55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

ボノの家と人魚の海


8月8日。
ダブリン滞在もほとんど折り返し地点。
一日一日が恐ろしいスピードで過ぎていく。

長いと思っていた90分の授業も意外と早く時間が過ぎる。いまのクラスは南米比率が高くて、コロンビア二人、ブラジル二人、ベネズエラ一人、スペイン一人にフランス二人。
偉いなぁと思うのは、コロンビアの二人(アンジェラとアナンダ)は二人の時も決して母国語(スペイン語)で話さないこと。遠く物価も高いアイルランドに来ている二人は、どちらも長期滞在で、英語への志も高い。

午前中の授業が終わって、アナンダがアンジェラに午後はどうするの? と聞いている。アンジェラはキライニー・ビーチへ行くと言う。アナンダが、「えっ? 泳ぐの? 」とびっくりした顔で聞くと「だって、夏が終わっちゃう」とアンジェラ。確かに。

ちょうどキライニーにボノの家でも見に行こうかと話していた私と娘は、じゃあ、もしかしたらビーチで会えるね、と言って別れる。
お昼ご飯は久しぶりに「Carluccio’s」という店にパスタを食べに。三度目。安心の美味しさに幸せな気分。ついワインとデザート(アフォガート)を頼んでしまい、€39。交通費を節約してもこれじゃ意味がない。

DART(電車)に乗って、キライニーへ。ボノの家を目指すのは三度目。今度こそ辿り着くはず。大家さんのアンに地図まで書いてもらったし。
キライニーの駅は海を眺められるようにできていて、ため息が出るほど綺麗な海が見えた。

ダン・レアリーを葉山だと思っていたけれど、ここはまさに葉山の一等地。アイルランドには珍しい砂浜の海を一望するように山側に大きなお屋敷が並んでいる。

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駅から5〜6分と聞いたので地図を見ながら歩いていたらなかなか着かず。通りすがりの紳士に尋ねると反対方向だった。誰もが間違いなく知っていて、ためらうことなく教えてくれる家。
背の高い木々が木陰をつくるなだらかな坂を昇っていくと、あった、ボノの家の正門が。

ロールスロイスでも出て来そうな重厚な門は固く閉ざされていて、防犯カメラも。木々は見えても家はかけらも見えない。門の前には木のメンテナンスの車とハウス・クリーニングの車が並んでいて、見ていると通用門から人が入っていった。

「あのクリーニング会社に勤めるとボノの家に入れるのかな」と娘。
一応塀に沿って歩いてみると、2軒先の家が売りに出されていた。こんなところに住めるなんてどういう人なんだろう、とまたため息。

防犯カメラの前で記念撮影をして、家の塀に沿った細い道を下ると海に出た。途中小さな通用門があって、ボノもここから海に出るに違いない、と完全にミーハーな気分になる。

海辺には丸い石と砂浜が広がっていて、アイルランドとは思えない。出会った男性が「あっちのほうがいいビーチだよ。それで、あの高台がボノの家だよ」と教えてくれる。そして「水温は14度。寒いよ」と。

時計を見ると4時。もうアンジェラは帰っちゃったかな、と話しつつ、娘がメッセージを送ると、すぐに返信があって、ちょうどいまビーチにいると言う。
しばらくすると水着姿の二人が近づいてきて、アンジェラとアナンダだった。
腰が引けていたアナンダも、意を決して来たようで、たじろぎながらも海へと向かう。
「勇気ある!」と励ましながら、まるで抵抗なく海に入っていくアンジェラ。
冷たい海に浮かぶ二人は、まるで人魚のよう。
犬を散歩させている人も多く、ほとんどの犬はリードなしで、時々海に入ったり、自由に歩いている。

また見つかった。
何が?
永遠が。
海と溶け合う太陽が。

ランボーの詩を思い出したりしてうっとりしていたら、「私も足だけ浸かろうかな」とジーンズをたくし上げ、海へと向かう娘の姿は、潮干狩りにしか見えなかった。

 

