『リヴァーダンス』に見る反骨とプライド
アイルランドは憧れの地ではあったけれど、訪れたことはなかった。
イギリスまでは行っても、アイルランドはなんだか遠く感じて、どうしても行きたいとは思わなかった。
海外にしばらく住みたいなぁ、と思ったのは昨年の夏。思いついたのはニュージーランドやオーストラリアで、ヨーロッパはちょっと難しいだろうと思っていた。
それを劇的に変えてくれたのは友人からの年賀状。
「娘はダブリンに留学中」。
その一言にぐっと来た。
ダブリン……!
すぐに「ダブリン 留学」と検索したら、いい情報しか出てこない。
調べれば調べるほど魅力的な街。夫は昔旅したことがあって、「いい街だよ。あそこだったら僕も住みたいな」。
U2、ホットハウス・フラワーズ、エンヤ、クランベリーズetc.アイリッシュ・ミュージックは元々大好きだった。そして私の友人たちは口を揃えて「アイルランド! いいなぁ〜」と言い、アイリッシュの文化と歴史、自然の美しさ、人の温かさを滔々と語った。
というわけで、いま、ここにいるわけだけど、今日はそもそものきっかけをつくってくれた友人夫婦、娘ちゃんと会う日。
友人いわく「好き過ぎて、毎日でも観たい」『リヴァーダンス』を一緒に観に行った。
チケットは前持って取っていて、一階席の真ん中のとてもいい席。
古いオペラハウスのように舞台を客席が円形に囲むゴージャスな空間で、雰囲気があり、バーも併設されている。
『ONCE』の時以上に、妙齢の紳士淑女、子どもたちなど幅広い年齢層が客席を埋め尽くすなか、ケルトの調べが荘重に鳴り響き、毎年3ヶ月のロングラン興行をしている舞台が始まった。
休憩を挟んで2時間15分。
この晴れがましい舞台の裏には、どれほどの血と汗と涙が流れているんだろう……と想像せざるを得ないパフォーマンスだった。
そもそも16世紀に侵攻した英国軍にゲール語も踊ることも禁止されたなかで、窓から見えないように足だけで踊ったことがアイリッシュ・ダンスの始まりと言われているけれど、凄まじい反骨精神とアイリッシュの誇りが滴るようなダンスだった。
16人の踊り手は終始笑顔で、上体を真っ直ぐ伸ばしたまま、下半身だけで伝統的なステップを小気味好く刻む。一体どれほど練習すれば、こんな風に踊れるんだろう。
時折挟まれる歌や演奏、フラメンコ、ヒップホップの要素を加えたタップダンス、ロシアン・ダンスがそこに新しさと変化を時にユーモラスに加え、フィナーレまでどんどん上昇曲線を描いていく。
一つ一つのパフォーマンスも、エンターテインメントとしての構成も、客席との一体感も、凄まじい熱気に満ちて見事だった。
実は、今日は授業で凹むことがあったのだけど、終わりよければ全てよし。
明日にはコペンハーゲンへ発つという友人夫婦からは草加せんべいのお土産までもらって、のんびりバスでダン・レアリーまで帰る。
笑顔と伸びた背筋。
反骨とプライド。
これからまた凹むことがあったら、観にいこうっと。