55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

時を通り越してしまったまち、ダングロー

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Dungloeというまちを、どんな風に語ればいいのだろう。
ダブリンからゴールウェイまではバスでも電車でも行くことができる。でも、ゴールウェイからドニゴールに行くにはバスか車だけ。そしてカウンティ・ドニゴールの中心地、ドニゴール・タウンからバスで行ける最終地点がDungloe(ダングロー)。

そこは、あるミュージシャンが“There is nothing, but there is everything” と言ったまち。
「まちの中心には通りが一本あって、そこへ降り立つとすぐに誰かに見つかる。そして、あっという間に町中の人に知れ渡り、その先3日間のスケジュールが決められてしまう」とライヴの時に言っていた。
そのまちの名を、ドニゴール出身のジェラルディン(語学学校の先生)に尋ねたら、「もちろん知ってる。だって、私のホームタウンだもの」と言われて、びっくりしたのがひと月近く前。
予定していた宿をキャンセルし、Dungloe にある“The River House”というB&Bに一泊することにしたのだった。

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ガイドブックには載っていないし、ドニゴール・タウンからのバスは一日に3本。Abbey Hotelの前で待っていたら、やって来たのは古いマイクロバスだった。
そこから約1時間半。グレンヴェー国立公園から帰ってくるときに通った道を戻るようにバスは進んだ。

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道は岩だらけでアップダウンが激しく、とにかく揺れる。娘は相当気持ち悪そうにしている。
私はその荒涼とした風景を眺めながら、そのミュージシャンの音楽をずっと聴いていた。言葉も、ギターの音の一粒一粒も、その風景にぴったり過ぎて怖いくらい。

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行けども行けども何もない。岩だらけの大地と水たまりのような湖と低い山と空と雲があるだけ。
バスのドライバーに“Last stop” と言われて降りると、一本だけある道の真ん中だった。ああ、ここがあの通りか。

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すっかり気持ちが悪くなった娘がとにかく休みたい、というので、カフェに入る。サンドイッチもパスタもハンバーガーもソフトクリームも何でもある店。古いロードムービーに出て来そうな。
私は外に出て、Beedy’s Barを探す。2軒先にその店はあった。

一服してB&Bになんとか辿り着く。

背が高くショートヘアが似合う主人は、何の手続きもなく、部屋に案内してくれる。

古い写真があちこちに飾ってあり、いつ頃の写真?と聞くと「100年前。ほとんど変わってないけど」。

 

部屋に入ると、娘の体調はますます悪化。バスに酔ったのか、はたまたアンジェラに飲まされたシードルのせいか、シーフードの食べ過ぎか。嘔吐と下痢でトイレを行ったり来たり。
しばらく背中をさすっていたが、このままここで一晩過ごしてしまうと、何のためにこのまちに来たのかわからない。
「気持ち悪い……」と言いながら「行ってきていいよ、あのBar」と娘。「行かないと、何のためにここに来たのかわかんないじゃん」と。

「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるね」
少し落ち着いたように見える娘を部屋に残し、Beedy's Barのドアを開けると、女主人らしき女性がいて、バーカウンターは男たちで埋まっていた。

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ギネスを注文して、ミュージシャンの名前を言うと、「もちろん。春にも来たばかり」。
昼から何も食べていなかったので、「何か食べるものある?」と尋ねると、「2軒先にカフェがあるから何でも持ち込んでいい」と。
カフェでチキンウィングとサラダを買って戻ってくると、親しげな笑みを浮かべた男性がギネスとスマホ片手にやってきた。「春にそこのソファで演奏した時の映像だよ」。
その小さなバーで、4人のギタリストがセッションしている。日本語で歌っているが、ドニゴールの歌だ。
ブレンダンという男性は、「僕は彼を知っているけど、彼は僕を知らない」と言い、一生懸命映像を送ってくれようとするのだけれど、容量が大き過ぎて送れない。
そのうちに、その映像に映っているギタリストの一人がギネス片手にやって来た。
ダックランという名前で、「彼とはいつ知り合ったの?」と尋ねると、「うーん……20年以上前かな」。