ナショナル・ボタニックガーデンでピクニック


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3連休最終日は、学校主催の遠足でウィックロウ・マウンテン・ツアーが企画されていた。
ウィックロウにはもう行ってしまったけれど、参加費は無料で、アレクシ(シェアメイト)やアブドラ(娘のクラスメイト)も行くらしい。二度行くのも悪くないかも、と思いつつ、それだと前のツアーの参加費(€27だったかな)がもったいないなぁ、というケチな思いも頭をもたげて、結局行かないことに。

 

エニスコーシーへの長距離バス代もけっこうかかったし、どこかお金を使わずに行ける場所はないものかと探したもののなかなか決まらず、結局朝に。
朝からバタバタ音が聞こえて、気がつけば玄関に残された靴は私たちのだけ。
昨夜到着したばかりのシェアメイトもみーんな出かけている!


昨日とは打って変わってお天気もよく、ウィックロウに行かなかったことを後悔したくないなぁ、とハッと思いついたのが、こないだアンジェラが行ったと言っていたボタニックガーデン。
国立だからお金もかからないはず、と調べてみたら、ダブリンの北西にあって、バスを一回乗り継げば行ける。この時期、花々が咲いていて綺麗に違いない。
早々に支度して家を出る。

 

バス停は家の目の前にあるのでとっても便利。でも、しまった、リープカード(SUICAみたいなプリペイドカードだけど、バス、電車、路面電車すべてに使えて割引もある)が切れたままだ。
現金だと割高なこともあるけれど、何より紙幣は使えないし、お釣りも出ない。
仕方なくダン・レアリーの駅まで歩いてチャージすることに。道すがら、ゼッケンを付けたランナーにすれ違う。時々メダルを下げた人にも。
何か大会でもあったのかなと思っていたら、ゼッケンを付け、メダルを下げたジョン(先生)が向こうからやって来た。


ダン・レアリー主催の10kmマラソンのようで、完走者はメダルがもらえるのだそうだ。
ジョイス・タワーまで一回行っただけ、その後ちっとも走っていないが、そんな大会があるなら参加してみたいなぁ。海辺の道は気持ち良さそうだ。

 

リープカードにも無事チャージが完了し、ダン・レアリーからバスに乗ろうと思ったら、いつものバスルートがなぜかストップしているという表示。
どうしようと佇んでいたら、バス停にいた人が、シティセンターに行くならあっちのバス停に来るバスで行けるよ、と教えてくれた。
こちらから尋ねなくても、困っていると必ず声をかけてくれる人がいるのがアイルランド。いつも感動する。

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バスを乗り換える時にサンドイッチと果物を買って、ナショナル・ボタニックガーデンへ。
着いた時には午後2時を過ぎていたけれど、夏場は日が長いので燦々と光が降り注いでいる。
入口で園全体のマップの写真を撮り、ぐるりと3時間以上かけて一周した。

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最盛期は過ぎたものの、ローズガーデンはまだまだ見事で、さまざまな薔薇が咲き乱れ、それぞれに芳しい香りを漂わせていた。

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園内には森、沼地、野原、オリエンタルな庭、サボテンやジャングルの林(温室)などがあり、どの植物もなんだか伸びやかで、歩くほどに気持ちが晴れ晴れとしてくる。

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途中、いいベンチを見つけてサンドイッチと果物を食べる。
お母さんとかくれんぼをしている女の子たちは妖精みたいで(怖くないやつ)、鳥は近くまでやってきて、リスは走り、緑を照らす光はしっとりと柔らかく、吸い込む空気は潤いに満ちて、細胞が浄化されるよう。

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ガイドブックには出てないし、アンジェラが教えてくれなかったら気がつかなかった植物園。来てよかったね、何といってもタダだしね、と娘と満足し合う。

