55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

オーロラと温泉の宿、“Frost & Fire”へ

アイスランドは車がないと何処へも行けない。
34万人しか住んでいないのだから、電車はもちろんないし、バスの便も限られている。
レンタカーを借りない旅行者はレイキャビクに滞在してバスツアーを利用するのがいちばん便利。
だから、最初はレイキャビクに6泊しようと思っていたのだけど、最後の2泊はクヴェルゲルジというオーロラがよく見えて温泉が噴き出しているまちに泊まることにした。

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予約したのは半年前。
娘の誕生日を、温泉に浸かりながらオーロラが見て過ごす、という夢を描いてその宿に決めたのだ。その名も“Frost & Fire”。レイキャビクからのバスは一日に3本しかないから忙しい。

というのも、ホエール・ウォッチングに再トライすることにしたから。
朝から雨で、とても見えそうにないけれど、せっかく「クジラ保証」があるのだし、もったいなから乗船することに。
天気は前回よりもずっと悪く、黒い雲がかかって雨風が吹き付ける。
舳先近くでずっと向かい風と雨を浴びてきたけれど、さすがに2時間近くもすると寒くなって、他の乗船客と一緒に船内に入った。
船内には船酔いしたのかぐったりして眠っている人がいっぱい。
私も寝るか、と思った時に、「11時半の方角」という声が聞こえた。
みんながザワザワし始める。慌てて外へ出て舳先のほうへ行くと、白い水飛沫が見えた。

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“Jumping”という声が聞こえたけれど、遠くて雨も降っているし、あまり見えない。
そのうち、また水飛沫。“Jumping again!”という声。
結局、私の目は姿を捉えることはできなかったけれど、後から聞くとミンククジラだったそうだ。ほとんどイルカみたいな小さなクジラ。そう言われると見えた気もしてくる。
とにかく見えたということで、ツアーはチケットの再発行なしに終了。
まあ、2回も船に乗れてよかった。

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昼食は、途中のコンビニみたいな店でソーセージとパン、ケチャップを買って帰り、ゲストハウスのキッチンでホットドッグをつくって食べる。
とっくにチェックアウトの時間は過ぎているのに厚かましい私たち。
でも、大目に見てくれて、ありがたかった。
Guesthouse Arkturus。お茶とコーヒーがいつもたっぷり用意されていて、キッチンは清潔で広く、部屋は温かく、居心地のいい宿だった。

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雨が止まない中、重い荷物を抱えて移動。ローカルバスでMjoddというレイキャビクの東端の駅へ行き、セルフォス行きのバスに乗り換えて37分。
バスを降りてからが遠かった。

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10分で着くはずの宿は、荷物を抱えて山道を登り、30分近くかかって到着。
あちこちで湯けむりが上がり、イオウの匂いが立ち込め、側には清流が流れている。
ちょっと黒川温泉みたい。いや、別府に近いだろうか。
露天風呂は水着で入らなければいけないことを除けば。

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夕食は宿に併設のVarma というレストランで。
泊まり客でないお客さんも予約して訪れる人気の秘密は、Hot Springで何時間もかけてつくる料理ゆえ。
地球の熱で料理したランゴスティーニのスープは、初めて食べる味の濃さだった。
そして、雨の中、傘を差して入る露天風呂は、なんとも言えないあたたかさだった。

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大自然と人間との壮大な物語〜サウス・アイスランド〜

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実はこれを書いているのはダブリン。アイスランドは欲張り過ぎて、とても書く時間がなかった。だから日記じゃないけれど、書いておかないと。あのヴィヴィッドでダイナミックな自然の営みを目の当たりにした日々を。

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アイスランド4日目。この日は6泊7日の滞在の中でも、いちばん綺麗な一日だった。
ゴールデン・サークルに続いて一日バスツアー。行き先はサウス・アイスランド。着いた日のシャトルバスのドライバー、アルバートのオススメの場所。天気は昨日から一転、快晴。3時間睡眠でなかなか目が開かないなか、頑張って支度をして出かける。
催行会社はゴールデン・サークルと同じBus Travel Iceland。Get Your Guideという同じサイトで申し込んだら、少し割引があってラッキー。