ダックランに「彼」の最新MVを見せると、「ああ、ここはあそこだ。この山があそこで……いま通り過ぎたのは僕の友人の家」。ほとんど道しか映っていないのに、「彼が撮ったんだろう? わかるわかる」と。

彼はかつてGoats Don't Shaveというバンドをやっていて、いまは気ままなミュージシャン。紙巻き煙草とバイクが好きで、明日フェリーでフランスに渡り、スペインをぐるりとツーリングするという。
「いつまでいるの?」と聞かれて、明日にはアーダラに行くと言ったら、「ああ、編み物が好きなんだ。あ、織物か」と興味なさそうな様子。そして、2杯目のギネスを奢ってくれた。
「スロンチャ!」とゲール語で乾杯。

Barには家族連れもいて、男の子がアカペラで歌うとみんなシーンと聴き入って、終わると拍手の渦。Barが一つの家みたい。
ふらりと訪れたのに、ちゃんと会える人には会えるまち。
たぶん20年前も30年前も、ほとんど変わらずここにこうしてあったのだろう。
遠い地の果てのような、隣のまちのような。
知らない人ばかりなのに、みんな昔から知っていたような。

時が止まったというよりは、時を通り越してしまったような、不思議な夜だった。

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部屋に戻ると、「どうだった?」と娘。
良かったよ、と答えると、「なら、よかった」。
私がいない間にも何度か吐いたらしく、完全なデトックス・モード。
背中をさすって、テルミー(お灸みたいなの)をして、そして眠りについた。

リヴァーハウスのベッドは、とても寝心地がよかった。

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ドニゴールの長く温かい一日〜グレンヴェー国立公園からスリーヴ・リーグへ〜

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朝起きると、昨日までの雨が嘘のような青空。
これは、アンジェラの力かも。モハーの断崖に行った時もそうだった。アンジェラが「もう少ししたら晴れるから」と言ったら雲が流れていった。ダン・レアリーの海岸でアイスを一緒に食べていたら虹が出た。
アイルランドには、国立公園が13あって、その中でも最もダブリンから遠いのがグレンヴェー国立公園。私たちが行く予定だと知って、忙しい中やって来たのだった。
「日本の国立公園はいくつあるの?」と聞かれて、答えに困る私たち。コロンビアには53あるそうで、日本は調べたら33だった。

9時半に昨日交渉したフランシス・ヘンリー(タクシー・ドライバー)さんが来てくれて、アンジェラの泊まっている家まで迎えにいく。
Airbnbというサイトで探した宿で、ホストファミリーのように家の一部を貸してくれているらしい。
岬の先端で「部屋は広々、お姫様みたいなの」と言っていたので、それらしき家を探すと、凄いところへ行き着いた。

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鏡面のような湖(実際には運河)に佇むお城のような。鳥たちの囀りしか聞こえない。長いエントランスを抜けてやってくるのをしばらく待ったが、そこは閉館したホテルだった。

別の家でピックアップして、果物や飲み物を買いにスーパーに寄る。ドニゴールを移動するときは、食べ物・飲み物持参でね、とジェラルディン(ドニゴール出身の先生)に聞いたから。
果物を選んでいるとき、ふと、オーガニック人参が目に入り、フェニックス・パークを思い出す。グレンヴェー国立公園には野生の鹿がたくさんいるという。もし、遭遇したら、人参を持っているといいのでは?
アンジェラに尋ねると、“Yes!”と即決。果物やクロワッサン、人参を買って、いざ目的地へ。

