55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

ニューグレンジとタラの丘

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早起きしてバスに乗り、ダブリン発着ツアーに参加できる最後の週末は、世界遺産にも登録されている古墳・ニューグレンジと、タラの丘を廻るツアーへ。
タラの丘からはアイルランド全土の7割が見渡せると聞いたが、本当だろうか? 古きアイルランドを訪ねるツアーは他にもあったが、5000年前の古墳の中に入れるMary Gibbons Toursに予約した。€40はちょっと割高感があるが、仕方ない。
http://newgrangetours.com

8時15分にオコンネル・ストリートを出発。大学教授みたいな雰囲気のガイドさんは物静かな語り口で、5000年以上前にできた古墳群や紀元前200年頃からアイルランドに移住してきたケルト人がつくった連合国家の説明をしてくれる。
歴史って、本当に殺戮と略奪の繰り返し。アイルランドはヴァイキングや英国に奪われ続けてきたけれど、歴史をひもとくと、中央ヨーロッパから土地を求めて移住してきたケルト民族が、先住民を殺し、土地を奪い、自分たちの国家を築いたのだ。

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異国の地からやってきた男たちが男たちを殺し、土地と女たちを奪って新たな家族と社会を築いていった人類共通の歴史を聞いていると、なんとも言えないアンビバレンツな感情に襲われる。
深い思索に基づくひと言ひと言は、とても全部は理解できなかったが、通常のツアーとは違う重さがあった。

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バスはボイン渓谷に沿って進み、古墳群の入り口にあるビジターセンターに9時半に到着(これまでのツアーと比べるとウィックロウと同じくらい近い)。10時15分発のシャトルバスのステッカーをもらって、それまでの時間、紹介ビデオを見たりして過ごす。
ケルト民族がやってくる前、どんな民族が住んでいて、大小40もの古墳群をつくったのか、未だ謎に包まれているらしい。
でも、地理や天文学建築学に長けていて、精巧で見事な王の墓をつくった。中でも、平たいお碗を被せたような形のニューグレンジには、一年に一度、冬至の朝に、朝日が中心の墓室に差し込むよう完璧な形で通路がつくられているという。

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お碗の周囲の白い石はウィックロウから運ばれたものらしく、総重量は20万トンに及ぶとか。いったい何人の人がこの古墳の建築に携わったのか。それにしても、大変だったろうな、生きるのは。
そのうち時間になり、気持ちの良い道を抜けてシャトルバスの発着地へ。朝日が緑の草木を照らし、空気は透き通って、本当にいい日だ。

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やってきたシャトルバスは相当年季が入っているが、ベンツ。そこからニューグレンジへ向かうと見事な眺望がひらけてきた。

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間近に見るニューグレンジは形も色も見事で、5000年前につくられたなんてとても思えない。石を積む、というシンプルな行為だけで、これだけのものができるなんて。

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専属のガイドさんの案内で、中に入る。撮影は禁止、荷物は背負わずに前に抱く。
狭い通路を進むと、正面と左右に墓室があって、石の所々に渦巻き模様が彫られている。すり鉢状に削った石には火葬した聖灰を盛ったとか。
精巧につくられた建造物は、5000年もの間一度も補修も改修もしていないのに、完全なウォータープルーフなのだ、とガイドさん。
見上げると、平らな石が五角形に巧く組み合わされている。
年に一度差し込む朝日を真似て、暗闇を味わった後、入り口のほうからライトが照らされる。5000年前の人々の真摯な祈りの儀式。

ゆっくりと外に出ると、360度広がる風景が一層くっきり鮮やかに見えた。

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ビジターセンターでランチを済ませ(いつも感激するのは、こういう場所にある店がそれなりに美味しく、たくさんメニューがあること!)ボイン渓谷やスローン城を車窓に眺めながら、タラの丘へ。

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小高い丘へ登っていくと、どんどん風が強くなる。さえぎるものが何もないのだ。凧をあげている人もいる。

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これがアイルランド全土の7割なのかはよくわからないけれど、紀元前200年にやってきたケルト民族がここに国家を築こうとした気持ちがわかる気がしてくる見事な眺望だ。

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19世紀半ばのジャガイモ大飢饉で世界中に散ったアイルランド人にとって「タラに帰ろう」というのは、強い望郷の言葉らしい。

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風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラが最後に言う「タラへ帰ろう」という台詞はあまりにも有名だが(物語の中でタラは農場の名。農場にタラと付けたこと、そもそもオハラという名前自体、アイリッシュの印)、不屈のアイリッシュ魂の源というか聖地だと思うと、気持ちも厳かになる。
本物の王が触ると“scream”したという石の横に立ち、故郷を離れざるを得なかった人々の想いを想像しながら、しばらく眺めた。

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15時半にはダブリン市内にバスは到着。グラフトン・ストリートで買ったアイスをスティーヴンズ・グリーンで食べていると、ツアーで一緒だった英国で修士号を取得したばかりの台湾出身の留学生・アレスターに再会。
バスでバタバタと別れてしまって残念だったので、また会えて、連絡先を交換できてよかった。
会いたい人に会えるのがこの国の不思議なところ、と来たばかりの頃聞いたけれど、本当にそうだ。

 

なんとなく明るいうちにシェアハウスに帰るのが嫌で、バーでゆっくりしてから戻ると、玄関の靴の数がとても少なくなっていた。ああ、本当に帰っちゃったんだなぁ。
昨日残したビリヤニを温め、目玉焼きを載せて、サラダと一緒に食べたら、美味しくて少し元気が出てきた。
この家で過ごすのもあと1週間。食材を、少しずつ片付けなくちゃ。
それにしても、アレクシもレオも、食べもの残し過ぎ。食べかけのクロワッサン、食べかけのパウンドケーキ、紙袋に大量に残ったジャガイモ、バナナ、開封もしていない巨大な食パン……。
「もったいない」って言葉を教えてあげるべきだった!

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