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帰り道、どうしても一杯飲みたくなって、Ha’Penny Bridge のバス停で降りてパブへ。
パブのビールはどこでも大体一緒で、1パイントが€5.5〜6、ハーフで€3.7くらい。
カウンターで一杯買えば、どの席に座ってもいいし、何時間いてもいい(もちろん長くいればいるほど、ビールは飲んでしまうけれど)。
アイリッシュ・ラガーを1パイント注文して、テラスに近い端っこの席に座ったら、隣にギターが置いてあって、支度が始まった。

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「まずいよ、LIVEが始まったら帰れないよ」という娘を「1曲だけ聞こうよ」と説得。そのうちにLIVEが始まった。
私と娘はかぶりつきの最前席。
「音楽は好き?」とテラスの客にビールを運んだ帰りの店の主人に声をかけられ、「もちろん」と答えると、「踊る?」と手を広げる素振り。
「いやいや、それは……」と首を振ると、ちょっと残念そうに優しく背中を叩いてカウンターに戻っていった。

ニール・ヤングみたいなギターと歌はなかなか良くて、5曲たっぷり楽しんで幸せな気分でバスで帰宅。

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晩ごはんはお寿司。たまたま見つけた「KOKORO」というお店で買ってみたら、お醤油とわさびもたっぷり付いて美味しく、3連休の締めくくりにぴったり。

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それにしても夜の9時に、まだ誰も帰っていない。
到着した日の翌日から羽を伸ばし過ぎじゃない? フレンチ・ボーイズにイタリアン・ガール……と呟いたのは私ではなく娘だった。

 

 

3連休。新しいシェアメイトがやって来た

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今週末は珍しく3連休。
月曜日がBank Holidayで、祝日が少ないこの国では先生をはじめ国中が浮かれている感じ。ラジオからも何度もその言葉が出てきた。
せっかくだからどこかに遠出するのもいいなぁ、とも思いつつ、この時期宿も取りにくいし、出費が嵩むのも避けたい、と地味に過ごすことに。

 

5日(土曜日)は「アイルランド・フェスティバル・オブ・ネイションズ」というイベントがあると学校の掲示板に貼ってあったので、バスに乗ってシティセンターへ。
晴れていたのに、途中でものすごい雨が降り出して、ハネがバスの窓にまで上がるほど。

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着いた頃にはほとんど上がっていたけれど、出店者はどうやってこの雨を凌いだのだろう。
思ったよりこじんまりしたイベントで、何人かの女性たちがズンバを力強く踊っていた。最後に「Stop Poverty」のメッセージをみんなで掲げて終幕。

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その後はプラプラとテンプル・バーのフード・マーケットに向かい、パンとアップルパイを買って、The Norsemanというパブで遅いランチ。

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フィッシュ&チップスと今日のスープを注文し、二人で分ける。もちろんアイリッシュ・ペールエール(Ohara’s)は必須。フィッシュ&チップスを一人ずつ注文したかった娘に、散々文句を言われながら美味しく食べる。
アイリッシュ・パブの老舗の名にふさわしい、いい店だった。

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靴屋やレコード店をいくつか覗いて、約束の時間に間に合うよう帰宅。

約束というのは、大家さんのアンに代わって、新しいシェアメイトを迎えること。土曜日に一人、日曜日に二人やって来て、この家の住人は倍増することになっていた。
18時半着の便だから20時は過ぎるだろうと思っていたら、21時を回っても22時を回ってもやって来る気配はなし。
ドアの音に聞き耳を立て、時々窓の外を覗く娘は『家政婦は見た』状態に。


0時を回ったとき、あ、と思って出てみたらアレクシで、「大丈夫、今日は飲んでないから」と変な会話(昨日は珍しく酔っ払って帰ってきたアレクシだった)。
寝ようとする私を横目に諦めない娘は、昔、石立鉄男のドラマに出ていた冨士眞奈美を思い起こさせた。

 