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グレンヴェーまでは随分遠かった。フランシスは1時間と言っていたけれど、随分飛ばして1時間半。低い山々が広がる雄大で荒涼とした風景は、まさに手つかずの自然。
アイルランドの中でも最後まで氷河に包まれていた地域で、草木が生え出して1万年くらいしか経っていないらしい。
「自転車でも行けるのかしら?」といきなりフランシスに尋ねるアンジェラ。
本当はタクシーを貸し切るなんてしたくなくて(too expensive! と言っていた)、自分はバスで行く、と最後まで言っていたのだった。
最寄りの観光拠点、レタケニーまで行くバスはあっても、グレンヴェーまでのバスはない。車がなければツアーに参加するしかない。そのツアーもこの時期日曜日しかやっていないから、タクシーで行くしかない、と説明しても、最後まで“Let me try”と。

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“You can,……but it's high risk”とフランシス。確かに。道は荒野に一本線を引いてみたいなものだし、岩だらけで起伏もハンパない。

ビジターセンターからグレンヴェー城までは4km。時間もないのでシャトルバスに乗ったけれど(往復大人€3、学生€2)、アンジェラは歩いて行きたそうだった。

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湖に沿ってバスは行く。ひたひたに注いだグラスの表面みたいにたっぷりと澄んだ水を湛えている。
大した距離はなく到着。広大な自然の真ん中に、物語に出てきそうなお城。庭は整えられていて、食べられる植物がたくさんあった。そして、顔を出したのはクックロビン。

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この公園はアイルランドの中でもとびきり空気が澄んでいて、珍しい高原植物や蝶も見られるという。
鹿やキツネも棲んでいるが、フランシスが言ったように“They hate us”で、人参の出番はなかった。

城の周りを小1時間ハイキングして、岩の上でジャンプして写真を撮ったりした後(もちろん、ジャンプしたのはアンジェラだけ)、小高い丘で買ってきた果物やパンを食べる。こういうところで食べたいのはやっぱりおにぎりだなぁ、と思いながら。

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植物や岩、雲や風がダイナミックに本来の姿をさらしていて、「観光地化されていないのがドニゴールのいいところ」というジェラルディンの言葉が蘇った。

もっとここにいたい、と言うアンジェラを促して14時には出発。スリーヴ・リーグにも行くので長居はできない。
そこからがまた遠かった。2時間たっぷり。ほとんど何もない大地にほとんど往きかう車もない道を行く。ロードムービーのように、時速100kmでぐんぐんと。

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ところどころに、絵の中の風景のような家。
まるで終わりがないような、岩と水たまりのような湖だらけの風景を超え、スリーヴ・リーグに到着。途中のパーキングを通り越して、頂上近くまで行ってくれた。

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崖のそばには羊。壊れた囲いの中で草を喰む。
600mというアイルランド一度高いスリーヴ・リーグから大西洋を臨む。

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口数は多くないのに、とても温かく穏やかでチョコやナッツを勧めると喜んで食べてくれるフランシスに「写真撮ってもいい?」と尋ねると、車を降り、岩の上に乗ってくれた。

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スリーヴ・リーグを去ろうとした瞬間に見つけたのは見事な虹。アンジェラ・パワー、恐るべし。

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すっかり帰宅予定の17時を過ぎ、家路を急いでいると「人参、持ってる?」とアンジェラ。
私のリュックに入っていた人参を袋ごと渡すと、一本取り出し、「食べる?」。
なぜか左手にはオニオンディップを持っている。
タクシーの中で人参をポリポリ食べる女3人。“We are deers.”
“Francis, you can't eat carrots. Because it's high risk!”とアンジェラ。

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ドニゴール・タウンに戻ると18時半。
メーターを見ると€360くらいになっていたけれど、約束の€180に少し加えた€200でいいよ、とフランシス。急かすことも嫌な顔をすることも一度もなくつき合ってくれたフランシスをはじめ、人が親切過ぎてびっくりのドニゴール。
締め括りは、そーっと覗いた瞬間に“Come on!”と呼び込まれたBarでのLive。ギターのショーンとマンドリンのバリー。「ドニゴール・ソング」に「ゴールウェイ・ガール」を聴きながら“Out Cider”という名のシードルを“Sip!”と娘に勧めるアンジェラ。
「どっちが目が小さい? コロンビア人はみんな目が大きいから、私はよくジャパニーズ?と聞かれるんだけど」
「もちろん娘だよ、ほら」と二人が写っている写真を見せて、“No eyes”と言うと、“Just two lines!”と大笑いするアンジェラ。“No!”と娘。
酔っ払っているのか、いないのか。
気がつくと、ホールと思った店内はそのまま外と繋がっていた。でも、そこは芯からあったかかった。

