55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

ショッピングと米と石畳

日本から来ている友人のこと。
あの厳しい入国審査で、「(アイルランドに)何しに来たんだ?」と聞かれ、「U2のコンサートを観に」と答えたら、ものの2秒でパスしたそうだ。
30年近いブランクを経てfbで再会、このところ一緒にコンサートに行く機会が増えた友人は、ギターとサッカーと鉄道が好き。U2と会社の休暇、私がこちらに来ていることも重なって、初めてアイルランドを訪れることになったのだ。

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U2を観る以外に彼に託された使命は、米を運ぶこと。
決して頼み込んだわけじゃなく、このブログを読んで哀れに思い、米とその他もろもろを持ってきてくれたのだ。

 

今日はスーツケース片手に、ありがたくそれをいただきにダブリン市内へ。
「テンプル・バー」で待ち合わせると、巨大なトートバッグに米が5㎏(!)。
加えて、茶筅、茶托、梅昆布茶、お多福ソース、紅生姜、とろろ昆布、胡麻きびなご、菜箸、爪楊枝……。痒いところに手が届く、いや届き過ぎるラインナップ。親切が服着て歩いている人だとは思っていたけど、まさか、ここまでとは……。

とにかく空のスーツケースにいただいた食材を詰めさせていただく。持つよ、とは言ってくれるものの、米のせいで重量ギリギリ、30kgのスーツケースを運んできた彼に、これ以上持たせるわけにはいかない。

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その後、大勢の友人たちにお土産を買わなければいけない彼につき合い、珍しくショッピングへ。女性たちにはAVOCAの綺麗な色のストールとかいいんじゃない? と案内し、その後、ほとんどのアイルランド製品が揃うキルケニー・ショップへ。
青山通りを歩く人みたいに、綺麗な色のショッピング・バッグが次々に彼の肩にかけられていく。
自分は買わなくても、自分が好きなものを見るショッピングは楽しい。アイルランドの織物は見たり触ったりするだけで満たされるものがある。

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私は必需品の靴下とリップクリーム、娘にせがまれてバトラーズのベリーチョコを買った。

それにしても、スーツケースにとってダブリンの街は強敵だ。石畳にキャスターがボロボロにされたという話も聞いていたので、慎重に持ち運ぶ。
クレア・ストリートのバス停近くで買った重量感のあるパンも入っているスーツケースは、およそショッピングにはふさわしくない。

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夜は松井ゆみ子さん(料理研究家)のパートナー、マークに初めて会って、みんなでごはん。
“Thank you, thank you” 、“Sorry, sorry”と言葉を繰り返し、しかもゆっくり喋ってくれるマークの英語は聞き取りやすく、友人ともいきなりサッカーの話で打ち解けていた。
チップスを食べるのに、やはりチップス好きの娘のことを気にしてくれたり、デザートで注文と違うアイスクリームが載っていたらすかさず引き受けてくれたり、親切であたたかくて大らか。
松井さんとの出会いを聞いたら、「う〜ん……ロング・ロング・ストーリー」と照れた顔で言葉を濁す。
大学(トリニティ・カレッジ)では政治と経済を学んでいたそうで、松井さんが言うには、マークの家族はそういう話題でしょっちゅうディスカッションしているそうだ。
「政治は大事。一人一人が政治のことを考えることが」と言う真剣な顔に、この国の歴史が少しだけ覗いた気がした。

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美味しい地ビールと食事をいただいて、バスで帰宅。家に着くと、ヘトヘト。
改めてスーツケースを開けて、その充実ぶりと重さに感じ入りながら、気がついたらベッドで爆睡していた。

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レオナルド・コーヒーとグラタン・ド・フィノワ

さあ、4週目のスタートだ。
と張り切ってはみるものの……U2ライヴとモハーの断崖の後で、からだはheavy、心はempty。
4人のクラスメートが帰ってしまって、新たなクラスメートが来る日。掲示板を見ると、私の名前が一番上。そう、一番の古株になってしまったのだ。

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クラスに入ると元気で知的な女子が二人。イタリア人のエリカとジュリア。誰よりも早く席に着いている。
授業が始まると、喋る、喋る。イアン(先生)の質問に誰よりも早く答え、先生が「ちょっと待ってね」と言うほど。
やっぱり元気なのは圧倒的に女の子だ。