結局、来るはずのシェアメイトは来ず、日曜日には朝からエニスコーシーという街で開かれる“Rockin’ Food Festival”へ。私の好きなものが二つも揃ったイベントはネットで見つけたもので、街の名も聞いたことがなかったけれど、バスを乗り継いで行ってみる。

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知らないバス停で降りて、人気のないモーターウェイをてくてく歩き、こんなバス停で長い時間待つのは嫌だなぁと思っていたら、珍しく定刻にバスがやってきた。
見ると、いつものダブリンバスではなく、ウェクスフォードバスという長距離バス。運転手さんに行き先を告げると、娘の顔を見て「学生?」と聞くので、「そうだよ。私もだけどね」というと、またおかしなことを……という風に頭をかかえられた(ハンドルに頭を埋めてた)。
学校の証明書を出すと、しぶしぶ「30ユーロ」。
二人で€30もするのか。やっぱり高いんだな、長距離バスは……と、昨日のイベントくらいの規模だとどうしよう……という不安が頭をもたげてくる。
バスを乗り継いでから1時間20分、古い橋と川、古城と教会が見えてきて、そこがエニスコーシーという街だった。

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小さな街が年に一度、今年は4日間かけて開催するフード・イベントで、なぜかロカビリー・バンドがセンターステージで演奏をし、大人はブギーを踊り、子どもは遊び、みんながやたら食べまくるというものだった。
小型の蒸気機関車を走らせるのかと思いきや、石炭をくべてラムやビーフやポークを焼きはじめたのにはびっくり。
ビーフハンバーガー(€6!安い)と巨大なソーセージ(これも€6)を食べ、地元の上面発酵ビールを1パイント飲んだら、雨も気にならなくなってきた。

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1798年、エニスコーシー城を使って行われた英国軍に反旗を翻した市民軍の戦いの再現ドラマは銃声の音や白煙も生々しく、街の人たちの熱演も圧巻だった。

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家に戻って、残りものの天ぷらととろろ昆布を載せてうどんを食べていたら、ドアの音が立て続けに2回。新しいシェアメイト、レオとクエンティンで、レオは昨日のフライトに乗り遅れて今日になったらしい。
昼間に着いたマレリーナはイタリアン・ガールで、一気に家の中が騒がしくなった。
みんなに部屋とバスルームの説明をする私は、まるで寮母さん。
間違われないようにしなくちゃ、と気持ちを引き締めながら、お腹が空いているというフレンチ・ボーイズに、チーズと苺のカナッペを出すのだった。

 

 

チョコレート・フライデーに胸がキュッとなる

新しいクラスの先生、ジェラルディンは、金曜日にちょっとしたテストをやって、優勝チームにはチョコレートをくれると聞いていた。
名付けて“チョコレート・フライデー”。
3チームに分かれて対戦し、私たちのチームが優勝、チョコをもらった。
わーい。

 

でも、金曜日はお別れの日でもあって、ローラも今週で帰ってしまう。
日本食が好きだと言っていたので、帰る前につくってあげられたらなと思い立ち、朝、メールを送ったら、今日の夜は大丈夫とのこと。
クラスが終わって、買い出しにいこうとしていたら、娘が大きなバトラーズのチョコの箱を抱えてやってきた。
クラスメイトのアブドラにもらったという。

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自分の誕生日のプレゼントを買いにダブリンに行った帰り、買ってきてみんなに(と言っても娘のクラスはアブドラと娘だけ)くれたらしい。

アブドラは今日が誕生日。昨日買った服を枕元に置いて寝て、今朝開いて「あ、ギフトだ」とハッピーになったのだとか。うーん、ちょっと胸がキュッとする。


帰りがけに会ったのでチョコの御礼と「ハッピーバースデー」を言ったら、にっこりといい笑顔。18歳になったばかりのアブドラは、英語は苦手そうだけどとってもジェントルマンで、ドアは必ず開けて待っていてくれるし、休み時間に行ったスタバでは、私にまでカフェラテを奢ってくれた。なんだか帰りたくなさそうな風情に「今日の夜は予定があるの?」と聞くと、とくにないとのこと。おまけに、ホストファミリーも旅行中で月曜日まで帰らないという。

