55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

ボノの家と人魚の海


8月8日。
ダブリン滞在もほとんど折り返し地点。
一日一日が恐ろしいスピードで過ぎていく。

長いと思っていた90分の授業も意外と早く時間が過ぎる。いまのクラスは南米比率が高くて、コロンビア二人、ブラジル二人、ベネズエラ一人、スペイン一人にフランス二人。
偉いなぁと思うのは、コロンビアの二人(アンジェラとアナンダ)は二人の時も決して母国語(スペイン語)で話さないこと。遠く物価も高いアイルランドに来ている二人は、どちらも長期滞在で、英語への志も高い。

午前中の授業が終わって、アナンダがアンジェラに午後はどうするの? と聞いている。アンジェラはキライニー・ビーチへ行くと言う。アナンダが、「えっ? 泳ぐの? 」とびっくりした顔で聞くと「だって、夏が終わっちゃう」とアンジェラ。確かに。

ちょうどキライニーにボノの家でも見に行こうかと話していた私と娘は、じゃあ、もしかしたらビーチで会えるね、と言って別れる。
お昼ご飯は久しぶりに「Carluccio’s」という店にパスタを食べに。三度目。安心の美味しさに幸せな気分。ついワインとデザート(アフォガート)を頼んでしまい、€39。交通費を節約してもこれじゃ意味がない。

DART(電車)に乗って、キライニーへ。ボノの家を目指すのは三度目。今度こそ辿り着くはず。大家さんのアンに地図まで書いてもらったし。
キライニーの駅は海を眺められるようにできていて、ため息が出るほど綺麗な海が見えた。

ダン・レアリーを葉山だと思っていたけれど、ここはまさに葉山の一等地。アイルランドには珍しい砂浜の海を一望するように山側に大きなお屋敷が並んでいる。

f:id:lifeischallenge:20170810073842j:image

f:id:lifeischallenge:20170810074122j:image
駅から5〜6分と聞いたので地図を見ながら歩いていたらなかなか着かず。通りすがりの紳士に尋ねると反対方向だった。誰もが間違いなく知っていて、ためらうことなく教えてくれる家。
背の高い木々が木陰をつくるなだらかな坂を昇っていくと、あった、ボノの家の正門が。

ロールスロイスでも出て来そうな重厚な門は固く閉ざされていて、防犯カメラも。木々は見えても家はかけらも見えない。門の前には木のメンテナンスの車とハウス・クリーニングの車が並んでいて、見ていると通用門から人が入っていった。

「あのクリーニング会社に勤めるとボノの家に入れるのかな」と娘。
一応塀に沿って歩いてみると、2軒先の家が売りに出されていた。こんなところに住めるなんてどういう人なんだろう、とまたため息。

防犯カメラの前で記念撮影をして、家の塀に沿った細い道を下ると海に出た。途中小さな通用門があって、ボノもここから海に出るに違いない、と完全にミーハーな気分になる。

海辺には丸い石と砂浜が広がっていて、アイルランドとは思えない。出会った男性が「あっちのほうがいいビーチだよ。それで、あの高台がボノの家だよ」と教えてくれる。そして「水温は14度。寒いよ」と。

時計を見ると4時。もうアンジェラは帰っちゃったかな、と話しつつ、娘がメッセージを送ると、すぐに返信があって、ちょうどいまビーチにいると言う。
しばらくすると水着姿の二人が近づいてきて、アンジェラとアナンダだった。
腰が引けていたアナンダも、意を決して来たようで、たじろぎながらも海へと向かう。
「勇気ある!」と励ましながら、まるで抵抗なく海に入っていくアンジェラ。
冷たい海に浮かぶ二人は、まるで人魚のよう。
犬を散歩させている人も多く、ほとんどの犬はリードなしで、時々海に入ったり、自由に歩いている。

また見つかった。
何が?
永遠が。
海と溶け合う太陽が。

ランボーの詩を思い出したりしてうっとりしていたら、「私も足だけ浸かろうかな」とジーンズをたくし上げ、海へと向かう娘の姿は、潮干狩りにしか見えなかった。