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この学校は夏場、ヨーロッパからクラス単位で留学生を受け入れたりするので部屋も時間もいっぱいいっぱいで、ZIG ZAGスタイルといって、午前と午後の授業が曜日で入れ替わる。
月・水・金は午後からなので、とても助かる。
代わりに火・木は午前9時からだけど、その分午後に出かけることができるからそれも嬉しい。
90分授業が2コマで途中に休憩が15分。娘のクラスは休憩時間も席に座っている子が多いが、私のクラスはほとんどの生徒が先生よりも先にサーッといなくなる。そしていい香りのコーヒーを片手に帰ってくるのだ。

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今日、初めて「コーヒー買いにいく?」と声をかけてもらった。ちょっと嬉しい。学校の近くにあるレオナルド・コーヒーはカフェ・ラテのテイクアウトが€2.2。安い。でも、本格的なコーヒーで、泡立てたミルクを注ぎ入れるときはちゃんと綺麗な模様が描かれる。
クラスメートたちと一緒にコーヒー片手に戻ってくるとジョン(先生)がクラスに行こうとしていたので追い越して部屋に入る。

 

ジョンの授業は文法もやるけれど、2〜3人でちょっとした話題について話し合うことが多い。たとえば「いらないけど、つい買っちゃうものって何?」とか。
そして生徒から必ず「ジョンは?」と尋ねられ、ひとしきり自分の話をする。
ジョンの「いらないけど買ってしまうもの」はスーツで、理由はスーツを着ると立派に見えるから。でも、着る機会がめったにないから、クローゼットにスーツを並べては「誰か結婚するか亡くなるかしないかな」と考えているそうだ。

 

さて、夕方授業が終わり、このところ外食が続いて財布も胃腸も疲れているので、家ごはんにする。
青りんごといただいた新ジャガがあるので、ポークソテーりんご添えとグラタン・ド・フィノワをつくることにして、豚肉と生クリームを買いにいく。
スーパーに行くと、食材が安いのに感動し、ついつい多めに買ってしまう。
今日は果物をたくさん、ペチャッとつぶれた形が可愛い桃と赤いりんごとレモンとバナナ、そしてブロッコリーと青ネギ(!)、そして燻してないベーコンも買ってしまった。
豚肉はロースの厚切りを3枚(600g)、生クリームは500gのを買ったのに、全部で€16(2000円ちょっと)。
嗜好品のアルコール類は日本と変わらないけれど、生活必需品、とくに食材は安くてびっくりしてしまう。

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家に戻るやキッチンに直行。グラタン・ド・フィノワが好きと言っていたアレクシ(シェアメイト。いまはクラスメートでもある)を誘って、一緒に夕飯を食べる。
席に着くと「レストランみたい」と目を丸くして「いただきます」と上手な日本語でアレクシ。
グラタン・ド・フィノワは前にクリスマス・ホームパーティーでつくって以来だったけど、頂き物の新ジャガが美味しくて、いい感じに仕上がった。
「これは、本物のグラタン・ド・フィノワだ」とアレクシ。りんごをポークに合わせるのは珍しいそうで、それも気に入ったようだった。

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オススメの音楽を聴きあいっこしながら、2時間以上食べ続けた。デザートはアレクシが買ってきたヨーグルト・アイスクリーム。
気がつくと、からだは軽く、心はすっかり満たされていた。

 

 

 

西へ。モハーの断崖へ

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U2明けの日曜日。
頑張って早起きして、東京からコンサートを観にやってきた友人と、娘のクラスメートと4人でモハーの断崖日帰りツアーに参加した。
アイルランドの西端にはいくつか凄い崖があって、その中でもモハーはその美しさで有名なところ。ダブリン中心地からバスで3時間半。
どこを切り取っても絵はがきになる緑の丘とのんびり草を喰む牛や馬、湖や川を眺めながら、一路バスで西に向かう。

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娘のクラスメートのアンジェラは、コロンビアからの留学生で、ひと月前からこちらに滞在している。娘にとっては初めてのクラスメートとの旅だけど、なんとか英語でコミュニケーションを図っている様子。
私はその後ろの席で、U2の感想を言い合ったり、だらだらと日本語のお喋りを楽しんだ。