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ガイドさんはクラウディアという名の女性で、社会学を学んでいる大学生。アイスランドは物価が高いから、働かないと大変なのだとか。調べてみると、アルバイトでも時給3000kr〜らしい。確かに物価が高いということは、その分お給料も高いけど、働かないと食べていけないということ。だからどのレストランでもお子様メニューがあるし、交通費や入場料は12歳未満は無料、12歳から15歳は半額だったりするのか。
女性と男性の平等は法律で規定されていて、企業は従業員の4分の1は女性を雇わなければいけないし、産前産後のお給料ももちろん差をつけてはいけない。
つまり、働かないと生きていけない国なのだということ。

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最初はスコガフォス。バスから虹がかかっているのが見えた。近づくと凄い水の量。高さがあって威厳がある。登り口があり、上から滝を眺めることができるが30分で登って帰ってこられるか。でも挑戦してみよう、と登り始めたら、傾斜がきつくて大変だった。
観光客同士、頑張れ、とすれ違いざまに声をかけ合いながら登る。でも、滝は下から見たほうが壮大かな。

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ミールダールヨークトル氷河。氷河の上を歩く人は重装備。私たちは観るだけ。ここは一年中氷が溶けない場所。近づくと気温がぐんと低くなる。

Vikingが降り立った海沿いのまち、Vik(ヴィーク)で食事。
いわゆる何でもある観光地の学食みたいなレストラン。チキンカレー2300kr。高いけどしかたない。ビールも飲みたいけど高いから我慢して、レジでコーラを二人で1本注文。と、これがいけなかった。ビンをトレイに載せると滑りそうだから右手に持ち、左手にカレーを載せたトレイを持って席に着こうと動き出した瞬間、トレイの上をカレーが滑って移動した。
バランスを崩したトレイは片手では修復不可能。カレーはそのまま滑って、床に落っこちた。

覆水盆に返らず。割れたお皿を集めていると、スタッフさんがやってきて「大丈夫。片付けは任せて」。
ああ。それにしても。2300円のカレーが……。
今日は昼ごはん抜きでいいや、と思って席に着いたら娘がオカンムリ。どれだけ不注意なのか、カレーが食べたかった……とさんざん文句を言われ、結局同じものをまた注文することに。
4600円のカレーはほとんど味がなく、塩をふって食べた(カレーは暑い国の食べもの。アイスランドには向かないと思う)。

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でも、もし食べなかったら、この味もわからなかったし、食べなかったチキンカレーはずっと記憶に残るけど、2300円のことは忘れられるよね、と娘と納得し合う。
Vikの海岸は、息を飲む美しさだった。

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レイニスファラは、北アイルランドジャイアンツ・コーズウェイにも似た巨大な奇岩が並ぶ海岸で、ジャイアンツ・コーズウェイ以上に石柱がきっちりと並んで人間を見降ろしていた。鳥たちは近づくものがいないこの岩の上で巣をつくるのか、たくさん飛んでいた。

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砂浜は黒。溶岩が固まって砕けてできた色。そして美しい波は荒く、人を連れていくから決して近づいてはいけないとのこと。
アイスランドの中でも最も危険な海岸の一つらしい。とてもそうは見えない美しさ。

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ここで1時間半も過ごせるなんて嬉しい……とすっかりのんびりしていた私を呼ぶ娘の声。
「時間ないよー!!」
いけない。ガイドさんがバスの中で“half an hour”と言ったのをすっかり「1時間半」と記憶していた私。娘がパスポートをなくして以降、私が上だった母娘関係がすっかり逆転してしまった。

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最後はセーリャラントスフォス。
快晴に恵まれたからこその完璧な虹。
とても、人間が生み出せないもの。
水飛沫でびしょ濡れになりながら滝の裏側に回る人々。
消えない虹を眺めながら、人間が決して創り出せないものの大きさ、美しさを思った。

最後に、クラウディアが話してくれたお祖母さんの話。
大きな火山の噴火があった年。その土地に住む住民は、有毒ガスが立ち込めて、家に帰ることができなくなった。

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無理をした男性が一人ガスを吸って亡くなった。その時、クラウディアのお祖母さんはどうしても取りに行きたい大切なものがあって、家に戻ったのだという。
でも、お祖母さんは無事に戻ってこられた。
実は、お祖母さんは4歳で母親を亡くしている。
成人してから、母親が父親に宛てた手紙を母親の友人が持っているのを知り、訪ねていった。
大切なものとは、その母親から父親への何通もの手紙。
真っ暗で何も見えない中で、クラウディアのお祖母さんはその手紙を探し当て、有毒ガスにも飲み込まれず還ってきた、と。
そして、それを本にしたのだという。

