55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

反骨を貫け!〜オスカー・ワイルドとチェスター・ビーティー・ライブラリーと『マンハッタン・ラブストーリー』

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木曜日は授業が午前中に終わるので、午後どこに行こうかとワクワク。
というのは嘘で、どこかに行かないともったいない、と思ってしまう貧乏性の私。
今日はどうしようか……と思案した末、みんながオススメするチェスター・ビーティー・ライブラリーへ行ってみることに。
イアン(先生)、ジョン(先生)、ストーリーテラー、大家さんのアン、そしてクラスメイトだったローラが「すっごく綺麗よ。日本のもたくさんあるから行くといいよ」と推薦してくれたライブラリーで、西欧社会に偏った展示物で埋め尽くされる他のミュージアムとは違い、日本、中国、インド、イスラム世界の美術品が展示されているらしい。

 

早速バスに乗ってシティセンターへと向かう。お腹が空いたとうるさい娘をなだめている最中、ちょうどバスはメリオン・スクエアを通過。そこには「ワールド・フード・マーケット」の看板が。
マーケットという響きほど人を魅了するものはない。目的地より手前だったけれどバスを降りてマーケットへと向かう。
メリオン・スクエアはオスカー・ワイルド銅像で有名な場所。
銅像に群がる観光客をバスの中から何度か見てはいたけれど、実物を前にして、一瞬時がフィードバックする。

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卒論のテーマはオスカー・ワイルドだった。30年以上も前だけど。
評論も何にも読まないで「感想文」を書き、担当教授に呆れられたのもいまは懐かしい思い出。ここで再会するとは思わなかった。
背徳・デカダンで知られるオスカー・ワイルドだけど、ダブリンでは人気で、本や栞、Tシャツその他いろいろ、街を歩けば彼の顔に当たるほどだ。

既成概念も道徳も政府もお金も芸術の前には無価値だと叫び、権威を嫌い、芸術のための芸術を貫いたオスカー・ワイルドは、ある意味でアイリッシュの代表のよう。
つるむのは好きだけど統制されるのは嫌いで、権力者の側に回るよりアウトローで居続けることをよしとする偏屈で心優しきシャイ・パーソン。


男色を咎められて投獄され、失意のうちに亡くなったと言われているけれど、ワイルドの反骨は失意なんてものとは無関係だったんじゃないかと思う。
弱冠46歳。葬儀には数人しか参加しなかったそうだが、いまこんなにもたくさんの人が会いに来ているなんて、本人もびっくりなんじゃないかな。
サロメ」も「ドリアン・グレイの肖像」も「幸福の王子」も、私は好きだ。

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ワールド・フード・マーケットにはアフリカ、インド、イタリア、スペイン、アイルランド、中国、韓国……とさまざまな国の料理が並び、迷った末にアフリカの炭焼きチキン、フィッシュ&チップス、餃子、炒麺を購入。
公園は食べもの片手にくつろぐ人が溢れていて、平日とは思えないピースフルな空気が漂っていた。

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のんびりし過ぎて、肝心のチェスター・ビーティー・ライブラリーに着いたのは4時近く。閉館まで1時間しかないので、大急ぎで館内を回る。
3月から8月までの浮世絵の企画展をはじめ、一代で財を成した採鉱王・チェスター・ビーティー卿が集めに集めた美術品の数々に、西洋世界から見た東洋世界を垣間見る。
みんながここを勧めた理由がなんとなくわかる。
アイリッシュは常にマイノリティの側に立つ、というより、立とうとする。

マーケットやイベントでも感じるのだけれど、リベラルであろうとする姿勢というか意志がベースにある気がする。

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中でも、虫眼鏡でも見えないほど小さな「マイクロ文字」で書かれた中国の石版(?)は、誰もが立ち止まって見入り、ため息をつく凄さだった。
いったいどうしたらこんなに小さな文字を書こうと思うのか。その偏狭さに感じ入る。
右から左へ書いていくアラビア文字のカリグラフィーを含む美術品も美しく、アブドラにもオススメしなくちゃ、とアラビア語バージョンのパンフレットを持ち帰る。

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カフェでビール、チーズケーキ、紅茶で一服し、家に戻って改めて白飯を炊いて晩ごはん。梅干しと海苔、ゴマ、わかめ茶漬け、カクキューのインスタント赤だしを添えて、『マンハッタン・ラブストーリー』(宮藤官九郎の2003年の名作ドラマ)を観ながら食べる。
大笑いしながらふと思った。
クドカンが書く登場人物たちって、みんなどこかが欠けていてどこかが過剰で不器用で、バカみたいに正直でお人好しで、すぐつるむのに組織や権威は嫌いで、お金や名声にはまるで縁がない。そう、まるでアイリッシュ
不思議な符合に妙に納得しながら、この人たちって最高だなと思うのだった。

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