55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

人生を生きるに値するものにするEvery Brilliant Thing

さあ、土曜日だ。
娘は風邪気味、遠出はやめて、夕方からはダン・レアリーにあるパヴィリオン・シアターに芝居を観に行くことにした。

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それまでの時間、遠足気分で、再度ボノの家を見に行くことに。

ボノの家(というか別荘?)は、Dalky(ドーキー)というここから南に3kmくらいの港町の郊外、Killiney (キライニー)というところにあるらしく、一度ドーキーまで行って駅前のお店で聞いてみたら、歩くには遠いよとのことだったので、今度はキライニーを目指して行ってみる。
目の前のバス停から途中まで行けそうだったので、あえて電車じゃなくバスにしてみたら、変な場所で降りてしまった。
キライニー駅まで随分遠い。他の交通手段もないので、ひたすら歩くことに。

この周辺は、アイルランドでも土地の値段が高い地域らしく、豪邸がたくさんあった。車がないと生活は不便そうだけど、高台で海が見える。日本なら鎌倉の風情か。
ボノの家はあきらめて、豪邸ウォッチングをしながら歩く、歩く。珍しく陽射しが強く、久しぶりに汗をかきながら。

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歩いているうちにキライニー・ヒル・パークというところに出た。
見晴らしがよく、子どもの遊び場があって、森があり、犬が散歩している美しい公園。
子どもたちのキラキラした笑顔を見ながら休憩し、森の中の道を歩き出すと向こうから笑顔で歩いてくる人が。
娘のクラスメートのアンジェラ(コロンビアからの留学生。22歳)とばったり。
アンジェラはランニングの最中だとか。さらにびっくり。
私たちがひいひい言いながら歩いてきた距離を、走ってきて、さらにその後芝生で腹筋を鍛えたり、ストレッチしていた。

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2〜3週間の生徒が多い中で、アンジェラは唯一私たちより長く学校にいる(8ヶ月)留学生。
コロンビア。
いったいどんな生活を送り、どんな想いでここに来たんだろう。
いつかゆっくり話せる機会があればいいな、と思いながら、ヒルトップから海と街を展望し、ドーキー駅からダン・レアリーに戻った。

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パヴィリオン・シアターで観たのは『Every Brilliant Thing』という一人芝居。
図書館に置いてあったシアターガイドで見つけて、なんとなく役者さん(James Rowland )
の顔が気に入って行ってみたのだけど、とっても魅力的な舞台だった。

舞台は平場で、取り囲むように客席がある。
開演前から役者さんはそこにいて、メモを書いた数枚の紙を持ってウロウロ。そして、席に着いたお客さんにランダムに何か囁きながら紙を渡している。
私たちはつい最前列に座ってしまい、大後悔。あ、これはお客さんと一緒に創り上げる舞台かも。一枚、危うく渡されそうになったが丁重にお断りして、芝居が開幕。

私には半分くらいしか聞き取れず、エンディングも今ひとつわからなくて残念だったのだけれど、7歳のときにお母さんが自殺を図った男の子が「世界のEvery Brilliant Thing=人生を生きるに値するものにするすべてのリスト」をつくりながら成長していく物語。
たくさんの笑いと悲哀が詰まっていて、それが客席のお客さんとともに演じられる。

ある人は主人公の飼っていた犬を安楽死させたお医者さん。
ある人は主人公のお父さん。
ある人は主人公の大学の先生。
ある人は主人公の初めてのガールフレンド……etc.
どの人も(仕込みのお客さんではないはず!)見事に、丁寧に、そして堂々と演じていて、素晴らしかった。
他のお客さんも多くが紙を渡されていて、

⒈アイスクリーム
⒉水遊び
⒊夜遅くまで起きてTVを観るのを許されること
⒋黄色
⒌縞模様
⒍ジェットコースター
⒎転んじゃう人

など、数字を言われた瞬間にその言葉を言う役。
危うく⒍を渡されそうになって断ったけれど、あ、参加できたかも、とちょっと思う。

リストは何万にまで及び、彼の人生は結婚や破局も経験する。
1時間15分くらいの舞台に、大切な人の死(それも自殺)を経験し、もがきながら生きていく主人公の人生が、ユーモアと皮肉たっぷりに描かれる。

脚本を書いたのはダンカン・マクミランという実験的な舞台を数々発表している気鋭の作家で、この作品は初演が2015年で、次々と公演が決まっている。
https://www.painesplough.com/play/every-brilliant-thing

調べてみたら、ジョージ・オーウェルの『1984』をベースにした戯曲が来年4月に日本で上演されるそうだ。
https://spice.eplus.jp/articles/128510

娘は「サッパリわからなかった。一番前で時々カクッてなって申し訳なかった」と言っていた。でも、本があったら読みたい、とも。戯曲として出版もされているようだった。
私は大好きだった日本のドラマ『Mother』を思い出した。

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坂元裕二脚本、芦田愛菜が一躍注目された2010年のドラマで、シングル・マザーの母親(尾野真千子)に虐待されている彼女は、やはりノートに好きなものリストを綴っていた。

もう少し聞き取れたら、もっと作品を深く味わえたのにな。
でも、いい芝居、いいお客さんに出会えて幸せな気分で外に出ると、夕陽というには強すぎる光が教会を照らしていた。

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 (サンディコーヴにあるイタリアン・レストランのパスタ、3度目。これもBrillant Thing!)