十人に一人が作家だという国、アイスランド
人間と自然との関係がそんな物語を生んでいくのだ、と思った。

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夕飯は初の外食、アイルランド初ビール付き。

レトロなアメリカン・バーで、美味しく、リーズナブルな値段だった。

そして帰り道、教会の写真を撮っていると後ろから声をかけられ、振り向くと「あれ、オーロラだと思うんですけど」。

見上げると、レイキャビクの空に、くっきりと大きなオーロラのカーテンが。

明るい街中では見えないはずなのに。

わざわざ教えてくれた人に何度も御礼を言って、海まで走ったのだった。

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クジラとオーロラを観にいく

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ホエール・ウォッチングには嫌な思い出があって、もう二度と行かなくていいやと思っていた。
去年行ったニュージーランドのカイコウラ。
確かにクジラは見えた。イルカも見えた。でも、船酔いでそれどころじゃなかった。だから、もういいと思ったいたのに……。
アイスランドのクジラはきっと大きいんじゃないか。
こんなに寒い海にいるくらいだから。
そんな気がして、昨日ホエール・ウォッチングを予約した。

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3時間という短さもいい。料金は10000kr(1万円)くらい。でも、アイスランドまで来て、そこをケチっても仕方がない。そんな気分になるほど、ここは何もかもが高い。
このツアーのいいところは“Whale Guarantee”というのがあって、クジラもイルカも何も見えなかったら、2年以内なら見えるまで乗船できるというところ。
老舗のElderingというところが催行していて、パスポートを探してくれたReykjavik Sightseeingを通して予約。

 

ボートツアーもあるけれど、ここのは船が大きいのでそんなに揺れないだろう。
乗ってみると、いい感じ。前回の反省をもとに、舳先近くに立つ。
風に吹かれながらできるだけ写真は撮らずに、波に合わせて深呼吸。
船はどんどん沖に出て、レイキャビクの街並みだけじゃなく、富士山のように稜線の綺麗な山も見える(有名なキルキュフェトル山かなと思ったけど、位置関係を見ると違うらしい)。
天気が悪いせいもあって海は黒々として、クジラもイルカも顔を出す気配はない。
沖に出るほど波は高く、船は上下左右に揺れる。でも、舳先の近くに陣取っているので波乗りするようにバランスを取れば大丈夫。

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風は吹き飛ばされそうに強く、それでも海鳥はその風に乗って飛んでいた。この冷たく深い海の底にいる生き物たち。どんな環境でも生きていく多様ないのち。凄いなぁ……。

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曇天の中、強風に煽られながら3時間。結局何も見えなかった。また乗れるチケットをもらって、喉と手を温めるためにカフェに入る。
手作りFish Soup2090kr、アップルパイ1200kr、コーヒー500kr。高いけど、居心地もよくいいカフェだった。

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市内をぶらぶらできる唯一の日だったので、ハットルグリムス教会のあたりまで歩く。クリントン元大統領が「宇宙一美味しい」と言ったことで有名なホットドッグには行列が。
食べてみると、フライドオニオンと生の玉ねぎが両方入っていて美味しかったけど、まあ普通。
ただ、450krという値段がこの界隈では破格に安くて嬉しい。

食べていると、初めて見る鳥がパンをもらいにやってきた。

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教会の塔からは街を一望。東西南北、どこを見渡しても可愛い家々。いま行ってきた海も見える。

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このkヘルシーなアイスクリームは美味しかったけど2スクープで1000kr。クロワッサンとチョコバンズを買って帰り、夜のツアーに備える。WOW airを予約する際、うっかり「ノーザンライツ・ツアー」のバウチャーも一緒に買ってしまったのだ。

催行は、空港までのシャトルバスも運行している大手、FlybusReykjavik Excursions。
21時半ピックアップ、22時出発でケプラヴィーク空港の近くまでオーロラ・ハンティングへ。
このツアーもオーロラが見えなかったらまた乗っていい、という保証つき。
雲がかかっているから、こっちもたぶん無理だよね……と言いながら娘と乗り込む。
車内はいっぱいで、後ろの席には子どもたちも。こんなに夜更かしして大丈夫かな。

