55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

350年前からある劇場で、240年前に初演された芝居を観る

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コロンビアからの留学生、アンジェラに娘が聞かれたそうだ。

「あなたのお母さんは、いつ英語を習ったの?」
「学生時代だから、30年以上も前だね」と娘が言うと、アンジェラいわく
「へぇ、よくそんなに昔のことを覚えているわね。私なんて昨日習ったことも忘れちゃうのに」。

 

ふーむ。確かに。30年以上前って、若者にとっては大昔。そして、確かにたくさん忘れてしまったけれど、覚えていることもある。その頃の記憶って、最近よりも鮮明だったりするし。
30年って、長いようであっという間。人生の折り返し地点の随分手前にいる人々からは遥か遠く、とっくに頂上は通り越して下り坂をトボトボ歩いているように見えるかもしれないけれど、こちらからはとっても近くに見える。
そこにはイメージしていた頂上なんてものはなく、ただ、前より拓けた視界が広がっているのだ。

「その年で夢なんてあるの?」と娘に聞かれ、「あるに決まってるじゃん」と答える私。

自分の目に自分の姿が映ることは朝とトイレと寝る前くらいしかないので、人生はずっと長い昇り坂にしか思えない。どんどん傾斜はきつくなるけれど、行けば行くほど、見たこともないような景色が広がっているに違いないのだ。

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さて、午前中の授業が終わって、今日はBallsbridgeで人に会う。先日ダブリンを訪れた友人の元・同僚(といっても遥かに若い)で、なんとトリニティ・カレッジでMBAを取得したばかりの女性。
トリニティ・カレッジといえば、1592年に設立された名門大学。つまり今年で425年目。歴史と伝統ある大学で学べるなんて憧れるなぁ、と話を聞きに行ったのだ。

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アメリカ大使館の向かいにある『Ravi’s』というインド料理店は、洗練された料理と雰囲気の割に値段はリーズナブルで、とても居心地が良かった。

そして向上心と努力がちゃんとセットで備わった彼女の話は、娘だけでなく私にとっても、とても刺激的だった。

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その後はいっぱいになったお腹を抱えてシティセンターへ。娘は前回美味しかった『Kokoro Sushi Bento』でマリエレナ(シェアメイト)の分も寿司を買って家へ。

私は一人でテンプル・バーへ。
日曜日に行った“Smock Alley Theatre”に興味が湧き、そこで1775年に初演されたコメディ・オブ・マナーズ(風俗喜劇)“The Rivals”が、ちょうどいまかかっているのを知り、観にいくことにしたのだ。
時間があったので道すがらパブでのんびりし、いざ劇場へ。

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劇のプロットは予習済み。古典だけに、はっきりと格調高いクイーンズ・イングリッシュで話してくれるはず。

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ダブリンに来てミュージカルを含め芝居を観るのは5回目だけど、『ONCE』に続いてわかりやすかった。というか、筋がわかっているので、多少わからなくても気にならない。
設定も表現も小道具も確かに古典的ではあるけれど、男女の恋の機微やカン違い、バカさ加減は、240年前に書かれた脚本とは思えない。。
キャストの一人ひとりが正統派の芝居を生き生きと楽しそうに演じていたのにも好感が持てた。

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それにしても、1662年に開館した煉瓦造りの劇場が、いまも変わらずあること自体、凄いこと。
劇場の入り口には、全てを知っている煉瓦が並べられ、その歴史を誇りにしていることが伝わってくる。

芝居や音楽、ダンスや乗馬は、苦しみや悲しみがたくさんあったこの国の人々の心を温め、支えてきたのだろう。

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バーの看板メニュー、パイナップル・カクテルも美味しく、満たされた気分で劇場を出る。
リフィー川に沿って歩くバス停までの道は、音楽とビールと古い石畳と人々の笑い声で溢れていた。

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雨の月曜日はジェイムズ・ジョイス

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さあ、7週目のスタートだ。
10週間の学生生活もいよいよ終盤戦。クラスにはなんと5人もの新しい学生が。イタリアンのミレナ、アレッサンドロ、フレンチ・ボーイのアントナン、スイスからのアイヴァン、スパニッシュ・ボーイのカルロス。
久しぶりに若返ったクラスの雰囲気は1週目を思い出させる。
でも、その時とは違って、縮こまったりはしない。「新入生? 何処から来たの?」 なんて先輩面で話しかける。