 

「誘う? 誘う?」と娘。あのキッチンに4人、入るのだろうか?
不安はありつつ、どうにかなるかとアブドラも誘って、大急ぎで買い出しへ。うどんや玉ねぎ、海老や苺やアイスを買って超特急で用意した。
海老、さつまいも、ズッキーニ、ピーマンの天ぷら、玉ねぎと人参のかき揚げに、ざるうどん、そしてわかめ茶漬けを混ぜ込んだおにぎり。
アレクシが美味しいと言っていたので、3日前のごはんをほぼそのまま再現。

でも白飯はだんだん慣れてきて、これまでで一番美味しく炊けた。

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そのうち、ローラがやってきて、アブドラがやってきて、狭いキッチンはドアも開かないほど詰め詰めに。
アブドラはアルコール禁止(サウジアラビアは厳格なイスラム教で肉食も禁止)、ローラと娘も飲まないので、乾杯のビールは私だけ。
気がつけば3人とも18歳だ。

 

サウジアラビアは誕生日を特別に御祝いすることも、プレゼントもないそうで、それが当たり前とはいえ、ストイックな生活に頭が下がる思い。
歌をうたって、御祝いを言って、狭いテーブルに並べたごはんを食べた。
好きな音楽を紹介し合ったり(ローラはフレンチのラップを紹介してくれた)、you tuberを見せ合ったり、たわいもないことを話して、デザートは苺&アイスクリーム(乳製品もダメなアブドラは苺だけ)。

 

3日間連続で一緒に過ごしたローラと、これからも連絡を取り合って、いつかフランスか日本で会おうね、と約束して別れる。

ローラはこの後ホームタウンを出てパリへ引っ越し。

でも、わずか2週間でたくさん友達をつくったローラだから、きっと大丈夫だろう。
自分のために買ったトミー・ヒルフィガーのダウンベストを着てローラを送っていくアブドラの後ろ姿は、やっぱりジェントルマンだった。

 

二人が帰って、とっ散らかったキッチンを片付けて、娘とまったり。
娘にとってはアブドラと二人だけのクラスも今日まで。来週になるとまた新しい生徒が入ってくる。
サウジアラビアのことを調べてみると、政治も司法も風習も文化ももの凄く違っていて驚くのだけれど、普通の観光ヴィザではまず入れない国らしい。
そうなんだ……。
あと1ヶ月一緒だけど、別れるときを想像すると、早くも胸がキュッとなる二人だった。

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「Bistro73」とマクドナルド〜若者たちの食欲と希望と

食いしん坊のローラ(日本語を勉強中のフレンチ・ガール。18歳)に誘ってもらって「Bistro73」という店へ。
「ジェラルディンやジョンが先週末お疲れ様会で行ったところだよ。凄くナイスらしいよ」と娘。
ビストロというからにはフレンチの店なのかなと思ったら、アイリッシュだとローラは言う。グルメ・サイトで調べたそうだ。
学校の前で待ち合わせ、アレクシ(シェアメイトのフレンチ・ボーイ。23歳)、ブルーノ(同じクラスのフレンチ・ボーイ。たぶん十代)、ポール(初めて会うスパニッシュ・ボーイ。年齢不詳。たぶん十代)と6人でお店へ。

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素敵なオジさんが美味しいサンドイッチとスープとビッグオニオンリングを出してくれたパブの2階。
ドアを開けると、パブとは全然違うモノトーンのスタイリッシュな内装が、ビストロ感を高めている。シャツにベストの細身のマスターがメニューを持ってきてくれて、いかにも高そう……と思いきや、€10を超えるものはほとんどないリーズナブルな料理が並んでる。
食材、調理法ともに、お洒落で美味しそう。