1時間くらいかけて雲が切れているところへ出て、何にもない駐車場みたいなところでひたすらオーロラを待つ。
バスが5台くらい並んでけっこうな人数。着込んできたので寒くはない。
しばらくすると、白っぽいモヤモヤしたものが少し見えてきて動いている。
初めて一眼レフをマニュアル設定にして撮ってみると、肉眼では見えない緑の光が映った。


ISO1600、絞り4.6でシャッタースピードは2秒。
オーロラにも光の強さで段階があり、強いときには光の色も肉眼で捉えられるらしいが、今夜のオーロラは見えない。
「カメラには映るの?」と同じツアー客に聞かれ、写真を見せると「わーっ、綺麗! Good job!」。なんか、嬉しい。
娘のCanonのカメラにはモヤモヤしてあまり綺麗に映らず、やっぱり自然を撮るにはNikonなのかな、なんて話しながら、1時間以上ひたすら夜空を見上げてた。

カーテン状に広がったり巻き上がったり、星空をバックにうごめく不思議な光。

ここは……娘と来るより、恋人と来るところだなぁ。

 

部屋に戻ってきたら2時半。明日もツアー。早く寝ないと。
アイスランドの一日一日はやたら忙しいのだった。

黄金の滝、間欠泉、地球の割れ目……ゴールデン・サークル・ツアーへ

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明け方早く目を覚まし、Reykjavik Sightseeing にメールを送ってみる。
いちばん早い勤務のスタッフの人が連絡をくれることを祈って。というのも、今日行く予定のゴールデン・サークル・ツアーが同じ会社の催行じゃないことが夜中にわかったから。
Get Your Guideというサイトで予約したので、同じ会社だとばかり思っていた。
メールを送るや返信が来た。電話で聞いた件、バスが確認できたので、ドライバーが出勤し次第、車内を探してみる、と。
ありがたい。どうぞ、ありますように。
7時過ぎに返信が来た、シートの上にあったとのこと。
よかったー!!

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私たちのゲストハウス、Arkturus までは入ってこられないので、Kerno Apartmentの前でピックアップのバスを待つ。今日はアイスランドで最もポピュラーなスポットを回るゴールデン・サークル・ツアー。
グトルフォス(滝)、ゲイシール(間欠泉)、「地球の割れ目」があるシンクヴェトリル国立公園、ケリズ火口湖、Faxi(滝)を回る。
催行はBus Travel Iceland。ガイドさんの英語はゆっくりで聞き取りやすい。アイスランドの名前は、ラストネームが「〇〇の息子」とか「〇〇の娘」になるそうで、お父さん、またはお母さんのファーストネームが「〇〇」にあたるそうだ。
へぇー。

 

発見されてからもしばらくは誰も入植しなかったというのもこの島の厳しさを伝える。“Isolated(孤立した)”という言葉が何度も聞こえた。
そして、「私たちは何でも食べる」という言葉の後に、牛、羊、馬、パフィン、サメ、クジラ……と。
厳しい自然と共存しながら生きぬいてきた人々。
地震も多いが、最も地震の多いクヴェラゲルジみたいな地方では一日に200回を超えるのだとか。でも、みんな慣れているし、たとえ起こっても大事には至らないという。
確かに、すぐ外へ逃げれば建物の下敷きになることはない。
火山の噴火に関しても、予知が進んでいて、事前に逃げることができるという。
そしてエネルギーはほとんど地熱発電で、物価がやたら高いアイスランドでいちばん安いのが電気代なのだとか。

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ガイドさんの話を聞きながら窓の外をずっと眺める。あちこちで湯けむりが上がり、鋭角のシェイプに圧倒される山があり、どこまでも続く大平原があり、アイルランドとは違う勇壮な顔の羊やちょっと小ぶりの馬が日がな草を食んでいて、苔むした大地には厳しい自然の中で芽吹いたいのちが感じられる。
夏は短く涼しいからたくさんの作物は実らない。
農業といえば牧畜。牧歌的な風景だけど、羊や馬は、毛を刈ったり乗馬に使われたりする以外は、いずれ食べられる運命にある。
毎時何万トンもの水量を誇る滝は一瞬として止まることを知らず厖大な量の水を叩きつけるように流し続ける。

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ここに住んでいる人は、この大自然を美しいと眺めているのだろうか。
それとも、自然の変化に比べてある意味退屈な日常から、創造性豊かな音楽や小説が生まれるのだろうか。

