55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

オジさんの笑顔は人を幸せにする

さて、1ヶ月経ったということは、私にはやらなければならないことがある。
それは髪を染めること。
いつもは美容院でお願いしているけれど、こちらで行くのはちょっと怖い。ヘナとインディゴ、そして保険としてシエロなど普通の酸性カラーも持ってきた。
できれば自然でトリートメント代わりにもなるヘナとインディゴで染めたかったけれど、時間がかかるので今回はシエロにする。
最近のは液ダレもしないし、随分手軽になったんだなぁと感心しながらバスルームで。シェアハウスなのでバスルームも共同のはずだったけど、この部屋はたまたまエンスイート(バスルーム付き)で、すごく助かる。

でも、憧れは染めることから解放されること。
晩年のリリアン・ギッシュみたいにシルバーヘアでひょこひょこ歩くオバアさんになりたい。
Pig-headed (習ったばかり! 視野が狭くて他人の意見に耳を貸さない人のことだそうだ)でもBig−head(そのまんま。自惚れ屋の偉そうな人のこと)でもなく、世界の不思議に目を輝かせ、子どもみたいに怒ったり泣いたり笑ったりできるオバアさんに。

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そんなこんなで遠出はやめて、午後からは地元の劇場に芝居を観に行く。
前回(『Every Brilliant Thing』)に続いて一人芝居。

数日間の公演だけどチケットは売り切れで、土曜のマチネーが追加に。昨晩オンラインでギリギリ、バルコニー席を確保したのだ。
ミュージカルならともかく、芝居がきついのは前回経験済み。テンポというかリズム重視だから、大事な台詞が聞き取れないし、知らない言葉もバンバン出てくる(っていうか、自分が普通に英語がダメなだけだけど)。
でも、SOLD OUTしている舞台がたまたま数席空いていて、家から15分の劇場で観られるのだから、と再チャレンジ。
娘もしぶしぶ付いてきた。

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結論を先に言えば、前回以上にわからなかった!
最初のひと言“October, 1978”だけはハッキリ聞き取れたので期待したのだけれど、全然ダメ。でも、それでも、凄くいい舞台だった。
タイトルは『The Man in the Woman's Shoes』。
動物たちと一緒に暮らしている年老いた靴職人が、スライゴーの町(後から知った)を女性の靴を履いて歩き、町で知り合いやそうでない人たちに出会い、帰ってくる物語。
https://www.timeout.com/london/theatre/the-man-in-the-womans-shoes
https://www.civictheatre.ie/whats-on/the-man-in-the-womans-shoes/2017-03-24/

 

驚いたのは、動物たちの声やミツバチの羽音を表現する見事さ。ひとりで音響さん顔負けの音を巧みに創り出し、いったい何匹の牛や犬や羊がそこにいるんだろう?と思うほど。
何にもない平場の舞台が、農場に、小さな窓を持つ家に、フットボール観戦で賑わうまちに、早変わり。
風の音や平手打ちはもちろん、3人が同時に喋るシーンも見事で、情景がありありとそこに出現する。


後から調べてわかったのだけど、最初はスライゴーのアートフェスで上演したこの作品、スライゴーの住民たちや文学者、いろいろな人たちと話しながら創り上げたのだとか。
Mikel Murfiという役者さん、只者じゃない。
人見知りで人懐っこくてセンシティブで偏屈でイノセントで愛くるしい、アイリッシュらしいオジさんを見事に演じて、会場はしばしば爆笑の渦。
終わった後は、「ブラボー!」という言葉が飛び交って、全員がスタンディング・オベーション
私も、なぜか終わった後涙が出た。

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客席を埋める多くは、普通の紳士淑女(つまり普通のオジさんオバさん)。劇場では毎日のように芝居や映画やコンサートが上演されていて、チケットは大人が€18、学生が€16。なんと来年2月にはエディ・リーダーのコンサートも控えてる。
中高年の男女が大声出して笑って泣いて、目いっぱい楽しんでいるのを見ると幸せな気持ちになる。とくに「オジさん」の愛らしさは、日本ではなかなか見ないものだ。

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終わってから、空腹でどうしてもサンドイッチを食べたい、という娘と店探し。迷った末、前に一度ビールを飲んだパブに入ると、素敵な顔をしたカウンターのオジさん(あえてそう呼ぶ)が、「サンドイッチ? 何がいい? 好きなのをつくるよ」と。
チキンサラダ入りのサンドイッチ、スープ付きに加えて、勧められたビッグ・オニオンリングも頼むと、びっくりするくらいオシャレな一皿が運ばれてきた。

こういうのが食べたかった、と感動してサンドイッチを頬張る娘。ビッグ・オニオンリングも少し甘くて柔らかい衣が不思議に美味しい。


「気に入った?」とカウンター越しに先ほどのオジさん。いたずらっ子のような目で私たちを覗き込んで、嬉しそうに「よかった」と。

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その後に立ち寄った薬屋さんでも、また素敵なオジさんが「日本から来たの? 今朝、日本の曲を聴いてたんだよ」と全く知らなかった音楽を紹介してくれて、またまた幸せな気分に。

https://youtu.be/nWCD9EtKPAY

 

オジさんの笑顔は人を幸せにする。間違いなく。

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 (ジェイムズ・ジョイスはどうだったんだろう?)