55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

U2のLIVEに行ってきた

2017年夏に3ヶ月のダブリン留学を決めた後、友人から「7月22日、部屋の隅っこでもいいから泊めてもらえないかなー」というメールが来た。
「なんで?」
「ホテルがどこも一杯だから」
「なんで?」
U2のコンサートだから!」

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1983年、WAR TOUR@新宿厚生年金会館でボノが掲げた白旗を、生涯忘れない、と思った。1980年に東京に出てきて、海外のバンドのLIVEが観られることに超感動し、新聞配達の人になりたい、と思っていた頃(いち早く来日公演情報を知ることができるのは新聞だった)、必死でチケットを取って観たコンサートの中でも、U2は飛び抜けて鮮烈な印象を残した。
抗う魂がそのまま音になり、歌になり、血のように、嵐のように迸っていた。
私は22歳。こういうバンドがいちばん好きだ、と思った。

 

とはいえ、その後ずーっと聴き続けていたわけじゃない。
『The Joshua Tree』であまりにもビッグ・バンドになってしまった彼らは、その後の日本公演は東京ドームになったし、社会に向けてメッセージを放つことも頻繁で、どこか雲の上の存在になってしまった。
そのバンドが、私がたまたまダブリンにいるときに、ホームグラウンドでLIVEをするなんて。


知ったとき、チケットはもちろんSold Out 。
でも、探してみたらすぐに転売サイトに行き着いた。
深夜2時。ドキドキしながら、清水の舞台から飛び降りたのだった。

チケットは高額で、しかもサイトの手数料がくっついて、2枚でちょうど日本からの往復航空券1人分と同じくらいだった。
勢いで買っちゃったけど、最近の乏しい収入からすれば、泣きたいくらいの出費。
前にドームで観た時は、スタンド席だったせいか年齢のせいか以前ほど感動しなかったし……と翌朝になって正直若干の後悔も押し寄せてきた。


でも、こんなタイミングでU2のダブリン公演があるなんて一生に一度、と思い直し、何の思い入れも苦労もなくチケットを1枚ゲットした娘に恩を着せまくりつつ、加えて友人も東京から来ることが決まって、7月22日はこの3ヶ月の一つのハイライトとして、心待ちにする日になった。

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テンプル・バーで友人と待ち合わせると、街はU2一色。あちこちのパブから流れて来るのはU2だし、マーケットには古いU2アイテムが並んでいるし、あちらこちらで飲んでいる人たちの多くがU2のツアーTシャツを着ている。

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コンサートのためにやってきた人たちを歓迎する街のムードは、花火大会のよう。花火が嫌いな人がいないように、U2が嫌いな人はいない。人々がみんなU2を誇りに思っている空気が街中に溢れていた。

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ギネスを半パイント引っかけて、早めに会場に向かう。
The Croke Stadium という、ふだんは国技(ゲーリックフットボール)にしか使われない巨大なスタジアムが会場で、警備はさすがに厚い。
ほとんどの観客は近くにホテルを取っているのか、手ぶらに近い。男性はボディ・チェックもされている。

念のためと望遠レンズをつけたカメラも持っていたので(ハンカチで包んでいたけど)ドキドキしながらカバンの中身を見せたら、すんなりOK。Checkedのリボンを付けてもらって中へ。

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ゲート前には仮設トイレがいくつも設置され、ビールやバーガー、チップスが売っているけれど、PITという席がないアリーナ席なので目もくれずに会場内へ。
でも、ツアーTシャツを買うのに時間がかかり、PIT内の場所を確保しようと思った矢先に娘がトイレに行きたいとかチップス買いたいとか言い出し、そうこうしているうちにPIT内は埋まり、背の高い観客の隙間から果たしてステージは見えるのか状態に。
PAを囲むフェンスの脇をなんとか確保して開演に備えたのだった。

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会場は巨大で、8万人収容できるとか。
ステージに設置されたプロジェクターも巨大で、ずっとメッセージが映し出されている。
世界の歪んだ正義によって殺された一人一人の名前が、夢が、見ることのなかった風景が、終わりのない映画のエンドロールのように流され続ける。

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オープニング・アクトはノエル・ギャラガー
オアシスの大ヒット曲も何曲か披露し、観客のほとんどが一緒に歌っていた。派手な演出は一切なく、きっちり演奏して「じゃ、ローカル・バンドにステージを譲るね」と去っていった。
ローカル・バンド? と一瞬思ったが、何のことはない、U2のことだ。

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30分くらいのインターバルを置いて、The Waterboysの“The Whole of the Moon” が流れ始めると、観客のざわめきが一気に弾ける。どうやらメンバーが登場したらしい。
私がいる場所からはPAの陰になって全く姿が見えない。巨大なプロジェクターは何も映さない。
「Sunday Bloody Sunday」が始まると、ほとんどの観客が総立ち(最初から立っているけど)で大合唱、そのまま「New Year’s Day」へ。

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そのうち、ピンスポットの下を探すと、隙間から見えた、ボノが。エッジが。ラリーが。アダムが。
プロジェクターの文字メッセージが動き出し、真っ赤な砂漠に立つ一本の樹、The Joshua Treeが映し出されると同時に、エッジのギターが、あの光の瞬きのようなフレーズを奏でる。ラリーとアダムのリズム隊が加わり、どこまでも続く一本道の映像とともに3曲目「Where the Streets Have No Name」。

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ああ、U2だ。
胸をかきむしるバンド・サウンド。
ボノの歌は深みを増してはいても激情を手放すことはなく、エッジのギターは少年の純粋さと怒りを変わらず宿している。

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1980年に4人で始めたバンドがいまも続いている奇跡。
人間がつくった社会システム、不条理が跋扈する世界への疑問、苛立ちを、音にして、言葉にして、放ち続ける情熱とエネルギー。

1983年に厚生年金会館で観たときと、もちろんバンドの成熟度も規模も社会的な意味も違うけれど、変わらない。
誰にも傷つけることができないもの。奪えないもの。
一人一人の中にあるはずなのに、巨大なシステムに呑み込まれて、あったことすら忘れてしまいがちなもの。
それが、バンドという形の中で奇跡のように護られて、眩しいほどの熱量で放射されている。

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ボノは歌だけでなくMCでも直接的なメッセージを口にし、驚くほどクリアで美しい巨大プロジェクターには、疑問と怒りと祈りを放つ映像が照射される。
そして、聴衆は共に歌い、腕を掲げ、Yesのメッセージを放ち続ける。

 

アイルランドがこのバンドを生み出したことへのリスペクトとプライド。

このバンドを好きでいる自分自身への信頼。

個の自由。愛と平和。言葉にすると薄っぺらく、すぐに風に吹かれてしまうから、何度でも意識的に満たされ続けなければならないものが、ギネスのように注がれ続ける。

エッジのギターは激しく空気を切り裂きながら、深く余韻をどこまでも広げていく。

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The Power of the People is Stronger than the People in power.

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最後は、愛と自由のために抗い続ける女性へのリスペクトとエールに溢れていた。

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4時間、いや待っている時間を含めると5時間立ちっぱなしだったけど、全然疲れなかった。っていうより、凄く力をもらった。
私より年上らしき女性たちも、ずっとビールを飲んで歌ってた。
明るくなったPITには、カールスバーグのペットボトルが、それこそ足の踏み場もないほど。

23時に終わり、市の中心地までの道は手を繋いで歩くたくさんのカップルをはじめ元気な人々で溢れ、やっぱり花火大会のよう。
深夜バスに乗り込んで思った。


清水の舞台から飛び降りて、本当によかった。

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