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緑の水溜りのようなケリズ火口湖からFaxiと呼ばれる滝、ひときわ大きく立派なグトルフォス(グトル=金、フォス=滝)を回る。この滝に水力発電所をつくる計画が持ち上がった時、反対の声をあげたのはひとりの少女。たった一人の声がこの滝を守ったのだ。

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ゲイシールでランチタイム。間欠泉はまさにマグマで沸騰した水が噴き出すところで、大地の鼓動のように波打ち、時が満ちれば噴き上げて、いっときも目をが離せなかった。

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最後はシンクヴェトリル国立公園。二つのプレートが分かれる「ギャオ(地球の割れ目)」は、ノースアメリカ大陸とユーラシア大陸が生まれた場所。
その距離はいま4kmだけど、毎日2〜3cm動いている。

地球は変わり続けている。

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帰りのバスの中でガイドさんが聞かせてくれたアイスランドの古い歌。

♪人生は石じゃない

しがみつくものじゃない

人生は水

常にかたちを変えるもの♩

決して明るくはない呪文のような歌が、窓の外に広がる景色と一緒に耳の奥に届いた。

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レイキャビクに戻ると16時半。
いったん家に戻って、港にあるReykjavik Sightseeingまでパスポートを取りに行くと、大きなスーパーの壁にある“Tokyo”と“Sushi”の文字が目についた。
パスポートが無事戻ってきて安心した私たちは、そのスーパーの寿司売り場で、昨日とは違う豪華な寿司をつい手にとってしまう。2350krだけど、ま、いいよね。アルコール度数2.5%のビールらしきものとナチョス、果物も買って家に戻る。

ああ、やっと現実を生きている感覚が戻ってきた。

そして寿司もビールらしきものもナチョスも、とっても美味しかった。

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アイスランドに吹く風は冷たかった

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ダブリン空港近くのホテルで一泊し、WOW airアイスランドに向かう日。
学校終了後、タラモア〜ゴールウェイ〜ドニゴールと回って、最後がアイスランド。なぜアイスランドなのか。
最初は娘の思いつきだったけれど、私は『LIFE』という映画と『鍋とフライパン革命』というドキュメンタリーを観て、興味を持っていた。
火山と氷の島。人口は34万人足らずで、温水プールが社交場、作家比率は世界一。
国民投票通貨発行権を市民の手に取り戻した国。
歌姫・ビョークを生んだ土地。
とにかく想像を超えるところだろう。なんと言ってもアイルランドからすごく近い。

 

旅も3週目に入るとさすがに疲れてくる。空港近くにとった久しぶりのビジネスホテルは、機能性は高くてもなんだか冷たかった。っていうか、本当に寒かった。
WOW airは安いのが自慢の英国の航空会社。その分手荷物が高い。娘のスーツケースを預け、私の小ぶりのスーツケースとバックパックは手荷物ですべて別料金。これ以上増やしたくないので、入らない荷物は着ることに。
マトリョーシカのように着込んだ私を冷たく見る娘。
ところが、娘のスーツケースは22kgで2kg超過。超過料金を尋ねると€20。いったん引き取り、空港で店開きを始める私たち。
重いパーカとパンツとレインスーツを引っ張り出し、なんとか重量クリア。
北極にでも行きそうな格好で歩く私たち。
それにしても、WOW airは手荷物や重量だけじゃなく、受付の女性も厳しいなぁ……。

ダブリン空港の免税店でウィスキーの品揃えの多さに感動し、最後のお土産はここで買える!……と見ていたら、時間の余裕がなくなり、搭乗口へ急ぐ。
ここからが遠かった。行けども行けども搭乗口は遥か遠く。羽田空港での山口行きを思い出す。なんとか飛行機に乗り込んだ時には汗が噴き出していた。

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2時間強のフライトで飛行機は到着。ダブリンと違って入国審査が厳しくないのがありがたい。
降り立ったケプラヴィーク空港は思ったほど寒くはなく、がらんと殺風景な場所だった。レイキャビクまでの直行バスを予約していたのに、荷物を取ったりしているととっくに時間を過ぎている。

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慌ててそれらしきバスを探すと、のんびりした返事のドライバー。もう一人別の客が着いているはずだから待つという。
後から気がついたのだけど、アイルランドアイスランドで1時間の時差があったのだった。