イタリアンでもフレンチでもスパニッシュでも、ボーイズ3人集まると悪ガキになる。
グループ・ワークで“I think that’s my business, don't you?”という返答を引き出す質問を考えるのに、いかにもティーンエイジャーらしい(ちょっと書けない)文面を答えて、ジョン(先生)も苦笑、というより冷や汗。
毎週雰囲気が変わるクラスを指導する先生は大変。

とくに典型的なアイリッシュのジョンはセンシティブなので、いつもより授業を抜け出す回数が増えている。

 

午前中は初めて(!)自分の部屋に掃除機(フーバーというらしい)をかけた。階下の大家さんのところから拝借したフーバーは、ダイソン。懐かしい轟音と強力な吸引力に気分もスッキリ。
ついでに洗濯まで済ませて、いつになく働いたせいか、夕方授業が終わると何もやる気がしなくなった。
外は雨。珍しく止みそうもない。季節が夏から秋に変わっていく感じ。

機嫌が悪くなった私は娘と喧嘩。一人で借りた本を返しに図書館へ。

途中、マーク(松井ゆみ子さんのパートナー)にばったり。

職場が学校の近くだから、そのうちばったり会えるかもねーっと話していたけど、本当に会えるなんて。

馬が好きで競馬にめっぽう詳しいマークに、今度馬の話を聞かせて、と雨の中慌しくお願いして別れる。

 

ダン・レアリーの図書館は出来たばかりで広々としていて、係の人は親切で、借りるのも返すのもオートマチック。3日前には返却のお知らせがメールで届く。
日本では長期未返却の督促ハガキが届く私だが、ここでそんなレッテルを貼られたくはない。
結局数ページしか読めなかったジョイスの『DUBLINERS(ダブリン市民)』を返しに行き、1時間くらい図書館で読んだ。
英語がスラスラとイメージとともに頭に流れ込んでくるようになるには、どのくらいの勉強と習慣が必要なのだろう。
でも、本当に静かな図書館で時折窓にあたる雨粒を見ながら読むジョイスは、なぜかすーっと入って来る気がした。
一生かかっても『ユリシーズ』は読めそうにないけれど、短篇集の『DUBLINERS』は読めたらいいなぁ。

結局『DUBLINERS』を借り直し、ついでにポーの『モルグ街の殺人』も借りて家路につく。

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少し機嫌も直ってきたので、晩ごはんのことを考え始め、少し残っていた鶏肉と野菜でピラフにしようと、野菜を刻んでおくように、と娘にメール。
いつもの店(21時くらいまで開いていて、果物や野菜や卵、冷凍食品やスパイス、トイレットペーパー等何でも売っている小さな店)でビリヤニ用のスパイスと書いてある瓶を買って帰る。
キッチンをレオとクエンティンに譲るために、炊けたピラフとサラダを抱えて早々に部屋へ。
しかし、テーブルも机もない部屋につき、鍋もサラダボウルも床置き。ああ、掃除機をかけておいて本当によかった。

部屋の灯りも1本切れてしまって、雨の日の暗い部屋での食事は、なんとなくだけれどジョイスの気分。
ビリヤニもどきのカレーピラフは、懐かしい昭和の味がした。

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ダブリン・ホースショー2017に首ったけ

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今日は待ちに待ったダブリン・ホースショーの日。
シティセンター行きのバスの窓から鮮やかなピンクのロゴを見た瞬間から胸が高鳴り、どの日に行こうか迷った末、最終日のチケットを取ったのだ。
シートなしの入場券、学生料金€16(+手数料€2)。アンジェラも誘ってみたけれど、興味なさそう。コロンビアでは乗馬は普通で、なんでわざわざ……と言った雰囲気。
私からすれば、こんな機会を逃すなんて考えられない。
実際何があるのかは知らないが、“ホースショー”というだけで行くでしょ!
でも、クラスメイトもシェアメイトも食いつき悪し。