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ドニゴールへ。そして、再会

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今日はドニゴールへの移動日。
学校を終えた後、タラモア、ゴールウェイ、そしてドニゴールを回ることは半年前に決めていた。
実はドニゴールはこの旅のハイライト。というのも、「ダブリンは素通りOK。ドニゴールへ行きなさい」というのが、アイルランドを愛してやまない友人のアドバイスだったから。
語学学校の先生、ジェラルディンもドニゴール出身。
「“Touristic”でないのがいい」という言葉通り、鉄道はなく、バスの便も少ない。
「何もないけれど、何もかもがある」という友人の言葉を確かめたくて、ゴールウェイからバスに乗り、4時間半揺られながら景色を見入る。

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ちょうど中間にあるスライゴー。
マーサとジルが海辺で乗馬を楽しんだと言った場所。
アイルランドを代表する詩人、W.B.Yeatsの壁画を眺め、見事な台形の形で知られるベンブルベンを通り過ぎる。
Voya という海藻風呂でも有名なスライゴー、一泊したかったけれど、どうしても日程がつくれなかった。また、いつか。

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ドニゴールに近づくにつれ、なぜかノスタルジーをかきたてられる。初めて訪れるのに、懐かしい、
子どもの頃、田舎で過ごしたのに、別の「田舎」に憧れていた。それを形にしたような風景。

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ドニゴール・タウンに着いたのが16時半。
予約したドニゴール・マナーハウスまでは2.4km。バスが到着したAbbey Hotelの前に並んでいたタクシーを拾う。
そして、グレンヴェー国立公園に行くとしたら、幾らくらいかかる? と尋ねる。ドニゴール・ツアーズという会社が日・木で1day tourが催行していて、それに参加するつもりだったのが、9月も後半に入ると日曜日だけになっていた。とにかくツーリステッィクじゃないので、公共交通機関では行けない場所。
ドライバーいわく「ハイヤーは1時間€40が基本。グレンヴェーまでは往復2時間、2時間滞在するとして€160だけど、€140にまけるよ」。
「スリーヴ・リーグ(大断崖)も一緒に行ける?」と尋ねると、ちょうど三角形だから、そこに1時間滞在するとして6時間半から7時間、€190で行ってくれると言う。
€180にまけてくれる? とお願いするとOKとのことで交渉成立。ツアー参加費がグレンヴェー国立公園とスリーヴ・リーグ、それぞれ€34だったから、一人€60は悪くないだろう。

なぜ一人€60かと言うと、語学学校のクラスメイトだったアンジェラが合流することになっていたから。
最初はゴールウェイに行きたいと言っていたのが、バイトの都合でドニゴールで合流することに。
ダブリンからドニゴールは直行バスで3.5時間。ゴールウェイからより早いのだ。

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ドニゴール城の前でアンジェラに再会。雨の中、傘もささずに白いパーカを被ったアンジェラは、相変わらず野生の鹿のよう。
ギリギリまで来るのか来ないのかわからず、やきもきしたけれど、会えてよかった。
城の隣にある“Old Castle Bar”で乾杯。最近の学校の様子を尋ねると、学校はスパニッシュ・インヴェイジョンにもイタリアン・インヴェイジョンにも負けずに落ち着きを取り戻し、アブドラに続くサウジアラビアからの生徒が新しいクラスメイトになったとか。

まだ2週間も経っていないのに、同窓会の気分。

ドニゴールの地ビールは美味しかった。

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The G Hotelでセレブな気分?