バスはいろいろな会社が運行しているが、荷物の追加料金がないのでReikyavic Sightseeingという会社のにしたが、お客は3人。背の高いドライバー・アルバートは、運転しながらずっと観光案内をしてくれる。
最近のアイスランドはとにかく物価が高く、ビールは1杯1200kr(アイスランド・クローヌル)以上するとか。1krはほぼ1円だから1200円。ええっ? 本当に?「信じられない……」と呟くもう一人の客・ウィリアムさん。アイルランドから来たと言う。
ハッピーアワー(夕方の時間帯)に入れば700krくらいで飲めるから、その時間帯を利用したほうがいいよ、とアルバート
ウィリアムさんは、アルコールは一切飲まないらしい。なら、いいじゃん。
あとは、ブルーラグーンは商業的すぎるからシークレットラグーンのほうがいい、とか、サウスアイスランド・ツアーは最高だとか。
その場でサウスアイスランド・ツアーを予約したウィリアムさんが降りた後、アルバートに「アイスランドで生まれたの?」と尋ねると「いや、ポーランド」と意外な返事。
「もうここに来て十数年になる。結婚して子どももいるからここにいるけど、もしも、もう一度選択するとしたら……アイスランドは選ばない。絶対に。ここは……too boring」

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空港からの道は確かにBoringという言葉が似合うかもしれない。でも、本当にそうなのかな。

 

バスはアパートの目の前で止まってくれた。明日申し込んでいるツアーのピックアップ場所を尋ねると、車から降りて、途中まで案内して教えてくれた。
予約する時、ホテルの値段の高さにびっくりして、安いゲストハウスにしたのだけれど(それでも4泊で48000円くらい)、それにしてもそっけない建物。
玄関のベルを押すと、管理人らしき男性の声が「どうぞ」と言ったきり。押すとドアは開いていて、振り返ると鍵があった。
トイレ・バスルームは共用。でも、広いキッチンがあって、ベッドもとりあえず2つある。なんといっても温かい。十分だ。
さて、晩ごはんでも食べにいこうか。昨日のホテルのルームサービスはあまりにそっけなかったので、今日はちゃんとしたものを食べたい。と、店を探していると、娘が「大変。パスポートがない」。
「バスの中で落としたんだと思う」
落とした? パスポートを??

 

バスを降りたところから部屋までもう一度見てまわり、手荷物の中も全部探したが、ない。
シャトルバスの会社に電話すると、まだバスは戻ってないから明日の朝までに確認できたら電話するとの返事。
ああ……。

 

娘の言う通りなら、たぶん車内にあるはず。でも、万が一なかったら?
日本大使館って、アイスランドにあったっけ?
再発行には時間がかかる。そのまま日本に帰るだけならともかく、私たちはいったんアイルランドに戻らなくちゃいけないし、航空券を取り直すとなると、いったい幾らかかるんだ……?

気分は真っ暗。計画が音を立てて崩れていく感じ。


とても外にごはんを食べにいく余裕もない。パスポートと一緒にデビッドカード、スーツケースの鍵までなくした娘のバカさ加減に怒り心頭の私。
ところが娘は「でも、思い出をなくすより、いいよね」。
思い出というのはカメラに入った写真だったりするらしい。
本当に、事の重大さをわかっているのだろうか……?

 

怒りが収まらずさまざまな言葉を並べ立てているうちに、でも、いのちをなくしたわけじゃないか……と思えてくる。
とにかく、食べるものは食べなくちゃ、と歩いて10分とキッチンに貼ってあった地図に書いてあった近所のスーパーへ。


どれもこれも高い。巻物メインで8つくらいの寿司が990kr。ヨーグルトとパン、人参スープを1個ずつとぶどうを買って4000円くらい。スーパーにはノンアルコール・ビールしか置いてないのも悲しい。
寒々とした、人通りのほとんどないまちをトボトボ歩きながら、心にも冷たい風が吹いてくる。
パスポートのことは明日考えよう。
既にダブリンが恋しい私だった。

