分が含まれるイディオムを習う。
“head over heels”は「首ったけ」という意味で、なんとなくわかるが、“have cold feet” は「一度は決めたことに迷いが生じる、ためらう」ことらしい。足がすくむ、という感じに近いのかな。“Break a leg!”は“Good luck!”の意味で、“pull one’s leg”は“make a joke to someone”。こうなるとなんだかわからない。
ちなみに“feel butterflies in one’s stomach”は、試験や恋愛や大事な局面を前にドキドキすることだそうだ。

f:id:lifeischallenge:20170805084015j:image
授業の後は、スープとチップスを少し食べて、学校主催の遠足で「アイリッシュ・ダンシング」。
『リヴァーダンス』みたいなアイリッシュ・ダンスのショウが€7(900円くらい)で観られるならいいじゃん、とノリの悪い娘を誘い、クリフウォークでも一緒だったイタリアン・ガールズやローラ(日本語を勉強中のフランチ・ガール)、トニー(ローラの友達)も一緒に、女子ばかり12人でシティセンターのグランド・ソーシャル・クラブへ。

f:id:lifeischallenge:20170805084043j:image
パブがいくつか合体したような大きな店にはいろいろなスペースがあって、サリー(引率)について行くとローカルな社交場のようなフロアに出た。

早速ビールを注文。オハラズというアイリッシュ・ペールエール、とても美味しい。
そのうち、集まった客はフロアの中央に呼び込まれ、アイリッシュ・ダンスの講習が始まった。ショウじゃなく、自分たちが踊るほうのダンスだった!

f:id:lifeischallenge:20170805084117j:image
娘はぐぐっと後ずさり、せっかくだからと私は参加。一緒に来た女子学生とペアになってフォークダンスの激しいバージョンみたいなステップを踏んでいたら、楽しくなってきた。

ダンスって、互いの距離を近くする。

そして、頭のごちゃごちゃを遠心力で吹っ飛ばしてくれる。


ビールとダンスで頭はグルグル、すっかり疲れて帰りのバスに乗ったら、ローラとトニーが「お腹空いた〜」。
娘の持っていたチョコをみんなで分けて、食べものの話をしながら家へ。
「帰ったら何を食べるの?」
「ラーメンかな。ローラは?」
「パスタかな」
どこでも、いつでも、女の子はお腹が空く生きものなのだ。

 f:id:lifeischallenge:20170805084200j:image

f:id:lifeischallenge:20170805084620j:image

 

 

 

 

 

巨人のオルガン、巨人のブーツ。大自然がつくった遊び場、ジャイアンツ・コーズウェイ

f:id:lifeischallenge:20170804181325j:image

8月1日のワンデイ・ツアー@北アイルランド、午後はジャイアンツ・コーズウェイ&キャリック・ア・リード吊り橋へ。
ベルファストの風景から一転、バスは絵本に出てくるような牧歌的な風景を次々に見せながら進んでいく。

f:id:lifeischallenge:20170804183117j:image
ダンルース・キャッスルを遠目に見て、一路バスは北へ。

f:id:lifeischallenge:20170804181416j:image 

約6100万年前(!)に膨大なマグマが流れ出して溶岩台地ができたうえに、5800万年前にさらに噴き出したマグマが重なり、堆積物が層をなした上に、1万5000年前に大規模な氷河が覆い、長い歳月をかけて氷河が台地を削り、海水が凍ってできた氷が岩肌を磨くように削っていき、その結果、古い溶岩台地の地肌が露出したものが、ジャイアンツ・コーズウェイなのだそうだ(「地球の歩き方」より)。
こんな解説を読んでもピンとこないけれど、実際目の当たりにすると、なんで? どうしたら、こんな風になるの? と思わずにはいられない。

f:id:lifeischallenge:20170804181529j:image 

高い山も火山もないアイルランドは西に行くほど岩肌が露出し、モハーのような見事な断崖絶壁を見せてくれるのだけれど、この奇岩群の迫力と異様さは想像を超える。
写真では捉えられない圧倒的な大きさは「巨人がつくった」と言われてやっと納得するほど。
「巨人のオルガン」と呼ばれる六角柱の石群は天へ屹立し、海岸に広がる石は一つ一つが見事なまでに六角形で、ハチの巣に代表されるそのカタチの不思議に圧倒される。