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ワクワクしながらバスに乗り、会場のBallsbridgeまで一直線。
入場門の前で写真を撮って中に入ると、このイベントの大きさを物語るように馬具関係だけでなくあらゆるタイプのテナントが出店していた。
珍しくそこには目もくれず、馬のいる場所へと急ぐと、いきなり間近に馬たちが出現。出番を待つ騎手と馬の練習場で、パドックより目の前で目の輝きや毛並みが見えるが、賭けるわけじゃない。思ったより女性騎手が多く、目が合うと騎乗したまま“Hello!”と声をかけてくれた。カッコいいなぁ。

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初老の紳士もいて、競馬場とは全然違う穏やかな空気が漂っている。

ふだんはサッカー場だという会場は、メインアリーナとその他3つの会場に分かれていて、それぞれ競技が行われている。
競馬場ほどのスペースはなく、行われているのは障害飛越競技
助走のスペースもそんなにないのに、馬たちは頑張って飛び越えている。

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それにしても、騎手の姿を間近で見ると高い。
馬には人生で2度しか乗ったことがないが、初めて乗ったときの感動は忘れられない。歩きたいと思ったら歩いてくれるし、少し走りたいと思ったら走ってくれるし。以心伝心。なんて凄いんだろう、馬って、とひれ伏したのだった。

 見ているうちに少しずつルールがわかってきた。基本的にはタイムを競うけれど、バーを落としたらタイムに4秒加算される。障害の前で馬が止まってしまい、途中でリタイアしてしまうことも。

最終日のメインイベント、ロンジン・プレゼンツのインターナショナル・グランプリは、最初の競技でとにかく障害を1本も落とさずクリアした選手が、決勝とも言える最後の競技でタイムを競うもので、英国、スイス、イタリア、フランスや米国、そして日本からの30組の選手が、2時間以上にわたって競技に挑んでいた。

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馬の大きさはそれぞれ違い、色もそれぞれで、たてがみや尻尾を綺麗に結んでいる馬もいる。騎手も小柄な女性だったり、タフそうな男性だったり。
そして観客の間では、アイルランドの選手が出場すると他とは全然違う熱い歓声が上がった。

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ロンジン・グランプリも良かったけれど、もっと盛り上がったのがその直前にあった“フライング・フレンチマン”ロレンツォのショータイム。

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 複数の馬を一堂に動かし、自身は2頭の馬の背中に立って、クライマックスでは手綱も離してジャンプまでしていた。恐るべし、フレンチマン。
ここまで馬を動かし、まとめる調教は大変だったろう。「ジンガロ」みたいに寝食を共にしているのだろうか。

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ファイナルを飾ったハンティング・チェイスは、運動会の締め括りの地区リレーみたい(古い)。ドニゴールやリムリックのチームが健闘していて、子どもたちもたくさん参加しているせいか、観客の歓声もいちばん高かった。

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アイルランド人がいかに馬好きかわかるイベント」というのは松井ゆみ子さん(アイルランド在住の料理研究家)の言。
日本では、乗馬は入会金や年会費が高く、庶民のスポーツとは言えないけれど、アイルランドでは、とてもポピュラーなリクレーションでありスポーツなのだとか。
そして英国では、ホースセラピーが医療として認められていると言う。
いいなぁ。

9月に行く予定の乗馬宿がますます楽しみになりつつ、とても乗れそうにない気もしてきた。

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岩牡蠣には人生の歓びの半分が詰まってる

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土曜日の過ごし方はいつも迷う。
ダブリン発着の長距離バス・ツアーで地方に行くか、朝寝坊して午後芝居やLIVEを観に行くか、テンプル・バーのフード・マーケットに出かけるか、はたまたフェニックス・パークで鹿にオーガニック・キャロットをあげるか……。

結局朝起きてから、イベント情報をチェックし、テンプル・バーにあるスモックアレイ・シアターで12時からの芝居を発見。
芝居は“Breastfeeding Alfresco (and other adventures)”というタイトルのコメディで、女優さんの一人芝居らしい。
『ONCE』はともかく『Every Brilliant Thing』、『Man in the Woman's Shoes』と続けて観た一人芝居がさっぱりわからなかった娘は渋い顔。
「今度こそ笑えるよ、きっと」と説き伏せ、「芝居の後はフード・マーケットに行こうよ」と言うと、それが決め手になって大急ぎで支度して出発。