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私はランゴスティーニを注文。ブルーノはTで始まる白身魚の蒸したのを(名前、忘れた)。ローラはラムのゆっくり煮、ポールはミートボール・シチュウ、アレクシと娘はポークのクロケット(コロッケ。でも、日本のとは違う)を注文。

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料理の前にデミタスカップのスープと小さなもっちりしたパンが出てきて、またまたお洒落。でも、スマートなマスター以外に従業員らしき人の姿はなく、一人でやっているのかねー? と、みんなやや不安顔に。


やや時間があって、料理が登場。ブルーノの白身魚はとっても美味しそう。私は思ったのをちょっと違っていたけれど、まあ美味しかった。

他の皿からも少しいただいて食べてみたら、どれも手がかかっていて繊細で、いい感じ。

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でも、なんだかみんなの顔が今ひとつ明るくない。
そのうちローラが「みんな、お腹空いてない? フライがあったらなー」と。
若者たちには量が足りないらしい。
私にも「お腹いっぱいになった?」と聞くので、「デザートがあればね」と答え、デザート・メニューを頼んだら、メイン料理を同じくらいの値段。
シブい顔の若者たちに、別の店で食べることを提案したらみんな大賛成。
そのうちに、隣のテーブルに巨大なハンバーガーが運ばれてきて、みんな「?」。
そんなメニュー、あったっけ? 実は、下のパブと繋がってるんじゃない? と私。

 

ブルーノと私以外は飲み物も頼んでいない客に、マスターは嫌な顔一つせず、最後にはミニ・アイリッシュ・コーヒーを出してくれた。
ウィスキーたっぷりで、これもとっても美味しかった。
帰りがけ、ポールの名前を聞いたマスターが、さっと手を差し伸べて「僕もポールなんだ」と。
実はフランスからの移住者なのだとか。
若者たちにはともかく、量も味も私にはいい店だった。また来よう。

 

その後に入ったのは、マクドナルド。
ひゃー。でも、ま、いいか、と初めてアイスクリームを注文。
娘は帰ってから美味しいヨーグルト・アイスを家で食べるんだと言って何も注文せず。こういうところはとっても頑固。

みんなはオレオ入りのアイスをパクパク、アレクシに至ってはブリトーみたいなラップサンドを食べていた。

 

将来何を勉強する? 何になりたい? という会話を聞きながら、若いって素敵だなぁ、と思う。

とくに男の子たちの真っ直ぐで、その分ちょっとおバカな感じは『木更津キャッツアイ』を思い出させる。
お金がなくても、自信がなくても、自分の前に道がすーっと伸びていて、見たこともない景色がそこにある期待と少しの不安が入り混じった感じ。

食事中、初めて福島原発の事故の話をしたのだけど、コンピュータ技師志望のアレクシは、フランスの原発の制御ルームを見にいったことがあるという。
驚いたのは、40年も前のコンピュータ・システムを使っていたことなのだとか。
システムを変えるには何度もチェックする必要があって、原発を止めることになるからやらないのだ、と。
もし、自分がそういう企業で働くことになったら、新しいシステムに変えたい、と。
エネルギーの4分の3を原発に頼る国で、安全なのだと信じたい思いと不安とが一瞬交錯して見えて、胸がキュッとなった。
ポールはこの時代に文学を学んでいるそうだ。

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安全な国、安全な地域なんてどこにもないこの小さな地球の上で、私がいなくなった後も、若者たちが希望を失ったり、お腹を空かせたりすることがありませんように。

 

雨が降り出した帰り道、貸してあげた小さな傘でくっつくように歩いていくアレクシとポールの後ろ姿を見つめながら、家までの道を歩いた。

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アイリッシュ・ダンシングの熱い夜

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慣れてきたのか、だれてきたのか、90分の授業が短く感じられるようになってきたこの頃。
イタリアンが集結していた前のクラスとは違い、いまのクラスはフランス、ブラジル、スペイン、コロンビア、イタリアからの留学生で、アクセントもそれぞれに違って面白い。
正直、聞き取りにくいこともあるけれど、お互いの国の食事や風習の違いにも触れられる。

