55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

ヨーロッパ最西端、ディングルの岬へ

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今日はディングル半島岬めぐりツアー。
ダブリンからは遠くて諦めていたけれど、アイリッシュ・パブのマスターが見せてくれたディングルの月の写真が忘れられず、数年前にドライブで回ったという友人も凄くよかったと言っていたので、行くことにしたのだ。
調べていると、同じツアー会社“Paddy Wagon Tours”が催行しているケリー周遊路ツアーも魅力的で、最後まで迷ったもののディングルに決めた。
もっと運転が上手くできるようになったら、南はキンセールから北はドニゴールのマリンヘッドまで2500kmをつなぐ“Wild Atlantic Way”をドライブしてみたい……と夢はふくらむけれど、それはまたいつかの話。

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バスも頻繁にはないから、遅刻しないように早起きして、余裕を持ってアパートを出た。が、早く着きすぎてスタバでのんびりしていたら、集合場所にはたくさんの人の列が。
あわてて列に並び、バスに乗り込んだら、チケットの確認もなく出発。随分適当なんだなと思っていたら、娘が「さっきからケリーとかキラーニーとか言ってない?」と。
あわてて隣の乗客に行き先を尋ねると「ケリーだよ」との返事。あわててガイドさんの元に走り、「私たち、ディングルに行きたいんだけど!」と言うと、そしらぬ顔で「大丈夫、座ってなさい」。

どういうこと? と前の乗客にまで尋ねたら、「方向が一緒だから、途中で乗り換えができるんじゃないの?」と。でも、不安は消えない。そのうち、ケリーでもいっか、という気にもなってきた。
果たして1時間半後にバスはキラーニーに到着。ここで1時間ゆっくりして11時に出発するらしい。同じ駐車場にディングル行きのバスを発見して、ひと安心。

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キラーニーではさしてお腹も空いていなかったけれど、何か食べておけということかと推測し、BLTサンドイッチをテイクアウトで注文。ガイドさんが何度も「迷うなよ。迷ったら人に聞けよ」と言っていたけれど駐車場への帰り道が見事にわからなくなってしまい、歩いている人に聞いたら途中まで案内してくれた。
誰もが親切。そしてBLTサンドは驚く美味しさだった。

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ディングル半島は、古くは『ライアンの娘』から最近では『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』のロケ地としても知られ、「ギザギザ」の海岸線に切り立った断崖と美しい砂浜が共存し、遠くにはスケリッグ・マイケルという絶海の孤島や、数々の作家が絶賛したグレート・ブラスケット島を眺めることができる場所。

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バスの外を眺めているだけで、次々に現れる絵葉書の巻物のような景色に目が奪われる。細く曲がりくねった断崖の道を、ガイドもしながら運転もする運転手さんは写真まで撮ってくれて、どれだけ働く人なんだろうと頭が下がりっぱなし。
インチ・ビーチではたくさんの人がウェットスーツを借り、なんちゃってサーフィン講習を受け、次々に海に向かっていた。

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「次が一番、一番アメリカ大陸に近い場所!」という運転手さんの案内でスレー・ヘッドに降りると、白亜の十字架が北大西洋を見下ろすように神々しく立っていた。1588年、スペインの無敵艦隊が沈没した海域でもあるという。

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アイルランドは西に行くほど岩肌が見えるほど土が乏しく、植物がへばりつくように生えているが、この半島もその一つで、人々が暮らす環境としては相当厳しいのだろうと肌で感じられる。
19世紀半ばにアイルランド全島を襲ったジャガイモ大飢饉では100万人以上の人が亡くなり、200万人以上の人がコークの港から船出し、アメリカ大陸をはじめオーストラリアやニュージーランドにまで渡ったそうだ。

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それも、元を正せば1649年に「鉄の宰相」クロムウェルアイルランドを侵略し、信仰の自由、土地、財産、権利を奪ったせい。多くのカトリック教徒が殺されたり奴隷として輸出されたりしただけでなく、ほとんどのアイルランド人が小作人にさせられ、肥沃なダブリンから西部へと追いやられ、さらにつくった小麦は英国に召し上げられたため、わずかな土地でつくるジャガイモで生き延びるしかなかった。そこに大飢饉が襲ったのだ。
運転手さんの話は全部はわからなかったけれど、クロムウェルという言葉が何度も出てきたことからこういうことを伝えていたんじゃないかと思う。
飢饉が続く中、アイルランドから英国への食料輸出は5年も続き、英国がこのことを正式に謝罪したのは1997年。アイルランド全島の人口は、大飢饉以前には未だ戻っていない。
辛いことが多すぎるこの国の歴史の中でも、ジャガイモ大飢饉はその前とその後で歴史が二分されるほど決定的な影響を与え、アイルランド語を話す人も激減したという。

 

人間にとっては住みにくい土地も、野鳥にとっては天国で、とくにマイケル・スケリッグはパフィンの産卵場所として知られているそうだ。アザラシやイルカもたくさん。
そして自然が織りなす風景は、人間たちの営みとは無縁の、永遠を感じさせる美しさだった。

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学校や仕事が乏しいから若い人は他県へ出て行くそうで、ディングルの人口は2000人くらい。主要な産業は農業と漁業。オンシーズンは毎日観光バスが出ているから、中心地ディングル・タウンには賑わいがあって、美味しいシーフード料理店やパブやアイスクリーム屋さんがたくさんある。
岬を一周りしてディングル・タウンに着いたのが15時過ぎ。“Enjoy a pint of Guinness, enjoy a glass of whisky and seafoods!”と言われて街へ。
食べることのできる幸せを噛み締めながら、もう一度、ゆっくり訪れたいと思った。
その時は、アイルランド語が普通に交わされるパブに行って、漁師さんの会話を聞けたらいいなぁ。

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