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Smock Alley Theatreは、なんと1662年に開館した劇場で、リチャード・ブリンズリー・シェリダン(Richard Brinsley Sheridan 1751年生まれ)という劇作家(であり政治家)の初めての作品『恋がたき(The Rivals)』を1775年に初演。
以来、この作品は240年以上に渡って上演し続けているというから、歌舞伎座みたいな感じだろうか(と、調べてみたら、歌舞伎座は1889年の開場。能や狂言の舞台に近いのかも)。

劇場の中では一番小さい地下の芝居小屋は、全然造りは違うけれど渋谷ジァン・ジァンをふと思い出させる。
でも、お客さんはまるで違って、ベビーカーに乗った赤ん坊がいっぱい。改めてタイトルをチェック。

「戸外での母乳育児」

そっか、これは乳母が巻き起こすコメディじゃなくて、戸外で母乳を飲ませる苦労と可笑しみ(?)の舞台だったのか。
主演の女優さんは現在まさに育児中らしく、自らの経験を話している様子。芝居というより保育相談的な雰囲気。赤ん坊はハイハイし、自分で歩ける幼な子はオモチャを取りに行ったり、自分のベビーカーを自慢したり。「これ、面白い?」とつつく娘。うーん……。

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結局、ブレイクタイムで小屋を後にした。
「もう来ないからね、芝居は」と娘。たぶん、もう少しゆっくり話してくれたら、内容的には難しくないから、もう少しわかるんだろうな。
でも、わかったところで面白くはなかっただろう。役者さんとしての技量が、前に観た芝居とは全然違う。ていうか、芝居だと思ったことも私の勘違いだったのかも。まあ、そんなこともあるさ、何事も経験、と気を取り直すべくフード・マーケットへ。

 

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テンプル・バーのフード・マーケットに来るのは4度目。
最初はダブリンに着いて最初の土曜日。次は日本からの友人と一緒に。3度目は……先週か。けっこう来てるな。
今日は牡蠣が食べたい気分。ちょっと贅沢して一人一皿初めて注文。
なんとなく顔を覚えてくれていたのか、いつも岩牡蠣を剥いている女性が「2つね」とニコッとしてくれた。

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果たして、岩牡蠣は最高に美味しかった。これまででいちばん身がふっくらとしていて、臭みがかけらもなく、ほんのりとした甘みと海のエキスが凝縮されていて……。
思わず、一服しに持ち場を離れた女性に「これ、すっごく、すっごく美味しい! どこの牡蠣?」と尋ねると、「スライゴー」という返事。さすが、W.B.イェイツの愛した土地。「でも、私は食べないんだけどね」。

ええっ。毎日(かどうかは知らないが、毎週土曜日にはここで)何100個もの牡蠣を剥きながら、自分は食べないって……。
でも、商売道具には手を出さないほうがいいのかも。
海の恵みそのものの牡蠣と白ワインをゆっくり味わいながら思う。
岩牡蠣には人生の歓びの半分が詰まってる。
そういえば、牡蠣って「海のミルク」って言うよな……と芝居をちらっと思い出しつつ。

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その後、つい気が大きくなってオーガニックのほうれん草や空豆、グースベリー、ミントやレタスを買っていると、先週買えなかったチーズケーキをどうしても買いたい、と娘。

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ストリート・ミュージシャンが哀愁のフラメンコ・ギターを奏でるなか「超美味しい」とすっかり機嫌を直したい娘が食べていると、後ろから「日本人ですか?」と声をかけられた。
振り向くと、トリニティ・カレッジのパーカーを来たティーンエイジャーらしき女の子。
日本のアニメやマンガが好きで、少し日本語を知っているという。
住んでいるのはフランスのナントで、家族でアイルランドを11日間旅行中なのだとか。
「東京喰種トーキョーグール」も「進撃の巨人」も「デス・ノート」ももちろん知っていた。マンガは日仏友好大使じゃないかと思う。
お父さんやお母さんとも話していると、またまたフランスがぐっと近くなった。