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サヨナラ、ドニゴール

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ドニゴール最終日に宿をとったのはArdara(アーダラ)。ドニゴール・ツイードを織る工房があることで知られる小さなまち。
ダングローからタクシーで30分(料金は意外と安く€35)、Woodhill Houseというゲストハウスに着いたのが夕方6時半。まちの中心地から丘を登ったところだったので、夕飯はゲストハウスのレストランで食べよう、と言っていたのに、そしてそれは予約サイトを見るととても美味しそうだったのに……ディナーはバナナとスコーンとりんごだった。
なんのことはない。私の怒りが沸点に達したからだ。

 

ダングローの2日間、娘の体調は悪かった。気持が悪いのがおさまったと思ったら頭が痛くなったようで、せっかくジェラルディンのお母さんがドライブしてくれたのに車から出ず、綺麗なビーチも見なかった。
でも、いくら悪くても、人の親切に応えられないようじゃダメでしょ! 笑顔もないし、英語もちっとも喋らないし!いつも私ばっかり矢面に立たせて。 私はあなたのツアーガイドじゃない! 


後から思えば、旅の疲れが沸点を超えたのだと思う。シェアハウスにいたときとは全然違う、見知らぬ土地、見知らぬ人、重い荷物を抱えての移動……。とくに、英語でのコミュニケーション。気疲れ。
結局その日は怒ったまま、持っていた食べものを食べて、寝てしまった。
ゴージャスなバスタブに浸かれたのが唯一の救いだった。

 

ところが真夜中、バグパイプの音が。0時から15分間、アイルランドというよりはスコットランドの丘を思わせる音楽を奏でていた。
ああ、ベッドじゃなく、宿のBarで聴きたかった……。

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朝、カーテンを開いてびっくり。私たちはなんて綺麗なところに泊まっていたのだろう。

ウッドヒルハウスは18世紀からのマナーハウス(領主の館)を改装してゲストハウスにしたところで、美しい広い庭と古い優雅な建物を持ち、そこから見える丘の景色は一枚の絵。
部屋から見えるパティオは、怒りも疲れも一掃してくれた。

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ゆっくり朝食を食べ、少し時間があったので庭を散策し、アーダラのまちへ丘を下った。主人に教えてもらった、農道を歩いて。

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緑が綺麗なのは空気が澄んでいるからだろうか。
目を移すたびにうっとりするような風景、美味しい空気。丘を下って、日曜日なのでほとんど閉まっている店をウィンドウ・ショッピングして、古いBarで一杯。

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“Nancy”という名前のBarは、200年前からやっているという。
アランセーターが似合うナイスガイが隣の席に座ったので「似合うね」と声をかけると、ダブリンの語学学校に通うドイツ人留学生で、今日ダブリンに戻ると言う。朝9時から夜6時まで勉強しているそうで、とても流暢な英語を喋っていた。
IT企業に勤めていて、英語は必須……という話を聞いて、アレクシ(かつてのシェアメイト)を思い出す。
よかったらダブリンまで乗っていく? と聞かれたけれど、ギネスを美味しそうに飲んでいたので、遠慮した(本当はバスを予約していたからだけどね)。

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ウッドヒルハウスに戻るまでの道は、いっそう光の粒が降り注いでいて緑も羊もふくふくしていた。この屋敷を、この風景を、200年以上守ってきた人々に頭が下がる。

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当主は怖ろしく腰が低く、丁寧で親切、気品漂う人で、若い頃の奥様との写真がまたカッコよかった。そして、荷物を預かってくれたうえに、バス停まで送ってくれた。

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アーダラからドニゴール・タウンへ。そして、一路ダブリンへ。
明日はアイスランドへと向かう。
窓の外を流れる景色をずっと眺めていると、虹が見えた。なんと4回も!

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虹。アイルランドで、いったい何度見ただろう。

ここで過ごした3ヶ月、忘れられない風景、そして人々の顔が、次々に浮かんで溢れ出した。
困っていると必ず声をかけてくれる人。
どんな小さな買い物でも“Hi! How are you?”と笑顔をくれる人。
何か尋ねると申し訳ないくらいに親身に答えてくれる人。
断崖、強風、砕け散る波、果てしなく続く道、草を喰む羊、牛、馬、海を照らす光、岩だらけの海岸、居心地のいいパブ、ギネス、フィッシュ&チップス、おにぎり、競馬、ギネスケーキ、B&B、シェアハウス、学校、公園、アブドラ、アンジェラ、アナンダ、ジェラルディン、ジョン、アレクシ、セシル……。
一人一人の顔、一つ一つの風景……。
厳しく美しい自然と、だからこそ、限りなく温かく優しい人々。
サヨナラ。
また、ね。