 

あいにくの天気で霧がかかっていたけれど、長い時間をかけて荒波に削られた自然の要塞は、人間の手が及ばないものの屹立した美を湛えていた。
波の向こうに見えるのは、アラン諸島。アランの男たちは、いのちがけで海を渡らなければならず、女たちは独自の模様を編み込んだセーターを着せて、無事を祈ると同時に溺れてもわかるよう目印にしたという。

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カモメたちは崖など怖れることなくスイスイ飛んでいる。
私はへっぴり腰で近づき、200m下を覗き込んで、くらくら。
ジャガイモ飢饉のときには、ここから多くの住民たちが海を越えて西へ、アメリカ大陸を目指した。ちなみに、200mの高さから落下したら、たとえ下が海でも内臓破裂で間違いなく死に至るそうだ。
戦争中に(このモハーではないけれど)崖から海へ飛び込まなければならなかった人々は、どれほどの恐怖だっただろう。

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途中で娘らとはぐれ、合流してから尋ねると、もっと先へと歩いたらしく、写真を見ると霧が晴れ、空と海とがめちゃくちゃ綺麗だった。
あきらめが早い私たち大人とは違って、娘らは「霧よ晴れよ」と念じながらひたすら歩いていたらしい。
果たして霧は綺麗に晴れて、崖はその全貌を見せてくれたとか。

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その後、ボート(小型船)に乗って海から崖を眺める。
見事な地層は3億年前にできたそうだ。
波が穏やかな日にもかかわらず、アラン諸島にも行く船はけっこう揺れて、人間の小ささを思い知らせる。
ペンギンに見える岩の近くにカモメたちが集まっているのは、魚が集まる場所だからか。
飛べて、海の上で休むこともできるカモメたちに、私たち人間はどんな風に見えているのだろう。

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ダブリンに帰り着いたのは午後9時過ぎてから。
アイルランドを東から西へ横断したのだから当たり前だけど、けっこう長かった。
スペイン料理屋さんに入ってギネスを飲むと、いきなり2日間の疲れが押し寄せてきた。

濃い2日間だった。なんだか、もう、夏が終わってしまった気分……。

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U2のLIVEに行ってきた

2017年夏に3ヶ月のダブリン留学を決めた後、友人から「7月22日、部屋の隅っこでもいいから泊めてもらえないかなー」というメールが来た。
「なんで?」
「ホテルがどこも一杯だから」
「なんで?」
U2のコンサートだから!」

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1983年、WAR TOUR@新宿厚生年金会館でボノが掲げた白旗を、生涯忘れない、と思った。1980年に東京に出てきて、海外のバンドのLIVEが観られることに超感動し、新聞配達の人になりたい、と思っていた頃(いち早く来日公演情報を知ることができるのは新聞だった)、必死でチケットを取って観たコンサートの中でも、U2は飛び抜けて鮮烈な印象を残した。
抗う魂がそのまま音になり、歌になり、血のように、嵐のように迸っていた。
私は22歳。こういうバンドがいちばん好きだ、と思った。

 

とはいえ、その後ずーっと聴き続けていたわけじゃない。
『The Joshua Tree』であまりにもビッグ・バンドになってしまった彼らは、その後の日本公演は東京ドームになったし、社会に向けてメッセージを放つことも頻繁で、どこか雲の上の存在になってしまった。
そのバンドが、私がたまたまダブリンにいるときに、ホームグラウンドでLIVEをするなんて。


知ったとき、チケットはもちろんSold Out 。
でも、探してみたらすぐに転売サイトに行き着いた。
深夜2時。ドキドキしながら、清水の舞台から飛び降りたのだった。

チケットは高額で、しかもサイトの手数料がくっついて、2枚でちょうど日本からの往復航空券1人分と同じくらいだった。
勢いで買っちゃったけど、最近の乏しい収入からすれば、泣きたいくらいの出費。
前にドームで観た時は、スタンド席だったせいか年齢のせいか以前ほど感動しなかったし……と翌朝になって正直若干の後悔も押し寄せてきた。