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毎週土曜日にはグランド・ソーシャル・クラブという店(前にアイリッシュ・ダンシングで行ったところ)でもフリー・マーケットをやっているというので、そちらにも寄り、男女兼用のナンチャッテお洒落ネクタイを買い、SPAR(コンビニみたいな店)で夕飯用のベーコンやチーズを買って、大荷物(ほぼ食べもの)でバスに乗った。

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フレンチというよりジャパニーズ

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日本は「山の日」だという金曜日。
山が少なく祝日も少ないアイルランドでは、金曜日は「ハッピー・フライデー」。先生もみんな浮かれて嬉しそうだ。
でも、私は嬉しくない。今週でお別れの生徒が二人。ブルーノとシャーリーンがフランスへ帰っていく。
先生はいつも最後の授業の生徒に尋ねる。
「ハッピー? それとも哀しい?」
生徒は大抵両方が混ざった答え方をする。
一人で見知らぬ土地に来て2〜3週間を過ごし、家に帰れるのは正直ホッとするところもあるのだろう。
ブルーノとシャーリーンが答えた後、聞かれてもいないのについ言ってしまった。
「アイム・サッド」。
「サンキュー」とブルーノ。

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休暇中のジェラルディン(このクラスのメイン教師)に代わってチョコレートを用意してくれたジョンは、慣れないテストを担当。「正解以外は何でも聞いて」と待ち構える。
ブルーノ、アドリアーナ(スペイン)と3人で挑んだテストは、他チームと並んで1位に(と言っても3つしかチームはないのだけれど)。
チョコを分けた後、日本から持って来た「舞妓チョコボール」をみんなに配ったら大好評。クラスの写真を撮っていい? と撮らせてもらって、解散。
シャーリーンと連絡先を教え合って別れる。
セシル、アレクシ、ローラ、ブルーノ、シャーリーンに新しいシェアメイトのレオとクエンティン。いつかフランスに行くことがあったら、みんなを訪ねて歩きたいなー。

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夜はマリエレナと一緒にごはん。いつも全然家でごはんを食べていないので胃が疲れているはず、と朝思い立って誘ったのだ。
昨夜の白飯の残りでオムライスをつくろうと思っていたけれど、3人分にはちょっと足りないので定番の天ぷらとざるうどんもつくる。
つくっていたらアレクシが覗いたので「すごく狭いけど、一緒に食べる?」と声をかけたら食べると言う。
そして、「いい匂い。それ、オムライス?」と。
オムレットライスじゃなく、オムライスとはっきり発音。
「知ってるの?」と驚くと「うん、それ、たぶん大好き」と。

聞けば、YouTubeで観たのだとか。

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マリエレナも気に入ったようで、二人で「エクセレント!」と食べていた。
揚げたての天ぷらを見たとき、最初にアレクシが言った言葉が「花みたい!」だったけれど、マリエレナも「ビューティフル!」と言っていた。
つまみに並べたブリーチーズには手をつけず、「フランス産だよ」と声をかけると「フランスのブリーとかカマンベールとか苦手」とアレクシ。チェダーとかゴーダとかハード系のなら大丈夫なのだそうだ。
「フランス人というより日本人だね」と言うと、「日本人というよりフランス人だね」と返された。

 

食事中に友達から電話があって、早々に「ゴチソウサマデシタッ」とアレクシ。片付けをしないことを何度も詫びながら出かけていった。

食事中はお腹がいっぱいになるからビールは飲まないというマリエレナは、終わってからビールを開けて「眠くなってきた」と言うので、どうぞ部屋で休んで、と娘と私。

客がはけた後の定食屋みたいに、ゆっくり片付け、まったり(行儀悪く)くつろぐ二人だった。

 

 

反骨を貫け!〜オスカー・ワイルドとチェスター・ビーティー・ライブラリーと『マンハッタン・ラブストーリー』

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木曜日は授業が午前中に終わるので、午後どこに行こうかとワクワク。
というのは嘘で、どこかに行かないともったいない、と思ってしまう貧乏性の私。
今日はどうしようか……と思案した末、みんながオススメするチェスター・ビーティー・ライブラリーへ行ってみることに。
イアン(先生)、ジョン(先生)、ストーリーテラー、大家さんのアン、そしてクラスメイトだったローラが「すっごく綺麗よ。日本のもたくさんあるから行くといいよ」と推薦してくれたライブラリーで、西欧社会に偏った展示物で埋め尽くされる他のミュージアムとは違い、日本、中国、インド、イスラム世界の美術品が展示されているらしい。