晴れていたら、ケンケンパーがしたいくらい。

f:id:lifeischallenge:20170804181639j:image

あいにく天気予報通り、ジャイアンツ・コーズウェイに着くやいなや土砂降り。
ベビーカーの子どもも見事なまでに濡れているが、かまわずみんな歩いている。

f:id:lifeischallenge:20170804181718j:image
断崖に沿った遊歩道を歩く。空はどんより曇っているのに海は青い。崖に張りつくように咲いている花々。雨もだんだん気にならなくなってくる。バスの時間があるので途中で引き返さなければいけないのが残念。

f:id:lifeischallenge:20170804181745j:image

f:id:lifeischallenge:20170804182721j:image
「巨人のブーツ」と言われる石に乗って写真を撮る女の子、突き出した石柱の上に犬を2匹連れて登っている男の子もいた。

 f:id:lifeischallenge:20170804181848j:image

またバスで移動して、キャリック・ア・リード吊り橋へ。
窓の外にはたくさんの牛や羊、山羊が見え、緑が層を成している。
バスを降りて約20分、1kmほど歩くと「怖いよー」とみんなが言う20mほどのロープの吊り橋。いっぺんには渡れないので、順番待ち。歩くとあっという間で、そんなに怖くもない。

f:id:lifeischallenge:20170804181946j:image

f:id:lifeischallenge:20170804182436j:image
吊り橋よりも、渡った小さな島から見える景色が圧巻で、紺碧からエメラルドグリーンに層をなす海の色、断崖で羽を休めるカモメたち、沖合に見える台形の島が本当に綺麗。

 f:id:lifeischallenge:20170804182531j:image

「あの島に島流しにあったらどうする?」「よく無人島に持っていきたい1枚、とか好きなアルバムを選ばせたりするけど、役に立たないよねー」とか娘と話していると、ようやく雨が上がって青空が見えてきた。

f:id:lifeischallenge:20170804182056j:image 

 実はこの島、ラスリン島というバードウォッチャーには有名な島らしく、ゲストハウスや郵便局もあるとか。でも、基本的には鳥たちの島で、パフィンなどの海鳥やアザラシも見られるらしい。いつか行ってみたい気もするけれど、行ってはいけない気もしつつ、写真を何枚撮っても収められない景色を後にする。

f:id:lifeischallenge:20170804182132j:image

靴もジーンズもずぶ濡れ、ランチもほとんど食べられなかったけど、来てよかったなーとぼんやり外を眺めていると、虹!
見たこともないほど鮮やかな七色の虹が、袂からくっきりと半円形を描いていた。

f:id:lifeischallenge:20170804182412j:image

 

 

 

ベルファスト〜流され続けた血の痕が投げかけるもの

f:id:lifeischallenge:20170804013310j:image

アイルランドに来る前にアイルランドを舞台にした映画を数本観た。

そのうちの一本が『麦の穂をゆらす風』。
社会派の巨匠、ケン・ローチ監督の2006年の作品で、カンヌ映画祭パルム・ドール(最優秀賞)も獲得した話題作(にして名作)。
でも、私は観たことがなく、渡愛前にあわてて観たのだった。

 

冒頭、「ハーリング」(ケルトの伝統的な、ホッケーみたいな屋外球技)に興じる若者たちが描かれ、主人公デミアンはロンドンに渡り医者になることが話される。1920年。トーンは決して明るくないが、若者たちの会話は親愛の情と希望に溢れている。そこへ英国軍(ブラック&タンと呼ばれる悪名高き非正規の軍だろう)がやってきて、若者たちに詰問を始め(すべての集会が禁じられている中で、しばしばハーリングも取り締まりの対象になった)、自分の名前を「ミハエル」と名乗った若者が「マイケルだろう!」と打たれ、鶏小屋に連れていかれる。
「終わった」と去っていく英国軍。嘆き悲しむ母親と姉(デミアンの恋人)、十代で惨死した友人を目の当たりにして、デミアンは英国に渡るのをやめ、アイルランド義勇軍IRA)の活動に身を投じていく。

 