でも、こんなタイミングでU2のダブリン公演があるなんて一生に一度、と思い直し、何の思い入れも苦労もなくチケットを1枚ゲットした娘に恩を着せまくりつつ、加えて友人も東京から来ることが決まって、7月22日はこの3ヶ月の一つのハイライトとして、心待ちにする日になった。

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テンプル・バーで友人と待ち合わせると、街はU2一色。あちこちのパブから流れて来るのはU2だし、マーケットには古いU2アイテムが並んでいるし、あちらこちらで飲んでいる人たちの多くがU2のツアーTシャツを着ている。

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コンサートのためにやってきた人たちを歓迎する街のムードは、花火大会のよう。花火が嫌いな人がいないように、U2が嫌いな人はいない。人々がみんなU2を誇りに思っている空気が街中に溢れていた。

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ギネスを半パイント引っかけて、早めに会場に向かう。
The Croke Stadium という、ふだんは国技(ゲーリックフットボール)にしか使われない巨大なスタジアムが会場で、警備はさすがに厚い。
ほとんどの観客は近くにホテルを取っているのか、手ぶらに近い。男性はボディ・チェックもされている。

念のためと望遠レンズをつけたカメラも持っていたので(ハンカチで包んでいたけど)ドキドキしながらカバンの中身を見せたら、すんなりOK。Checkedのリボンを付けてもらって中へ。

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ゲート前には仮設トイレがいくつも設置され、ビールやバーガー、チップスが売っているけれど、PITという席がないアリーナ席なので目もくれずに会場内へ。
でも、ツアーTシャツを買うのに時間がかかり、PIT内の場所を確保しようと思った矢先に娘がトイレに行きたいとかチップス買いたいとか言い出し、そうこうしているうちにPIT内は埋まり、背の高い観客の隙間から果たしてステージは見えるのか状態に。
PAを囲むフェンスの脇をなんとか確保して開演に備えたのだった。

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会場は巨大で、8万人収容できるとか。
ステージに設置されたプロジェクターも巨大で、ずっとメッセージが映し出されている。
世界の歪んだ正義によって殺された一人一人の名前が、夢が、見ることのなかった風景が、終わりのない映画のエンドロールのように流され続ける。

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オープニング・アクトはノエル・ギャラガー
オアシスの大ヒット曲も何曲か披露し、観客のほとんどが一緒に歌っていた。派手な演出は一切なく、きっちり演奏して「じゃ、ローカル・バンドにステージを譲るね」と去っていった。
ローカル・バンド? と一瞬思ったが、何のことはない、U2のことだ。

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30分くらいのインターバルを置いて、The Waterboysの“The Whole of the Moon” が流れ始めると、観客のざわめきが一気に弾ける。どうやらメンバーが登場したらしい。
私がいる場所からはPAの陰になって全く姿が見えない。巨大なプロジェクターは何も映さない。
「Sunday Bloody Sunday」が始まると、ほとんどの観客が総立ち(最初から立っているけど)で大合唱、そのまま「New Year’s Day」へ。

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そのうち、ピンスポットの下を探すと、隙間から見えた、ボノが。エッジが。ラリーが。アダムが。
プロジェクターの文字メッセージが動き出し、真っ赤な砂漠に立つ一本の樹、The Joshua Treeが映し出されると同時に、エッジのギターが、あの光の瞬きのようなフレーズを奏でる。ラリーとアダムのリズム隊が加わり、どこまでも続く一本道の映像とともに3曲目「Where the Streets Have No Name」。

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ああ、U2だ。
胸をかきむしるバンド・サウンド。
ボノの歌は深みを増してはいても激情を手放すことはなく、エッジのギターは少年の純粋さと怒りを変わらず宿している。

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1980年に4人で始めたバンドがいまも続いている奇跡。
人間がつくった社会システム、不条理が跋扈する世界への疑問、苛立ちを、音にして、言葉にして、放ち続ける情熱とエネルギー。

1983年に厚生年金会館で観たときと、もちろんバンドの成熟度も規模も社会的な意味も違うけれど、変わらない。
誰にも傷つけることができないもの。奪えないもの。
一人一人の中にあるはずなのに、巨大なシステムに呑み込まれて、あったことすら忘れてしまいがちなもの。
それが、バンドという形の中で奇跡のように護られて、眩しいほどの熱量で放射されている。