 

早速バスに乗ってシティセンターへと向かう。お腹が空いたとうるさい娘をなだめている最中、ちょうどバスはメリオン・スクエアを通過。そこには「ワールド・フード・マーケット」の看板が。
マーケットという響きほど人を魅了するものはない。目的地より手前だったけれどバスを降りてマーケットへと向かう。
メリオン・スクエアはオスカー・ワイルド銅像で有名な場所。
銅像に群がる観光客をバスの中から何度か見てはいたけれど、実物を前にして、一瞬時がフィードバックする。

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卒論のテーマはオスカー・ワイルドだった。30年以上も前だけど。
評論も何にも読まないで「感想文」を書き、担当教授に呆れられたのもいまは懐かしい思い出。ここで再会するとは思わなかった。
背徳・デカダンで知られるオスカー・ワイルドだけど、ダブリンでは人気で、本や栞、Tシャツその他いろいろ、街を歩けば彼の顔に当たるほどだ。

既成概念も道徳も政府もお金も芸術の前には無価値だと叫び、権威を嫌い、芸術のための芸術を貫いたオスカー・ワイルドは、ある意味でアイリッシュの代表のよう。
つるむのは好きだけど統制されるのは嫌いで、権力者の側に回るよりアウトローで居続けることをよしとする偏屈で心優しきシャイ・パーソン。


男色を咎められて投獄され、失意のうちに亡くなったと言われているけれど、ワイルドの反骨は失意なんてものとは無関係だったんじゃないかと思う。
弱冠46歳。葬儀には数人しか参加しなかったそうだが、いまこんなにもたくさんの人が会いに来ているなんて、本人もびっくりなんじゃないかな。
サロメ」も「ドリアン・グレイの肖像」も「幸福の王子」も、私は好きだ。

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ワールド・フード・マーケットにはアフリカ、インド、イタリア、スペイン、アイルランド、中国、韓国……とさまざまな国の料理が並び、迷った末にアフリカの炭焼きチキン、フィッシュ&チップス、餃子、炒麺を購入。
公園は食べもの片手にくつろぐ人が溢れていて、平日とは思えないピースフルな空気が漂っていた。

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のんびりし過ぎて、肝心のチェスター・ビーティー・ライブラリーに着いたのは4時近く。閉館まで1時間しかないので、大急ぎで館内を回る。
3月から8月までの浮世絵の企画展をはじめ、一代で財を成した採鉱王・チェスター・ビーティー卿が集めに集めた美術品の数々に、西洋世界から見た東洋世界を垣間見る。
みんながここを勧めた理由がなんとなくわかる。
アイリッシュは常にマイノリティの側に立つ、というより、立とうとする。

マーケットやイベントでも感じるのだけれど、リベラルであろうとする姿勢というか意志がベースにある気がする。

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中でも、虫眼鏡でも見えないほど小さな「マイクロ文字」で書かれた中国の石版(?)は、誰もが立ち止まって見入り、ため息をつく凄さだった。
いったいどうしたらこんなに小さな文字を書こうと思うのか。その偏狭さに感じ入る。
右から左へ書いていくアラビア文字のカリグラフィーを含む美術品も美しく、アブドラにもオススメしなくちゃ、とアラビア語バージョンのパンフレットを持ち帰る。

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カフェでビール、チーズケーキ、紅茶で一服し、家に戻って改めて白飯を炊いて晩ごはん。梅干しと海苔、ゴマ、わかめ茶漬け、カクキューのインスタント赤だしを添えて、『マンハッタン・ラブストーリー』(宮藤官九郎の2003年の名作ドラマ)を観ながら食べる。
大笑いしながらふと思った。
クドカンが書く登場人物たちって、みんなどこかが欠けていてどこかが過剰で不器用で、バカみたいに正直でお人好しで、すぐつるむのに組織や権威は嫌いで、お金や名声にはまるで縁がない。そう、まるでアイリッシュ
不思議な符合に妙に納得しながら、この人たちって最高だなと思うのだった。