親友に裏切られたり、親友を殺されたり、殺さざるを得なかったり。
中でも辛く、考えさせるのは、1922年、奇跡的に勝ち取った長い和平交渉でようやくまとまった条件(北アイルランド6県が英国に残り、さらにアイルランドは英国に忠誠を誓う)をのむか、のまないか、で、かつての同志が引き裂かれていく過程だ。
かつて同胞だったデミアンと兄のテディは、それぞれの正義と同志への忠実のため、敵と味方に分かれていく。

「これ以上血を流さないために」条件をのむのか、
「これほど血が流されたのだから」条件をのむわけにはいかないのか。
最初から最後まで身を抉るような絶望、怒り、哀しみを訴え続ける作品は、衝撃的なエンディングの後にも、その問いを投げかけ続けた。

 f:id:lifeischallenge:20170804014343j:image

8月1日、学校を休んでベルファストジャイアンツ・コーズウェイ、そしてキャリック・ア・リード吊り橋を訪れる日帰りツアーに参加した。
正直、北アイルランドを訪れることには躊躇いがあった。とくにベルファスト
訪れるからにはそれなりの覚悟と勉強が必要だと思ったし、北アイルランドは遠いし、重い。次の機会でもいいかなと思っていたが、ひと足先にベルファストを訪れた友人に、絶対行ったほうがいい、と勧められ、申し込んだ。

f:id:lifeischallenge:20170804014004j:image

バスは平日にもかかわらず満席で、2台が連なって出発。7時にダブリンを出発したバスは意外に早く9時半にはベルファストに到着した。
乗客はタイタニック・ミュージアムか、西ベルファスト市内を回るBlack Taxi(政治的な背景の説明を聞きながら壁画や追悼の碑を回る)を選ぶことになっていて、迷わず後者を選択。

 f:id:lifeischallenge:20170804015416j:image

北アイルランドでは、1966 年プロテスタント準軍事集団( UVF13) が発足、カトリック準軍事団体(IRA)に対して宣戦布告。1969年にはデリーで、長く差別に苦しんできたカトリック系住民による暴動が勃発。以降、1998年ベルファスト合意まで30年に渡って内戦状態が続いた。
死者3459人(一般市民1855人)、うちベルファストの死者1540人(西ベルファスト623人)、負傷者47541人、発砲36923回。
30年間、毎日発砲の音が止まなかった街。いまもカトリック系とプロテスタント系住民を分ける「壁」に描かれた壁画を慌ただしく見て回りながら、想いを馳せるには時間が足りな過ぎると思った。写真を撮って、説明を聞いたら、すぐ次へ。観光ツアーの一環なのだから仕方がないが、とても失礼なことをしている気分になってしまう。

 f:id:lifeischallenge:20170804013329j:image

カトリック系住民が住むフォールス・ロードには1981年にハンガー・ストライキで獄中死したボビー・サンズを始め、政治的な犠牲者でもありヒーローでもある人の絵が描かれ、同時に、ネルソン・マンデラモハメド・アリなどの絵も。

f:id:lifeischallenge:20170804015545j:image

 

f:id:lifeischallenge:20170804013521j:image
一方、プロテスタント系住民が住むシャンキル・ロードに入ると英国旗がこれでもかとはためき、全く逆の立場のヒーローの壁画が。
麦の穂をゆらす風』に描かれたものが、そこに形として現れ、頭がしばし分断し、停滞してしまう。

 f:id:lifeischallenge:20170804013600j:image

中立はあり得ないし、自分がそこに住んでいたなら、どちらかの正義のために闘っていたのだろう。

こうやって観て回ると、英国旗を掲げ広々としたシャンキル・ロード周辺より、人が密集し、肩寄せ合って暮らしているように見えるフォールス・ロード周辺に肩入れしたくなるが、“正義”はそれぞれにある。

f:id:lifeischallenge:20170804013638j:image
ベルリンの壁が壊れても、いまなお二つの住民集団を分ける「平和の壁」は、互いの心に現存する壁でもある。

実際、交流はほとんどなく、壁を超えることも稀で、子どもの頃から教育は隔たれているという。

それでも、いま、発砲の音を聞かずに、この街が観光スポットとして在る、ということには、大きな意味と可能性がある、と思う。

流された血は、決して無駄ではないはずだ。

そして、正義を超える共感が、いつか壁を壊す日を夢想するのは、楽観的ではないはずだ、きっと。

 