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ゴールウェイ3日目。
この旅の中で唯一の五つ星ホテルに泊まる日。というのも、このホテルを予約したのは半年前。ちょうど高校の卒業式の日で、つい気が大きくなって、一泊くらい……と予約してしまったのだった。ダブルルーム朝食付きで€180。内装に凝ったデザイナーズ・ホテルで、ゴージャスなスパもあることを考えるとリーズナブルでは、と。
とはいえ、無駄な出費は極力避けたい。ホステルから2km、上り坂をズルズルとスーツケースを引いて歩いてチェックイン。レセプションもツンとしたところがまるでなくフレンドリーなのがアイルランドという感じ。

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3つあるラウンジは、白、ピンク、紫とまるで違うスペースになっていてお洒落。
「どうぞ家のように寛いでね。何か注文しなくちゃ、と思う必要なんてないから」とレセプションの女性。写真を撮っていたら、プロのカメラマンらしき人が登場して、メダルを下げた女性の記念撮影をしていた。

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荷物を置いてゴールウェイの街をブラブラ。
The Quayというバーで昨日食べられなかったオイスターを注文。
いわゆるゴールウェイ・オイスターとは違う岩牡蠣かな。でも、美味しい。「ギネスと岩牡蠣は合うんだよ」とジョン(語学学校の先生)が言っていたことを思い出して、ギネスと一緒に。

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クラダリングの老舗に寄って、アランセーターのお店も覗く。
ストリート・ミュージシャンはギターの弾き語りが殆どで、ちょっと70年代のテイスト。ダブリンよりも軽やかな風が吹いている感じだ。

夕方からESPAというG Hotel自慢のスパの予約をしていたので早めに戻る。でも、ホテルのスパなんて行ったことがないので勝手がわからない。
レセプションで何を持っていけばいいかを聞いたら、「バスローブに着替えてどうぞ」と。スパと言っても、トリートメントは高いので、私たちが予約したのはジャグジーだけ。
「水着は着るの?」と聞くと、ご自由に、という返事。うーん。
水着の上にバスローブを羽織ってみたら、妙な格好。こんな格好でホテルをうろうろしたら温泉旅館じゃないか。バスローブは脱ぎ、水着の上に服を着て、バスローブ持参でスパへ。

スパの受付はセレブな雰囲気。既往症のチェックカードを記入して、ジャグジー&スパに案内される。暗くてゴージャスな雰囲気。誰も入ってない。ひょっとして、水着なんていらないのでは?
「水着なしで入るなんて考えられない」と言う娘。サッパリしたい私は「逆に着てたら恥ずかしいかもよ」。
迷った挙句、いったん脱いでバスローブを羽織り直し、通りがかったスタッフの女性に恐る恐る聞いてみる。
“Should I wear the swimsuits?”
この時のスタッフの女性の顔が忘れられない。
“You have to!”

はい、温泉じゃないんだからね。
もう一度水着を着てジャグジーに行くと、男性客が入っていて、一安心。
温泉とは違って、ぬるくて泳ぎたくなるジャグジーと暑くて5分も入っていられないサウナ(ミストとドライあり)を行ったり来たり。
ああ、温泉にゆっくり浸かりたい……と、セレブになれない日本人なのだった。

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アラン諸島へ。3000年前につくられた砦“ドゥン・エンガス”から眺める大西洋は穏やかに煌めいていた

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今日はアイルランドに来ることを決めてからずっと憧れていたアラン諸島へ上陸する日。
司馬遼太郎の『街道をゆく〜愛蘭土紀行』にもある けれど、かつてアラン諸島の3つの島、イニシュモア、イニシュマーン、イニシィアは、漁に出るのも、海を渡って本島に行くのも、命懸けのところだった。
海で亡くなった男たちが自分の夫や父、兄弟だと判別するためにそれぞれ違う模様を編み込んだのがアラン・セーターの始まり。一つ一つの模様には意味があって、無事を祈る気持ちも一緒に織り込まれている。
おまけに、石灰質の岩盤で出来た島には土がなく、強風で土が飛ばされないように石塀をつくって畑を囲み、岩を砕いて海藻を混ぜ、粘土を敷いて土をつくったという。
そんな島になぜか人は憧れ、一番大きなイニシュモア(面積13㎢、人口1000人足らず)には年間20万人以上の人が訪れる。