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「みんなが幸せなら、僕も幸せ」

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朝から授業のはずのアレクシの靴が、まだ玄関にある。
ふーむ。また体調でも悪いのだろうか。
コンピュータ技師を目指すアレクシは、買ってきたものを温めるくらいでほとんど料理をしない。3人暮らしのときは私たちがごはんをつくるときは気軽に誘えたものの、6人になるとなかなか難しい。
でも、栄養バランスなんてものを知らないらしいアレクシは、時々妙に疲れていたり、食欲がなく食べずに済ませたりしているので気になる。

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ちょうど朝ごはんと昼ごはんを兼ねて味噌汁をつくろうとしていたので、ドアをノックして声をかけると、なぜだかわからなけれど起きられなくて遅刻したらしい。
そのうち降りてきて、味噌汁を一緒に食べた。
玉ねぎとじゃがいもと人参に卵をポトンと落として、こっちで売っていた信州の白味噌をといたスープ。出汁は水が違うせいか鰹節と昆布ではうまくひけないのだけれど、粉末の「あごだし」が力を発揮。無添加、鹿児島産の「あご」を砕いただけのもので、持ってこようか迷ったものの一つだったが、ものすごく重宝している。
アレクシはとっても美味しいと綺麗に食べて出かけていった。

 

午後の授業は過去形(past simple)と現在完了形(present perfect)の違いを学ぶ。
学生時代に習ったはずだけれど、実際使うときにはどっちがいいのか迷うのがこの二つ。
「ごはん食べた?」は“Did you〜?”なのか“Have you〜?”なのか。
なるほど!と思ったのは、「いつ」かがハッキリしている時は過去形を使う、という説明。
昔習ったはずだけど、モヤモヤしていた霧が晴れた爽快感。

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授業が終わってテディズ・アイスクリームを食べにピープルズ・パークという公園を抜けると、アブドラが一人で芝生に横になっているのが見えた。
誘いたいけど、アブドラはアイスクリームを食べないので、誘えない。
アイスを買って、戻ってきたら、アブドラも起きたところで、ちょっと話した。
食べてはいけないものが多いサウジアラビアからの留学生、アブドラは、ホストファミリー宅での食事でも苦労しているんだろうと思う。

 

「食べものだと、何があなたを幸せにする?」と尋ねると、とくになさそうな素ぶり。
「じゃあ、何があなたを幸せにするの?」としつこく尋ねると、“People”という返事が。
「みんなが幸せなら、僕も幸せ」なのだと。

 

「じゃ。僕は行かなくちゃ」と去っていく後ろ姿を見送りながら、あと1ヶ月、お酒も飲んではいけないからパブにも行けない彼の幸せに思いを馳せる。

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晩ごはんはお好み焼きと決めていた。ちょっとした娘のひと言で機嫌を損ねた私は、キャベツと豚肉を切って用意をするように、と命令口調で娘に指示出し。マーケットで買ったオーガニックのキャベツは、前にスーパーで買ったのとは違って柔らかく、友人が持ってきてくれた紅生姜のおかげで、本格的なお好み焼きの匂いがしてきた。

料理の時間がバッティングしてキッチンを譲ってくれたレオとクエンティンに「ちょっと味見する?」と声をかけ、あんまりお腹が空いてないというアレクシにも焼けたのを数切れ運ぶと、3人ともキッチンに集結。
3人でも狭いキッチンに最高記録の5人が入ってお好み焼きの試食大会。
「うーん、ヴェリーヴェリーグッド!」とアレクシ。レオとクエンティンも美味しそうに食べて、あっという間にお皿は空に。

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アレクシはその後パブに出かけていき、レオとクエンティンにキッチンを譲ったら、ハンバーグみたいなものを焼き、鍋にお湯を沸かしてタイ米をボイルし始めた。
アレクシとは違って料理をするレオとクエンティン。
家で全然食事をしている姿を見たことがないマリエレナ(イタリアからの留学生)も一緒に、いつか6人でごはんを食べられたらいいなー。
そこにアブドラもいられるといいのに。