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昨日はジェラルディン(先生)も休みだったそうで、急に歯医者に行くことになったそう。何かを食べたとき、歯がブレイク(!)したそうで、歯医者で€500(約6万5000円)とられたと悔しがっていた。
歯医者をはじめ、医療費は高いらしい。ついでに家賃もめちゃくちゃ高く、独立するのは大変だそうだ(平均€1500もするのだそうだ!)。

 

ジェラルディンの授業は未来形について。
“will”と“be going to”と“be 〜ing”の違いを学ぶ。
こういうの、高校か大学で習ったのかな。あまり記憶にはないけれど、けっこう違いがあって興味深い。

“will”はいま思いついたことを言う時に使う。偶発的な未来形だから意思を伴う。
相手と約束する時や、いま思いついたプランを話す時、そして感情的な(根拠のない)予想をする時。
「電話に出るわ」というのは間違いなくこれ。

“be going to”は、予め考えていたことや、根拠のある予想をする時に使う。
だから今晩の食事や映画の誘いを断る時などは、こっちを使うほうがいい。
天気予報で言ってたから雨が降るよ、と伝える時もこれ。

“be 〜ing”は、オーガナイズされて、他者とコミュニケーションも取って決まっている計画について話す時に使う。
チケットも持っているコンサートに行く時や結婚式などはこれ。

誘いを断る時はwillを使わないほうがいい、というのは何かの本で読んだけれど、こんなに違いがあるのか。でも、ただでさえ言葉が出てこないのに、あんまり考えるとよけいに出なくなるなー。

 

ジュリアナ(先生)の授業では、身体の部分が含まれるイディオムを習う。
“head over heels”は「首ったけ」という意味で、なんとなくわかるが、“have cold feet” は「一度は決めたことに迷いが生じる、ためらう」ことらしい。足がすくむ、という感じに近いのかな。“Break a leg!”は“Good luck!”の意味で、“pull one’s leg”は“make a joke to someone”。こうなるとなんだかわからない。
ちなみに“feel butterflies in one’s stomach”は、試験や恋愛や大事な局面を前にドキドキすることだそうだ。

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授業の後は、スープとチップスを少し食べて、学校主催の遠足で「アイリッシュ・ダンシング」。
『リヴァーダンス』みたいなアイリッシュ・ダンスのショウが€7(900円くらい)で観られるならいいじゃん、とノリの悪い娘を誘い、クリフウォークでも一緒だったイタリアン・ガールズやローラ(日本語を勉強中のフランチ・ガール)、トニー(ローラの友達)も一緒に、女子ばかり12人でシティセンターのグランド・ソーシャル・クラブへ。

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パブがいくつか合体したような大きな店にはいろいろなスペースがあって、サリー(引率)について行くとローカルな社交場のようなフロアに出た。

早速ビールを注文。オハラズというアイリッシュ・ペールエール、とても美味しい。
そのうち、集まった客はフロアの中央に呼び込まれ、アイリッシュ・ダンスの講習が始まった。ショウじゃなく、自分たちが踊るほうのダンスだった!