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昨日から泊まっているSnoozeles Hostelは6人部屋でスーツケースを広げる場所もないけれど、パンと飲み物、シリアルの朝食は付いていて、2段ベッドの寝心地は悪くなかった。

何と言っても列車とバスの駅に近いのがいい。そして安い(2泊2人で€76。元々予約していたソルトヒルB&Bは2泊€180だったので、ベルファストまでの往復列車2人分€78を取り戻した計算!)。
2段ベッドで一度寝てみたかった、という娘も、私と離れて(上と下だけど)快適だった、と上機嫌。
だったが、急に「大変なことを思い出した!」。
この旅で初めての忘れ物。
「ジェインの毛布」のように、赤ちゃんのときから使っていた毛布がないと眠れない、と日本からスーツケースに詰めて持ってきた毛布をアンナハーヴィに忘れてきたらしい。
「捨てられたかな。あんなにボロボロの毛布だから、捨てられたかもしれないよね……」
一応メッセージを送って返信待ち。もし、なければ、赤ちゃんを卒業する日、ということだ(いったいいくつなんだ!)。

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予め予約しておいたシャトルバス&フェリー(往復で€34)の乗り場まで、ホステルから歩く。
それにしても凄い霧。天気予報では晴れの予報だったけれど、こんな霧で何も見えなかったら『ストレンジャー・ザン・パラダイス』になってしまう。
バスの運転手さんも怖いよな、と思っていたら慣れている様子。そのうち晴れて対岸の半島が見えてきた。

 

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フェリーが出るロッサヴィール港まで1時間、フェリーに乗り換えて50分、どちらも満員の観光客を乗せて進んだ。
9時半にゴールウェイを出て、イニシュモアに着いたのが11時半くらい。途中の海は穏やかで、イルカが泳いでいるのも見えた。

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 島にはレンタサイクル会社がいくつかあるが、一番近いところで借りる。
€10+デポジット€10。現金のみ。
娘はマウンテンバイク、私は前にカゴが付いているママチャリを選ぶ。
地図を見ながら出発。アイルランドで有名な3つの断崖の中でも怖いことで有名な断崖絶壁のある砦、ドゥン・エンガスを目指す。

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自転車は自分の足で進めるから快適。目に映る石塀、牛や馬、海を見るために時々止まりながらゆっくり進む。
アザラシが見えるので有名な海岸で、SPARで買ってきたパンとジュースで昼ごはん。

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気がつくと14時過ぎていて、先を急ぐ。まだ半分しか来ていない。
途中で馬車や島内ツアーバス、そして工事の車とすれ違うが、観光以外の車両はほとんどない感じ。

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そのうちカフェやアランセーターの店に人が集まっているのが見えてきて、ドゥン・エンガスが近い模様。自転車置き場もあって、さて、どっちへ行こうかと尋ねると、ここから20分歩くのだとか。

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フェリーの港から自転車で30分、とあったので油断していたけれど、あんまり時間がなくなってきた。センターで入場料€5を払って、丘を上る。途中までは整備されているが、ゴロゴロとした岩だらけ。ドゥン・エンガスは3000年以上前につくられたと言われている砦で、軍の要塞とも儀式の聖地とも言われているが、はっきりしたことは解明されていない。

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20分てくてく歩いて砦の石壁を抜けると、一気に青い海と空、断崖絶壁が広がった。
日によっては強風が崖に近づくのも妨げるというが、今日は大丈夫。崖に腰かけて大西洋を臨む。太陽と波の煌めき、砕け散る波と風の音に「遙か」という言葉が浮かぶ

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3000年以上前にこの島のこの丘に石を運んで積み重ね、ここを中心に政治・経済・宗教・生活を営んだ人々。
この島以外に人が生きる場所があるとか、地球が丸いとか、考えもしなかったのだろう。
土もなく、植物も育ちにくい土地で、海からの恵みと太陽、自身の力と知恵に頼って生き抜いた人々。