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ボノは歌だけでなくMCでも直接的なメッセージを口にし、驚くほどクリアで美しい巨大プロジェクターには、疑問と怒りと祈りを放つ映像が照射される。
そして、聴衆は共に歌い、腕を掲げ、Yesのメッセージを放ち続ける。

 

アイルランドがこのバンドを生み出したことへのリスペクトとプライド。

このバンドを好きでいる自分自身への信頼。

個の自由。愛と平和。言葉にすると薄っぺらく、すぐに風に吹かれてしまうから、何度でも意識的に満たされ続けなければならないものが、ギネスのように注がれ続ける。

エッジのギターは激しく空気を切り裂きながら、深く余韻をどこまでも広げていく。

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The Power of the People is Stronger than the People in power.

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最後は、愛と自由のために抗い続ける女性へのリスペクトとエールに溢れていた。

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4時間、いや待っている時間を含めると5時間立ちっぱなしだったけど、全然疲れなかった。っていうより、凄く力をもらった。
私より年上らしき女性たちも、ずっとビールを飲んで歌ってた。
明るくなったPITには、カールスバーグのペットボトルが、それこそ足の踏み場もないほど。

23時に終わり、市の中心地までの道は手を繋いで歩くたくさんのカップルをはじめ元気な人々で溢れ、やっぱり花火大会のよう。
深夜バスに乗り込んで思った。


清水の舞台から飛び降りて、本当によかった。

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学校3週目終了。クラスメートが帰っていく

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金曜日はちょっと緊張する。クラスメートと別れる日だから。
夏はイタリア、フランス、スペインから高校生がどっとやってくるので、語学学校は大混雑。ほとんどが2週間、3週間の生徒なので、毎週誰かしらがホームタウンに帰っていく。
3週間一緒だったヴィットリア、アリス、エマニュエルに加え、今週一緒になったマリアとフィリピーヌも今日まで。
きちんと御礼が言えるといいなと思って家を出る。

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エマニュエルはイタリア、トリノからの留学生で、クラスで唯一の一人っ子。先生に「どう? 」と聞かれて、“I don't share anything”と答えていた。
ちょっと斜に構えているけれど、一人っ子ならではの伸びやかさがあって、ドラゴンボールとサッカー好きで、ブレイのオックスファムで毎日数時間ボランティアしていて、クラスのムードメーカーでもあった。
初めての授業、「私は誰でしょう?」クイズでジャスティン・ビーバーになったので、私にとってはずっとジャスティン・ビーバー
ひと言ありがとうを伝えたかったけれど、残念、今日はお休みだった。

 

イアン(先生)の授業では、しょっちゅう“Murder”が出てくる。今日は私たちが警官になって、どうしてそこに死体があるのか、殺人か否か、を推理するというもの。
答えを知っているのはイアンで、私たちはYes/Noの質問だけができる。
二つのチームに分かれて、事件も二つ、どちらが先に真実に辿り着くかを競うのだけど、こういうとき、現役の高校生はもの凄くムキになる。とくにアリスは負けず嫌い。次々に質問を繰り出していく。その隙間に私も質問を挟む。

 

私たちの事件は、実際の事件なのかイアンの創作なのかわからないのだけど、カリフォルニアの丘の上で変な服を着た遺体が発見された理由を探るものだった。遺体は女性で、変な服は水着で、遺体の近くには焼けた木があって……と少しずつ事実が明らかになっていく。
答えは、Heatwave(熱波)が続いたカリフォルニアで森林火災が起こり、鎮火するためのレスキュー隊(ヘリコプター)が海の水ごと泳いでいた女性を掬い上げて落とした、というもの。
16歳のマリアは「えっ? それが答え? 本当に??」とショックを受け、子どものように目をまるくしていた。
でも、休み時間にはイアンに「あなたの授業、大好き!」と聖母マリアのような顔。顔だけ見ると本当に年齢がわからない。