立派な教会の中に入らせてくれたところを見ると、運転手さんはカトリック系なのかなと思ったが、あえて聞かなかった。

淡々と説明してくれたけれど、言えない想いもきっと胸のうちにあるのだろう。
わずか1時間半、駆け足で回ったベルファストの街。

人間そのものが凝縮されたような街を、また訪れたいと思う。

 f:id:lifeischallenge:20170804014139j:image

 

 

 

新しいクラスで5週目スタート。うどんはパスタに勝てるか?

f:id:lifeischallenge:20170802174224j:image

先週末にアンドリュー(主幹にあたる?先生)に聞かれた。
「来週、君のクラスは閉鎖される。ZIGの同じレベルのクラスに行く? それとも、同じZAGの時間帯で別のクラスに行く?」
迷わず私は後者を選択。
月水金が午後からの授業になるZAGのほうが慣れているし、これまでのクラスのレベルには正直ついて行けてなかった。頑張ってはみたものの、スラスラ話すイタリアやフランスからの留学生に引け目と申し訳なさを感じていたのは事実。
いろいろ気遣ってくれたローラやアレクシとは離れるけれど、このタイミングでクラスを替わるきっかけをもらえるなんてラッキー。

 f:id:lifeischallenge:20170802174314j:image

というわけで7月31日月曜日。新しいクラス、新しい先生で授業がスタートした。
最初の授業はジェラルディン。娘のクラスをずっと受け持っていて、面白くて大好きと言っていた先生。ふくよかで、いつも派手なワンピースを着ていて、ひときわ目立つ。
日曜日の夜は必ずピザを食べるそうで、それは家族で映画を観るからだそうで、そういうの、いいなぁと思っていた。
初めてのジェラルディンの授業は「料理と食事に関する語彙」について。これは、ひょっとして、私の得意な分野では?

 

予想通り、マリネードとかスチームとかバーベキューとかグリルとか、好きな単語が続々。映像には典型的なアイリッシュの朝食が映し出されて、「この国でプディングというと、牛か豚の血を使った料理のことよ」とか、いろいろ解説をしてくれる。
クラスにはフランス、イタリア、ブラジル、コロンビア(アンジェラが同じクラスに)からの生徒。他の国の普通の朝ごはんを紹介し合ったり、ペアになってお互いの「これがないと生きていけない食べもの」について話したり。
「いま、お腹空いている? 空いてる人も空いてない人も、授業が終わったら空いてるわよ」と言っていたジェラルディンだけど、本当にそうなった。


驚くのは、アイルランドでもフランスでも、みんなパスタとピッツァが大好きだということ。私がペアになったフレンチ・ガールのシャーリーンも、パスタがないと生きていけない、と言っていた。
もう一コマは、ジュリアナという先生で、モロッコのマーケットの映像を観て、商人と旅人に分かれてロール・プレイング。テーマはバーゲン(値切り交渉のこと)! これも、私の得意分野では?値切って値切って、カーペットとカフタン(民族衣装)とシルバーのブレスレットを購入。なんだか得した気分。

 

新しいクラスにしてよかったーとホッとした気分で部屋を出ると、娘のクラスは、本国に帰ったり、クラスを替わった生徒が抜けて、二人になってしまったとか。
サウジアラビアからの留学生、アブドラとプライベートに近い授業を受け、休み時間にはスタバをご馳走になったとか。それもまた楽しそうだ。

f:id:lifeischallenge:20170802174445j:image 

晩ごはんはうどんが食べたくて、初の天ぷらに挑戦。スーパーバリューに油とさつまいもを買いにいくと、天ぷら粉を発見、これも購入。
海老はHowthで買ってきておいたのを解凍、さつまいも(切ってみたらほとんど安納芋だった)、玉ねぎ&人参とともに揚げる。品数は少ないけれど、十分だろう。うどんはやっぱりスーパーバリューで売っていた乾うどん。

アレクシは、初の天ぷら、初の麺つゆに挑戦。うどんを浸し、「うーん……グッド・テイスト。グッド・ソース」と“Mentuyu”とケータイにメモり、天ぷらを浸して「うーん……デリシャス!」。
食べられないと言っていた海老にも挑戦して、二つ食べ、天ぷらもうどんもあっという間に全部なくなったのだった。