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娘はぐぐっと後ずさり、せっかくだからと私は参加。一緒に来た女子学生とペアになってフォークダンスの激しいバージョンみたいなステップを踏んでいたら、楽しくなってきた。

ダンスって、互いの距離を近くする。

そして、頭のごちゃごちゃを遠心力で吹っ飛ばしてくれる。


ビールとダンスで頭はグルグル、すっかり疲れて帰りのバスに乗ったら、ローラとトニーが「お腹空いた〜」。
娘の持っていたチョコをみんなで分けて、食べものの話をしながら家へ。
「帰ったら何を食べるの?」
「ラーメンかな。ローラは?」
「パスタかな」
どこでも、いつでも、女の子はお腹が空く生きものなのだ。

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巨人のオルガン、巨人のブーツ。大自然がつくった遊び場、ジャイアンツ・コーズウェイ

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8月1日のワンデイ・ツアー@北アイルランド、午後はジャイアンツ・コーズウェイ&キャリック・ア・リード吊り橋へ。
ベルファストの風景から一転、バスは絵本に出てくるような牧歌的な風景を次々に見せながら進んでいく。

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ダンルース・キャッスルを遠目に見て、一路バスは北へ。

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約6100万年前(!)に膨大なマグマが流れ出して溶岩台地ができたうえに、5800万年前にさらに噴き出したマグマが重なり、堆積物が層をなした上に、1万5000年前に大規模な氷河が覆い、長い歳月をかけて氷河が台地を削り、海水が凍ってできた氷が岩肌を磨くように削っていき、その結果、古い溶岩台地の地肌が露出したものが、ジャイアンツ・コーズウェイなのだそうだ(「地球の歩き方」より)。
こんな解説を読んでもピンとこないけれど、実際目の当たりにすると、なんで? どうしたら、こんな風になるの? と思わずにはいられない。

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高い山も火山もないアイルランドは西に行くほど岩肌が露出し、モハーのような見事な断崖絶壁を見せてくれるのだけれど、この奇岩群の迫力と異様さは想像を超える。
写真では捉えられない圧倒的な大きさは「巨人がつくった」と言われてやっと納得するほど。
「巨人のオルガン」と呼ばれる六角柱の石群は天へ屹立し、海岸に広がる石は一つ一つが見事なまでに六角形で、ハチの巣に代表されるそのカタチの不思議に圧倒される。

晴れていたら、ケンケンパーがしたいくらい。

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あいにく天気予報通り、ジャイアンツ・コーズウェイに着くやいなや土砂降り。
ベビーカーの子どもも見事なまでに濡れているが、かまわずみんな歩いている。

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断崖に沿った遊歩道を歩く。空はどんより曇っているのに海は青い。崖に張りつくように咲いている花々。雨もだんだん気にならなくなってくる。バスの時間があるので途中で引き返さなければいけないのが残念。

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「巨人のブーツ」と言われる石に乗って写真を撮る女の子、突き出した石柱の上に犬を2匹連れて登っている男の子もいた。

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またバスで移動して、キャリック・ア・リード吊り橋へ。
窓の外にはたくさんの牛や羊、山羊が見え、緑が層を成している。
バスを降りて約20分、1kmほど歩くと「怖いよー」とみんなが言う20mほどのロープの吊り橋。いっぺんには渡れないので、順番待ち。歩くとあっという間で、そんなに怖くもない。

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吊り橋よりも、渡った小さな島から見える景色が圧巻で、紺碧からエメラルドグリーンに層をなす海の色、断崖で羽を休めるカモメたち、沖合に見える台形の島が本当に綺麗。

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「あの島に島流しにあったらどうする?」「よく無人島に持っていきたい1枚、とか好きなアルバムを選ばせたりするけど、役に立たないよねー」とか娘と話していると、ようやく雨が上がって青空が見えてきた。

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 実はこの島、ラスリン島というバードウォッチャーには有名な島らしく、ゲストハウスや郵便局もあるとか。でも、基本的には鳥たちの島で、パフィンなどの海鳥やアザラシも見られるらしい。いつか行ってみたい気もするけれど、行ってはいけない気もしつつ、写真を何枚撮っても収められない景色を後にする。

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靴もジーンズもずぶ濡れ、ランチもほとんど食べられなかったけど、来てよかったなーとぼんやり外を眺めていると、虹!
見たこともないほど鮮やかな七色の虹が、袂からくっきりと半円形を描いていた。

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