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ダングロー2日目。何もないのに、何もかもがある

 

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Dungloe2日目。
起きるとトイレから娘が「トイレットペーパーがなくなった!」。
宿の主人にもらいにいくと、“Oh, no! Poor girl!!!!”と自分の娘のように心配顔。
「私は何をすればいい?」と、胃腸にいいジンジャーティーをたっぷり淹れてくれた。
アーダラに行くには11時のバスに乗るしかないが、とても無理。宿のチェックアウトも11時だったので少し遅らせてもらえないかと尋ねると「もちろん。何にも心配いらないから」。

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部屋で過ごす間にジェラルディン(ダングロー出身の語学学校の先生)にメッセージを送った。娘はちょっと体調が悪いけど、宿の主人はびっくりするほど親切で、Barも居心地が良くて、素敵なまち!と。
すると、返信が来て、お母さんが午後ショート・ドライブに連れていってくれるとのこと。
娘に聞くと、ジェラルディンのお母さんにも会いたいし、少しならまちを見たいと言うので、お願いすることに。

 

ジェラルディンはからだが大きくて、いつもヴィヴィッドなワンピースを着ていて、灯台みたいな人。明るくポジティヴで明晰で親切。どんな生徒も、どんな行為も、公平に認める。
先生という先生が好きじゃない娘が唯一好きだと言った英語教師。
いったいどんな風に育ったんだろう、と思っていたから、お母さんに会って話を聞けるなんて嬉しかった。
やって来たお母さんはジェラルディンよりずっと小柄だったけど、「よく来たわね、ダングローへようこそ!」とハグしてくれて、まずドニゴール空港へと連れていってくれた。
「ここでパラシュート・ダイビングをしたのよ。2年前」
チャレンジングなところはさすがジェラルディンのお母さん。

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ドニゴール・エアポートは実はお父さんの職場。飛行機のすぐそばに立って、離陸を見送っていた。海に突き出した美しい飛行場から小さなプロペラ機が飛び立つ様子をしばらく眺める。やっぱり、ここは時を超えている。
お父さんは飛行機を見送ると挨拶に来てくれて、コーヒーをご馳走してくれた。
エアポートの隣では牛が草を喰んでいる。ジェラルディンが「世界で一番美しい空港」と言っていた意味がわかる気がした。

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お父さんが運転してくれて、雨と風が強いなか、隠れ家のようなCarrickfinn Beachへ。車を降りて向かい風と闘うように進んでいくと突然砂浜が広がり、エメラルドグリーンの海が見えた。

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空はどんより雨雲が広がっているのに、海の色の綺麗なこと。
吹きすさぶ風に飛ばされそうになりながらワイルド・アトランティックを眺めた。

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そして、ジェラルディンの家の近くの海岸へ。
隣の家まで何十メートル(何百メートル?)も離れている家に住み、夏になるとビーチへ行って、橋から海へ飛び込んだという子どもの頃のジェラルディン。
「あれがその橋。ジェラルディンの橋」とお母さん。

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実はダブリンの出身で、帰り道に「ダブリンに帰りたい」と打ち明けてくれたお母さん。息子さんが病気で、ダブリンのほうがいい治療が受けられるのだと。
ダングローには仕事がなく、若い人はみんな出ていってしまう、とも。
ジェラルディンも18でダブリン大学に行くためにまちを出た。
私も18で故郷を出た。でも、ジェラルディンみたいに、綺麗なところだからあんまり人に教えたくない、なんて思ったことはなかった。
同じ北半球の、同じ島国の、同じ西の果てに生まれたのに。

なけなしの時間を割いて私たち母娘に、自分と娘のホームタウンを紹介してくれたマリー(お母さんの名前)。

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わずか24時間過ごしただけなのに、すっかり細胞に染み込んでしまったこのまちの空気。

宿に戻って、荷物をピックアップしたら6時近く。

何度も電話してタクシーを読んでくれたアンシア(宿の主人)といい、マリーといい、ダックランといい、ブレンダンといい……。

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いい人過ぎて、申し訳なさ過ぎて、また会いたいと思わずにはいられない。

ああ、こうやって、「彼」もここを再び訪れたに違いない。

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 次は自分の腕で運転して来よう、とアーダラに走るタクシーの中で思った。

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