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ドゥン・エンガスの砦から降りると15時52分。
アイスクリームでも食べて休憩したいところだが、フェリーの出航は17時。ここは先を急ごう。
一番近い道を行く。上り坂が続き、おまけに工事車両と出くわして、道路中に砂利が敷かれている。なかなか進まない自転車。汗がジワジワ噴き出してくる。
途中で白い馬と出会ったり、写真を撮りつつもとにかく先を急ぐ。

上り坂の先には下り坂が必ずある。気がつくと娘は遙か先。自転車暴走族と化していた。

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港に着いたらなんと16時40分。慌てて自転車を返してフェリーに乗り込む。
結局、地元のパブやカフェには入れなかった。この次に来るときは一泊して、ここに住んでいる人の話を聞きたいなぁ。
でも、その前に、アイルランド語を勉強しなくちゃダメなのだった。

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ぺこぺこのお腹を抱えて、ゴールウェイのWest Endへ。
パブやレストランが軒を連ねるこの界隈は、ちょっと吉祥寺みたい。
何処に入ろうかと「モナリザ」というイタリアンのメニューをじっと見ていたら、上品な女性が「ここ、美味しいわよ。とくにシーフードが」と教えてくれたので、そこに入る。
言われた通り、海老の特製ビスクソース和えリングイネはとっても美味しかった。

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西海岸の学生の街、ゴールウェイにやって来た

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朝、起きると快晴。昨日の長雨が嘘みたい。アンナハーヴィ・ファームでの最後の朝食を終えて、ゲストハウスの責任者、リンダに挨拶。

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本当に素晴らしい5日間だったと礼を言い、「暖炉のそばの絵は、ひょっとしてヘンリーとあなた?」と聞くと、「違う違う。はい、あげる」といきなり絵を持ち上げた。
「へ? これはここにある大切な絵で……」と言うと、「大丈夫、だって私が描いたんだもの」と。
思いがけないプレゼント。でも、それでなくても大荷物。一瞬ためらったけれど「ありがとう!!」と気がついたらしっかりもらっていた。
大事に持って帰らなくちゃ。

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小さなスーツケースになんとか納めて、馬を見にいく。でも、厩舎は空っぽ。外に出てみたら、昨日と同じ場所に、いたいた!
昨日からずっとここにいたのか。私のTwixは見事に泥だらけ。でも、どの馬も朝日を浴びて幸せそうだった。

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馬たち、そしてロッキー(ラブラドール。ホスピタリティ溢れるここの主)にお別れを言って、昼にはタラモアの駅へ。ここからゴールウェイへと列車で向かう。片道で大人1人€22.7。アイリッシュ・レイルは往復でもそんなに値段が変わらないのが不思議なところ。

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ほとんど駅員さんのいない駅だけど、ダブリンとゴールウェイを繋ぐ唯一の列車。乗降客はそれなりにいて、混雑して座れない人も。
1時間半、少しずつ変わっていく景色を眺めながら馬のことを考える。

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エヴリン、サム、パディ、3人のインストラクターに乗馬を教えてもらったけれど、みんなが共通して言っていたのが「エネルギーを循環させる」ということ。
馬を走らせるときはとくに“reign (手綱)”と“neckstrap”だけじゃなく、鬣をむんずと掴むことが大事。そして休ませるときは手綱を緩めてからだに触る。馬の体温を感じるのだ。
ああ、また馬の鼻先を撫でたいなぁ……と思っていたら、娘も同じことを呟いた。

もう「アンナハーヴィに帰りたい」なんて言っている。

でも、本当に「帰りたい」と思わせる場所だ。

http://www.annaharveyfarm.ie

 

ゴールウェイは西海岸にあるアイルランド第3の都市で、学生が人口の3分の1を占める街。といっ人口は7.6万人。私が住んでいるまちと変わらない小ささだ。
でも、メイン・ストリートは観光客でいっぱいで、路上ミュージシャンもいて、久しぶりにダブリンのグラフトン・ストリートを思い出した。