2コマ目、ジョンの授業では、カルチャー・ギャップについて話し合う。外国を訪れた時に知って驚いたことについて。
アリスは、「イタリアでは家族みんなが一斉に食卓でごはんを食べるのに、アイルランドはバラバラ。びっくり」なんて言っていた。
私が「挨拶の仕方。フランス人は友人同士が普通に顔を合わせたとき、別れるとき、頬を合わせてチュッと挨拶するけど、日本人は決してしない」と言うと、ジョンも「僕たちもしない。だから顔をどう動かしていいか、力が入っちゃう」と。
イタリアでもスペインでも普通にするそうで、でも、男同士ではしないとか。
だけど、互いの距離を近づけるこの挨拶、素敵だなと思う。

授業が終わって、今日が最後のクラスメートに草加せんべいや舞妓チョコボールをあげて御礼を言うと、とっても喜んでくれた。せんべいは誰にあげても好評だ。
そして、「あの挨拶、してもいい? 」と聞かれ、「もちろん! 」と答えると、頬を合わせてキスしてくれた。

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授業が終わると、松井ゆみ子さんが学校の前で待っていてくれて、一緒にごはんを食べる。近くにあるHaddington Hotelのイタリアンに連れていってもらったら、びっくりするくらい綺麗で美味しかった。
フランス料理のヌーヴェル・キュイジーヌを取り入れた感じで、美しく盛り付けられたひと皿が運ばれる度に感激し、食べるとその味の繊細さにまた感じ入る。

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アイルランドで外食産業が活発になったのはここ十数年のことで、“シェフ”という言葉がポピュラーになったのはここ数年のことらしい。
でも、これまでに入ったレストランはどこも平日でもたくさんの人で賑わっていた。

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友人や家族と美味しい料理を囲むことに勝る幸せはない。
10年間音楽業界にいて、アイルランドで写真を学び、いまはこちらで料理をつくり、レシピを書き、写真を撮り、本をつくる仕事をしている松井さんに、いろいろな話を聞きながら外を見ると、いつにも増して海の色が深かった。

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3週間、あっという間だったな。
無意識に入っていた肩の力がようやく解けてきた気がする。
どこにいても、どこで生まれても、人は人で温かい。

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さあ、明日はU2のLIVEだ。

 

 

 

 

雨の後の海は、なんでこんなに綺麗なんだろう

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朝からシェアメイトのアレクシ(アレクシスではなく、アレクシらしい)は元気がない。
こないだはチョコがけのシリアルにミルクをたっぷりかけて、さらに食パンを2枚、チョコペーストを塗って食べていたのに(フランスの若者たちは多くが毎朝チョコペーストを食べるらしい)、お茶を前にため息をついている。
私たちの風邪が移ったんじゃなければいいなと思いながら尋ねると、暑かったり寒かったりでよく眠れなかったとのこと。結局、お茶とスナックで済ませていた。

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なんとなく家を出るのも一緒になって学校まで一緒に行くと、クラスメートのニッコロにも「ちょっと疲れた」と言っている。ニッコロも「僕も」と。
知らない土地での一人暮らし、料理もできないと言っていたから、疲れもするだろう、と思う。親子で来ている私たちは、「拠りどころ」があるという意味では、ずっと疲れが少ないと思う。
それに食べたいものを自分でつくることもできるし。

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Hometown。
HEATWAVEというバンドの山口洋さんが「最近、Hometownがテーマなんだ」と話していて、その言葉が引っかかっている。
私は山口県で生まれたけれど、Hometown って、大事な人がいる場所のことなんだろうなと思ったりする。その人がたとえいなくなったとしても、心に居てくれさえすれば、自分自身がHometownになれるのかもしれない。
そしたら、Homesick にかからずにどこでも生きていけるのかな……なんて思いをめぐらしていたら、娘がこないだ言っていたことを思い出した。
「かあ(私の呼称)のホームタウンは私(実際には自分の名前)でしょ」
うーん。どちらかと言えば逆にような気がするが、まあ、いいか。
そして、娘のホームタウンは私ではなく、“とう”なのだった(はっきり言いはしないが)。

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親子で留学すると言ったら、友人たちに凄く羨ましがられた。でも、「よく娘さんがいいって言ったね」とも言われた。
私が娘の留学についていくようなイメージなのかもしれないけれど、今回は私の発案。去年の夏にふっと思いついたことに、娘が乗っかった、というのが正しい。

