55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

パンツの行列と夏の終わり

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違う国、違う言葉、違う風習、違う文化……。
語学学校というところは、世界の広さ、多様性を、日常の中で感じさせてくれるところ。
当たり前だと思っていたことが、そうじゃない。
それは、人間ってものの本質への興味をかき立てたり、愛しさを深めたりもする。

 

朝、部屋のドアを開いたら廊下の手すりにパンツの行列。
そう言えば夜中に娘が騒いでいたな、凄いことになってる、って。
一階の玄関からキッチンに向かう手すりにはTシャツのオンパレード。
ふーむ。これはたぶん、夜に洗濯機を回していたレオの洗濯物。で、何でそんなところに干してあるのかを、推測する。
階下の大家さん(ほとんど不在)の広いキッチンを洗濯物干し場にしていたボーイズだけど(本当は大家さんのプライベート・スペースだから干しちゃいけない)、ビジネスの関係で急に泊まりに来た大家さんの息子さんに、そんなところに干すな、と言われたんじゃないか……。
この家に来てすぐの頃、酔っ払ってキッチンで長電話していた娘が怒られたのも、息子さんだったし。

干すな、と言われても、干す場所がない我がシェアハウスへの、これは密かなレジスタンス? それとも、単におバカなだけ?

そのうち、娘が怒り出した。

 

「酷くない? だって、シェアハウスなんだから、干す場所を提供するのは大家さんの役目でしょ。干すな、とか言う息子、あんまりじゃない?」

かくして、私は大家さんにメッセージを送ることに。
角が立たないように、レオが(たぶん、だけど)していることがダイレクトに伝わらないように、でも、もう少し融通してよ、大家さんなんだから……いう意図が伝わるように、注意深く英文を考える。

「いったいどこに干せと言うの!」 じゃなく、「どこに干したらいいか教えて」とか。
いったい何をやっているのか、私。ボーイズの世話をするのは私の仕事じゃない。
無事送ると、ヨシヨシと満足そうな顔の娘。自分で書いてくれよ。

 

9週目に突入したクラスは、ジュールというフレンチ・ボーイが一人増えて9人。
もう夏も終わりだから、生徒はぐっと減ってくる。
授業では、2つの言葉が組み合わさった単語を、絵に描いて当てっこするゲームを。
英語で喋っちゃダメ。絵に描くだけ。これが、なかなか難しい。
NecklaceとかStrawberryとかそれ一つで書けるものは簡単。
ところが、Seashellとか、Sea(海)で引っかかると、めちゃくちゃ時間がかかる。日本の波とフランスの波って、こんなに違うのか……とか、根っこの意識の違いが思い知らされるよう。
私が描いたTeapotも、伝わらなくて四苦八苦。形をとらえて描いている(はず)のに何で……?と思いきや、そもそも若者たちはポットでお茶を飲む習慣がないらしい。

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こういう授業だとみんなが打ち解けられて、とても楽しい。
学校にいる間に、クラスメイトともっといろいろな話をしたい思いが募る。

 

授業が終わってビーチに行くと、さすがのテディズ・アイスクリームにも並んでいる人は少なく、海は秋の気配を漂わせ始めている。

キッズ・コーンを食べていると、重い雲が覆うなか、泳ごうとしている人も。短い夏を惜しむように、水温16°でも果敢に海に入っていく住民たち。

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食あたり(?)から1週間。まだ食欲も体力も回復しないので、Punnetでリンゴとバナナとアボカドだけ買って家に戻ると、すっかり疲れてしまった。
「生姜ごはんつくったら、みんなに分ける? どうする?」とやたら張り切る娘だが、私はぐったり。毎日のようにお肉と野菜を炒めている食欲旺盛なボーイズに出すおかずも今日はつくれないし、ごはんだけっていうのも変でしょう、と頭を悩ませているうちに、結局アレクシだけ味見するということで話がまとまった模様。
炊き上がった生姜ごはんはイマイチで、豆ごはんのときのような“ツヤ感”がないと騒ぐ娘。考えてみたら、豆ごはんのときは私が洗米したのだった。豆と生姜の違いだけじゃなく、しっかり米を洗うのが重要なんじゃないか、と一つ発見。

 

イマイチの生姜ごはんを「ソーリー、ソーリー」とアレクシに出す娘。
私たちのおかずは、卵焼きときゅうりの酢の物とアボカドとちりめん山椒。
アレクシのおかずは、牛ひき肉の炒めもの(玉ねぎが入っていたらきっともっと美味しいのに、ただひき肉を炒めただけ)、マヨネーズ添え。
文化というよりは世代の違いだろうか……とも思いつつ、「マヨネーズは万能」と言うアレクシに妙に共感する娘。
アレクシはアサツキ(マーケットで見つけた!)入りの卵焼きを気に入って食べ、でも、きゅうりやアボカドは好きじゃない、と手をつけなかった。ちりめん山椒は一口食べたけど、これもお好みではなかった様子。


しみじみ、食欲のないときの和食に叶うものはないなぁ、と思う。
美味しくできたきゅうりの酢の物と卵焼きを食べながら、少しずつ胃腸が動き始めるのを感じる。
気がつくと、大家さんから返信。
「どうぞ、私の干し台を使うように伝えて。息子は朝5時にダブリン発の便に乗るから早く寝なくちゃいけなかったんだと思う」
シンプル。あれこれ気を遣ってメッセージの英文を考える必要はなかったのかも。
レオは「干すな」と言われたわけじゃなく、休んでいる息子さんがいるから気を遣って手すりに干しただけかもしれないし。
廊下に並んだままのパンツとTシャツの行列は、娘の正義というより乙女心に火をつけただけかも……と、締めの抹茶を飲みながら思い直すのだった。

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