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光や風がカリフォルニアみたい。
海の幸のパスタを食べて、色鮮やかなまちを散歩していると川のほとりに出た。川面はキラキラ輝いて、カモメが人に近い。

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今日は30年以上ぶりのホステルに泊まる。
ゴールウェイには駅の近くにたくさんホステルがあって異常に安い。予約していたB&Bをキャンセルして急遽こっちにしたのだ。
2段ベッド、押さえていないと水が出ない蛇口、荷物を広げる場所もなく、ああ、ホステルって確かにこんな感じだった……と懐かしく30数年前にヨーロッパをバックパックで旅したことを思い出す。
明日はアラン諸島に渡る。

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人と馬のあたたかな聖地〜アンナハーヴィ4日目〜

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4日目のレッスンを終えて、暖炉の側で寛いでいる。

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5泊8時間の乗馬レッスンは、瞬く間に過ぎてしまった。
こんなに毎日幸せを実感する日々はなかった。

午前中、他の乗馬客と一緒にトラックに出た。広い農場を一周り。娘が出発する直前に買ったゴープロを首から下げて、初の騎乗動画に挑戦。
私のTwixは案の定、突然草をむしったり、水を嫌がって後退りしたけれど、一昨日よりも昨日よりも距離が縮まった気がする。
広いアウトサイドでのTrotは本当に気持ちがいい。
一緒に行った、見るからに馬に乗り慣れている女性は、途中でギャロップ&ジャンピングをしていた。いいなぁ。

 

午後は初めての夕方から。外のアリーナでキャンターを練習させてもらう予定が、あいにくの雨。それでも練習することはできたけど、インドア・アリーナで他の生徒のレッスンにお邪魔させてもらうことに。
私たちを入れて全部で10頭。最初はウォークでぐるぐる外周を回り、次はトロット。
そこまではみんなでやるけれど、キャンターは一人ずつ。
他の生徒はみんなキッズ。ウォークとトロットの時はあんまり気がつかなかったけれど、キャンターをやると一目瞭然、私たちよりずーっとレベルが上。
キャンターは3秒しか挑戦したことがないけれど、インストラクターのパディに「やる?」と聞かれ、“Yes”と答えてしまう。Noが言えない日本人。

2度目のキャンターは、アリーナを半周近く回って、恐怖の連続。メガネも帽子も落っこちそうになりながら必死でタテガミにしがみつく。
1周して戻ってくると、パディが“Well done! You're so brave!”。
そして、横目でじーっと見ていたキッズが2人、“Well done”とうなずいた。

Twix、よくやったね。

今日は全部で4時間以上(?)人を乗せたのに、文句も言わずによく頑張った。

首をトントンすると顔を寄せてきた。降りてから引っ張る時も、顔が近い。

最後に近くなれてよかった。

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レッスンが終わると夕方6時。
馬たちが次々に手綱や鞍を外されて厩舎の外へと駆り出されていく。小さなマーフィー(犬)が転がるように駆けて馬を追っていく。この小さな犬にも、ちゃんと役割があったのだ。

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その後をインストラクターのエヴリンがトレーラーで追う。馬たちは身体一つで小高い丘を上り、水場でゆっくり水を飲む。
ああ、これは「一つ釜の飯」だ。

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エヴリンに聞くと、毎日夕方はこうやって自由にさせてやるのだとか。一日よく働いた馬たちのフリータイム。その姿は神々しく、人を寄せつけないものがあった。

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最後の夕食はひき肉とチーズの重ね焼きとチップス&サラダ。

デザートはメレンゲに苺にクリーム。

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「超美味しい」と感激しながら食べる娘。
本当に、ここに来てよかった。
すべての動物たち、人が、よく働き、きちんと食べ、自由時間も持ち、幸せな空気に満たされた場所。

パチパチ爆ぜる暖炉の薪と炎の揺らめき。夢見心地で夜は更けていく。

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