 

前のシェアメイト、セシルに続き、アレクシも虜にした麺つゆ。
うどんと天ぷらと麺つゆは、パスタやピッツァに勝てるんじゃないか、と密かに思う。

 f:id:lifeischallenge:20170802174554j:image

 

 

青空マーケットでリベンジ?

f:id:lifeischallenge:20170731180530j:image

アイルランドの交通機関は車、バス、電車がメインで時々飛行機、フェリー。
地下鉄や新幹線はないし、電車もバスもそれほど本数は多くなく、ほとんど時間通りには来ない。
とくに日曜日は注意。ダン・レアリーからシティ・センター(ダブリン中心部)へ行く電車は始発が9時。バスも本数がぐっと減るので、朝イチ出発のシティセンター発日帰りツアーで6時半発なんていうのは、タクシーで行かないと間に合わない。

ジャイアント・コーズウェイ(北アイルランドにある巨大な六角形の石柱群)はとくに遠いので、日曜日は諦めて火曜日に予約。
今日は、近くの公園で毎週日曜日に開かれるマーケットに行くことに。

f:id:lifeischallenge:20170731181857j:image

ここに来るのは4週間ぶり。7月最初の日曜日、ダブリン中心部のアパートから引っ越してきた日以来だ。
その時はあまりにもたくさんの人がいて、パエリアと焼きそばを持ったまま、なぜか娘が泣いたのだった。
葉山の雰囲気に気圧された? まさか。
明日から学校が始まるプレッシャーや不安もあったらしい(中学時代の嫌な思い出を引きずっているところがある)。
その時とは一転、「リベンジしなくちゃ」と訳のわからないことを言って、何を食べようか物色し始める娘。
あなたの人生の半分、いや60%は食欲でできているのでは? と聞くと「そうだよ」と。

 f:id:lifeischallenge:20170731181935j:image

マーケットは大好きだ。赤ちゃん連れや犬連れ、いろいろな人々が食べものや雑貨を選んだり、食べたり、青空の下でくつろいでいるのを見ると嬉しくなる。
今日の人出は前回の半分くらい。7月の初めと終わりでこんなに違うのか。

 f:id:lifeischallenge:20170731182607j:image

ひと通り見て回り、さんざん迷ったあげく娘はたくさんの野菜と肉をチャパティみたいなのでくるっと巻いた「ラップ」と苺のタルトを買う。
私は嫌がられながらそれらを3口ずつもらい、テンプル・バーのフードマーケット(毎週土曜日開催)に出店していた自家製ヨーグルトの店を発見し、嬉しくなってベリー入りヨーグルトとサマーベリーのジャム(苺や木苺、ブラックベリーなどが混ざってる)、ズッキーニとトマトのチャツネを買う。€9.5。
手作りジャムの魅力にはなかなか勝てない。重くてとても日本には持って帰れないのに、そして貰い物のとっても美味しそうなジャムもあるのに、ついつい買ってしまう。
カゴいっぱいに詰めた野菜を買っている人もいたので、見るとオーガニックの野菜も売っている。ルッコラとズッキーニと尖ったキャベツを買って€4。

 

思い立って、というか、ちょっと可哀想になって、ひとり東京で犬と鳥の世話をしている夫にスカイプ。マーケットの様子を見せつつ話していると、「あら、あなた何語で喋っているの? 日本語? あ、邪魔しちゃったわね。ゴメンなさい」と夫婦連れが笑顔で。
アイルランドには日本人が少ないようで、ほとんど会わない。そして、「どこから?」と聞かれて、「ジャパン」と答えると、たいていの人が「美しい国よね。食べものも美味しいし」と言ってくれる。

f:id:lifeischallenge:20170731182307j:image 

ジェイムズ・ジョイスの生涯を漫画で描いた本と、オーガニックの牛肉と豚肉を一切れずつ買い、最後に長い行列が出来ている「初めてのロール・アイスクリーム」へ。
ベリーやキャラメル、塩など好きな味とトッピング2種類、ソース1種類を選んで注文すると、生の果物や生キャラメルを氷点下の台の上に置き、その上にカスタードソースをトロリと垂らして、凄い勢いで混ぜたりのばしたり。
最後にこびりついたもんじゃ焼きをすくい取る要領で、ヘラをツイーッと動かすと、見たこともないロールアイスクリームが(あるよね、ゴーフレットじゃなくて、こういう焼き菓子が。あ、シガールか!)。
容器に縦に詰めてトッピングとソースをかけて「お待ちどおさま」。