 

クラスでは、初めてマリアと話す。大人びて見えるけどまだ16歳のフランス人。休憩時間に買ってきていたカフェラテを「いい匂い」と言ったら、1個くれた。びっくりして、「何で?」と尋ねると、定員さんが間違って2つくれたのだとか。なんてラッキー。
「一人で留学しているの?」と聞かれ、「娘と一緒だよ」と答えると、凄く羨ましがっていた。「私もママと来たい」と。ホントかな。
今日初めて一緒にグループ・ワークをしたニッコロもマリアも日本のことを尋ねてくれて、とくにニッコロは去年日本に行くことを計画していたみたいで、「センパイって先生のこと?」「“ちゃん”ってナニ?」とか聞いてくれて嬉しかった。

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午前中で授業が終わり、何処かへ出かけるより家でゆっくり勉強でもしたい、と珍しく娘が言うので、ランチだけしに海沿いにある「Fish Shack」というお店に行ってみる。
松井さん(料理研究家)オススメ、フィッシュ&チップスが美味しい人気店らしい。
行くとちょうど入れて、テラス席でエビフライ(パン粉がついているのは珍しい!)とフィッシュ&チップスを注文。どちらも素材が新鮮でタルタルソースが付いていて美味しかった。
隣のテーブルに座った女性が「どこから?」と話しかけてくれて「日本です」と答えると、昔、城崎に行ったことがあるとのこと。屋久島にも行ったそうで、日本は大好きだと言っていた。ずっと前のことらしいが。

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その後、また近くのテーブルに座った女性も、日本に行ったことがある、大好き、と。アメリカ大使館のそばに住んでいて、鳥と木が花よりも好きなのだとか。
二人とも「アイルランドを楽しんでね」と温かい笑顔。こういうところにぐっとくる。

 

テラスでは突然の雨に降られ、「これがアイルランド」と教えてくれる女性と一緒に傘を差しながらやり過ごす。30分もすると雨は止み、また太陽が戻ってきた。
「雨はすべてのものを綺麗にする」と先ほどの女性。

雨に洗われた海は、驚くほど深く透明で、清らかな光を反射していた。

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家に戻って勉強するのかと思いきや、なんのことはない、娘は爆睡。
私もゆっくりして、夜になってごはんをつくる。
そんなにお腹も空いていないので、チキン・ウィング(手羽元と手羽先が両方入ってた)とリーキ(長ねぎ代わり)をシンプルに焼いて、娘はそのまま、私は焼いたものをスープにして(鴨なんばん風に)。

つくっている最中、珍しく家にいるアレクシの部屋をノックして声をかけたら、「大丈夫、でも夕飯はいらない」との返事。でも、焼いただけのと、スープにしたものを両方(娘は、随分おせっかいだね、と言ったけれど)持っていってみたら、受け取ってくれた。よかった。

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遅い夕飯を食べていたら、リンキン・パークのヴォーカリストが亡くなったとのニュースが。ショック。

大きなステージの真ん中に立って、どんなにたくさんのファンに囲まれていても、Hometown は遠かったのかな。

本当のところは誰にもわからないけれど。黙祷。

 

 

雨の後の海は、なんでこんなに綺麗なんだろう

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朝からシェアメイトのアレクシ(アレクシスではなく、アレクシらしい)は元気がない。
こないだはチョコがけのシリアルにミルクをたっぷりかけて、さらに食パンを2枚、チョコペーストを塗って食べていたのに(フランスの若者たちは多くが毎朝チョコペーストを食べるらしい)、お茶を前にため息をついている。
私たちの風邪が移ったんじゃなければいいなと思いながら尋ねると、暑かったり寒かったりでよく眠れなかったとのこと。結局、お茶とスナックで済ませていた。

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なんとなく家を出るのも一緒になって学校まで一緒に行くと、クラスメートのニッコロにも「ちょっと疲れた」と言っている。ニッコロも「僕も」と。
知らない土地での一人暮らし、料理もできないと言っていたから、疲れもするだろう、と思う。親子で来ている私たちは、「拠りどころ」があるという意味では、ずっと疲れが少ないと思う。
それに食べたいものを自分でつくることもできるし。