f:id:lifeischallenge:20170731182610j:image
一つ€5で決して安くはないけれど、魔法みたいな過程を目を開いたまま見ている子どもたちは、きっと一生忘れないんだろうな。
私たちも動画を撮ったり、待つ時間も含めて、初めての味を楽しんだ。

 

いったん家に戻ると、大家さんのアンが久しぶりにいて、初めてのお孫ちゃんの写真を見せてくれた。娘さんが産後体調が悪く、入院されたりもして、ほとんど家にいなかったアン。自分の仕事に加えて、来週末は息子さんの引っ越しの手伝いだとか。
来週末には3人のシェアメイトがやって来るので、もし家にいるなら迎えてあげてほしい、と。
シェアメイトは大歓迎だけど、3人でいっぱいいっぱいの小さなキッチンのことだけが不安だと話すと、階下の自分のキッチンを使っていいとのこと。
ゴミ出しの際に見てはいたが、レストランを経営しているアンのキッチンは素晴らしく、なんとコンロがガスだった。これでご飯を炊いたら美味しいはず、と嬉しくなる。

 f:id:lifeischallenge:20170731183105j:image

降り出した雨が上がるのを待ってシティセンターへ行き、ずっと欲しかったラジオを購入。グラフトン・ストリートでは若いバンド(というより子ども)がU2の「Every Breaking Wave」を演奏していて、人だかりが出来ていた。


夕飯は節約したいところだったけど、疲れてインディアン・レストランへ。スターターでタンドーリチキン、メインで海老のビリヤニを選んで注文(セットのほうが安かったので。これにビールが付いて€18.5)。

f:id:lifeischallenge:20170731182615j:image
お料理はとっても美味しかった。インド料理屋さんが2軒並んでいて迷ったあげく、赤いほうの店「Spice of India」(もう一つは緑で「The Jewel in the Crown」と言うゴージャスな名前だった)に入ったけれど、きっとどちらも美味しいんだろうな。
とくにビリヤニは、その昔イギリスで初めて食べて感動した米料理。やっぱりお米は美味しいなぁ。でも、お腹がいっぱいで半分くらい持ち帰りにしてもらう。
嫌がられるけれど、やっぱり私は娘の食べるものを少しもらって食べるくらいでいいかも。パンやチップスのおこぼれを待つカモメや鳩みたいに。

 

帰ってからラジオをつけたら、いい感じ。明日から毎日聴こう。

 f:id:lifeischallenge:20170731182513j:image

 

 

 

 

オジさんの笑顔は人を幸せにする

さて、1ヶ月経ったということは、私にはやらなければならないことがある。
それは髪を染めること。
いつもは美容院でお願いしているけれど、こちらで行くのはちょっと怖い。ヘナとインディゴ、そして保険としてシエロなど普通の酸性カラーも持ってきた。
できれば自然でトリートメント代わりにもなるヘナとインディゴで染めたかったけれど、時間がかかるので今回はシエロにする。
最近のは液ダレもしないし、随分手軽になったんだなぁと感心しながらバスルームで。シェアハウスなのでバスルームも共同のはずだったけど、この部屋はたまたまエンスイート(バスルーム付き)で、すごく助かる。

でも、憧れは染めることから解放されること。
晩年のリリアン・ギッシュみたいにシルバーヘアでひょこひょこ歩くオバアさんになりたい。
Pig-headed (習ったばかり! 視野が狭くて他人の意見に耳を貸さない人のことだそうだ)でもBig−head(そのまんま。自惚れ屋の偉そうな人のこと)でもなく、世界の不思議に目を輝かせ、子どもみたいに怒ったり泣いたり笑ったりできるオバアさんに。