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Hometown。
HEATWAVEというバンドの山口洋さんが「最近、Hometownがテーマなんだ」と話していて、その言葉が引っかかっている。
私は山口県で生まれたけれど、Hometown って、大事な人がいる場所のことなんだろうなと思ったりする。その人がたとえいなくなったとしても、心に居てくれさえすれば、自分自身がHometownになれるのかもしれない。
そしたら、Homesick にかからずにどこでも生きていけるのかな……なんて思いをめぐらしていたら、娘がこないだ言っていたことを思い出した。
「かあ(私の呼称)のホームタウンは私(実際には自分の名前)でしょ」
うーん。どちらかと言えば逆にような気がするが、まあ、いいか。
そして、娘のホームタウンは私ではなく、“とう”なのだった(はっきり言いはしないが)。

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親子で留学すると言ったら、友人たちに凄く羨ましがられた。でも、「よく娘さんがいいって言ったね」とも言われた。
私が娘の留学についていくようなイメージなのかもしれないけれど、今回は私の発案。去年の夏にふっと思いついたことに、娘が乗っかった、というのが正しい。

 

クラスでは、初めてマリアと話す。大人びて見えるけどまだ16歳のフランス人。休憩時間に買ってきていたカフェラテを「いい匂い」と言ったら、1個くれた。びっくりして、「何で?」と尋ねると、定員さんが間違って2つくれたのだとか。なんてラッキー。
「一人で留学しているの?」と聞かれ、「娘と一緒だよ」と答えると、凄く羨ましがっていた。「私もママと来たい」と。ホントかな。
今日初めて一緒にグループ・ワークをしたニッコロもマリアも日本のことを尋ねてくれて、とくにニッコロは去年日本に行くことを計画していたみたいで、「センパイって先生のこと?」「“ちゃん”ってナニ?」とか聞いてくれて嬉しかった。

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午前中で授業が終わり、何処かへ出かけるより家でゆっくり勉強でもしたい、と珍しく娘が言うので、ランチだけしに海沿いにある「Fish Shack」というお店に行ってみる。
松井さん(料理研究家)オススメ、フィッシュ&チップスが美味しい人気店らしい。
行くとちょうど入れて、テラス席でエビフライ(パン粉がついているのは珍しい!)とフィッシュ&チップスを注文。どちらも素材が新鮮でタルタルソースが付いていて美味しかった。
隣のテーブルに座った女性が「どこから?」と話しかけてくれて「日本です」と答えると、昔、城崎に行ったことがあるとのこと。屋久島にも行ったそうで、日本は大好きだと言っていた。ずっと前のことらしいが。

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その後、また近くのテーブルに座った女性も、日本に行ったことがある、大好き、と。アメリカ大使館のそばに住んでいて、鳥と木が花よりも好きなのだとか。
二人とも「アイルランドを楽しんでね」と温かい笑顔。こういうところにぐっとくる。

 

テラスでは突然の雨に降られ、「これがアイルランド」と教えてくれる女性と一緒に傘を差しながらやり過ごす。30分もすると雨は止み、また太陽が戻ってきた。
「雨はすべてのものを綺麗にする」と先ほどの女性。

雨に洗われた海は、驚くほど深く透明で、清らかな光を反射していた。

 

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家に戻って勉強するのかと思いきや、なんのことはない、娘は爆睡。
私もゆっくりして、夜になってごはんをつくる。
そんなにお腹も空いていないので、チキン・ウィング(手羽元と手羽先が両方入ってた)とリーキ(長ねぎ代わり)をシンプルに焼いて、娘はそのまま、私は焼いたものをスープにして(鴨なんばん風に)。

つくっている最中、珍しく家にいるアレクシの部屋をノックして声をかけたら、「大丈夫、でも夕飯はいらない」との返事。でも、焼いただけのと、スープにしたものを両方(娘は、随分おせっかいだね、と言ったけれど)持っていってみたら、受け取ってくれた。よかった。

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遅い夕飯を食べていたら、リンキン・パークのヴォーカリストが亡くなったとのニュースが。ショック。

大きなステージの真ん中に立って、どんなにたくさんのファンに囲まれていても、Hometown は遠かったのかな。

本当のところは誰にもわからないけれど。黙祷。