f:id:lifeischallenge:20170730175102j:image

そんなこんなで遠出はやめて、午後からは地元の劇場に芝居を観に行く。
前回(『Every Brilliant Thing』)に続いて一人芝居。

数日間の公演だけどチケットは売り切れで、土曜のマチネーが追加に。昨晩オンラインでギリギリ、バルコニー席を確保したのだ。
ミュージカルならともかく、芝居がきついのは前回経験済み。テンポというかリズム重視だから、大事な台詞が聞き取れないし、知らない言葉もバンバン出てくる(っていうか、自分が普通に英語がダメなだけだけど)。
でも、SOLD OUTしている舞台がたまたま数席空いていて、家から15分の劇場で観られるのだから、と再チャレンジ。
娘もしぶしぶ付いてきた。

 f:id:lifeischallenge:20170730175145j:image

結論を先に言えば、前回以上にわからなかった!
最初のひと言“October, 1978”だけはハッキリ聞き取れたので期待したのだけれど、全然ダメ。でも、それでも、凄くいい舞台だった。
タイトルは『The Man in the Woman's Shoes』。
動物たちと一緒に暮らしている年老いた靴職人が、スライゴーの町(後から知った)を女性の靴を履いて歩き、町で知り合いやそうでない人たちに出会い、帰ってくる物語。
https://www.timeout.com/london/theatre/the-man-in-the-womans-shoes
https://www.civictheatre.ie/whats-on/the-man-in-the-womans-shoes/2017-03-24/

 

驚いたのは、動物たちの声やミツバチの羽音を表現する見事さ。ひとりで音響さん顔負けの音を巧みに創り出し、いったい何匹の牛や犬や羊がそこにいるんだろう?と思うほど。
何にもない平場の舞台が、農場に、小さな窓を持つ家に、フットボール観戦で賑わうまちに、早変わり。
風の音や平手打ちはもちろん、3人が同時に喋るシーンも見事で、情景がありありとそこに出現する。


後から調べてわかったのだけど、最初はスライゴーのアートフェスで上演したこの作品、スライゴーの住民たちや文学者、いろいろな人たちと話しながら創り上げたのだとか。
Mikel Murfiという役者さん、只者じゃない。
人見知りで人懐っこくてセンシティブで偏屈でイノセントで愛くるしい、アイリッシュらしいオジさんを見事に演じて、会場はしばしば爆笑の渦。
終わった後は、「ブラボー!」という言葉が飛び交って、全員がスタンディング・オベーション
私も、なぜか終わった後涙が出た。

 f:id:lifeischallenge:20170730175246j:image

客席を埋める多くは、普通の紳士淑女(つまり普通のオジさんオバさん)。劇場では毎日のように芝居や映画やコンサートが上演されていて、チケットは大人が€18、学生が€16。なんと来年2月にはエディ・リーダーのコンサートも控えてる。
中高年の男女が大声出して笑って泣いて、目いっぱい楽しんでいるのを見ると幸せな気持ちになる。とくに「オジさん」の愛らしさは、日本ではなかなか見ないものだ。

f:id:lifeischallenge:20170730175327j:image 

終わってから、空腹でどうしてもサンドイッチを食べたい、という娘と店探し。迷った末、前に一度ビールを飲んだパブに入ると、素敵な顔をしたカウンターのオジさん(あえてそう呼ぶ)が、「サンドイッチ? 何がいい? 好きなのをつくるよ」と。
チキンサラダ入りのサンドイッチ、スープ付きに加えて、勧められたビッグ・オニオンリングも頼むと、びっくりするくらいオシャレな一皿が運ばれてきた。

こういうのが食べたかった、と感動してサンドイッチを頬張る娘。ビッグ・オニオンリングも少し甘くて柔らかい衣が不思議に美味しい。


「気に入った?」とカウンター越しに先ほどのオジさん。いたずらっ子のような目で私たちを覗き込んで、嬉しそうに「よかった」と。

 f:id:lifeischallenge:20170730175419j:image

その後に立ち寄った薬屋さんでも、また素敵なオジさんが「日本から来たの? 今朝、日本の曲を聴いてたんだよ」と全く知らなかった音楽を紹介してくれて、またまた幸せな気分に。

https://youtu.be/nWCD9EtKPAY

 

オジさんの笑顔は人を幸せにする。間違いなく。

 f:id:lifeischallenge:20170730175646j:image

 (ジェイムズ・ジョイスはどうだったんだろう?)