55歳からのアイルランド留学日記

3ヵ月、ダブリン郊外の語学学校に通いつつ、ケルトの風に吹かれてくるよ〜

ギネスケーキと虹とピンクのイルカ

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4週目が終わった。
今日で帰ってしまうのは、イタリアン・ボーイのニコロとフィリッポ、フレンチ・ボーイのリッツィー。
ニコロは旅好きで日本にも来たいと言っていた。
フィリッポは背が高くてコンピュータ・プログラマーを目指してる。
リッツィーは銀行に勤めるお姉さんと一緒に留学していて、時々買い物に付き合わされていた。

金曜日はいつも少し緊張する。ちゃんとお別れが言えるかな、と。
友達というには程遠く、休み時間に一緒にコーヒーを買いにいったくらいでも、もう二度と会えないと思うと、よぎるものがある。


クラスのみんなで食べようと、松井ゆみ子さんからいただいたギネスケーキ(ドライフルーツがたっぷり入っている大人のケーキ)を持って学校へ。

いつもと変わらない授業だったけど、1コマ目は初めてのテスト。月末の金曜日にやるそうで、学校が生徒の達成度をチェックするためのものらしい。
私の達成度は40%くらい。ひどいものだ。


休み時間は、帰ってしまう生徒は事務室に行かなければいけないので、ひとりでレオナルド・コーヒーへ。お店のスタッフさんがいつものコーヒー、いつものサイズを覚えていてくれるのが嬉しい。

 

ジョンの授業が終わり、すぐさま帰ろうとするクラスメートたちに、勇気を出してギネスケーキを出す。
ジョンも、帰り支度をしていたニコロやフィリッポ、リッツィーも手を止めて食べてくれて笑顔に。アレクシは残っているひと切れを見つけて、「もう一つ食べていい?」。

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このクラスの最後の日だから、と初めての記念撮影もできた。
ネスケーキに感謝!(あんまり美味しいので、私がクラスに持っていくことを嫌がっていた娘も、後で「よかったね」と言った)

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学校が終わると、クラスメートのローラ(日本語を勉強しているフレンチ・ガール)が娘をごはんに誘ってくれた。イタリアン・ガールズも一緒らしい。アレクシが気を遣って私も誘ってくれたので、若干躊躇いつつも(イタリアン・ガールズのパワーには尻込みするものがある)一緒に行くことに。
待ち合わせまでの時間、アンジェラ(娘のクラスメート)とテディズ・アイスクリームへ。
アイスクリームはもはや給食。一日一食食べないと落ち着かない。

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ベジタリアン(そこまで厳格ではない)のアンジェラにとっては初めてのテディズ・アイスクリームらしい。
少し雨も降ってくるなか、錆色の海を見ながらアイスを食べていると、だんだん雲が流されて陽が射してきた。
気がつけば、虹が。

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大騒ぎしながら写真を撮っていたら、虹の橋の反対側の袂も見えてきた。

モハーの断崖のときも雲を吹き飛ばしたらしいアンジェラに「マジカル・パワーの持ち主ね!」と言ったら「そう(笑)。川で泳いでいた時、ピンク・ドルフィンがタッチしていったし」。
ピンクのイルカ?
川で?
びっくりして聞いたら、検索して写真を見せてくれた。本当にピンクだ。すごく愛らしい。
3500万年前の鯨と同じ特徴を備えていて「生きた化石」と言われるけれど、他の多くの生物たちと同様、絶滅の危機に瀕しているそうだ。
http://us.whales.org/wdc-in-action/amazon-river-dolphins-colombia-omacha-foundation
https://youtu.be/ZCJgvabihQ8

アマゾン川だけに生息するらしく、ということは、アンジェラはアマゾン川で泳いでいたのか。
「ミューズ」という言葉を口にすると、笑って首を横に振っていた。

 

アンジェラと別れ、ブラックロックという街で待ち合わせ、ローラ、アレクシ、トニー(ドイツ人女性)、イタリアン・ガールズと総勢11人でごはん。

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イタリアン・ガールズはみんな18歳未満で、巨大なピザとパスタを頬張りながら喋る、喋る。
黒一点のアレクシは全然違和感なく、ローラと二人、私たちを気遣ってゆっくり話してくれる。
国柄と人柄。いろいろなことに気づかされる。

バリバリ音がするほど衣が固いフィッシュ&チップスをバリバリ食べて、海沿いを歩くと、潮が引いた後の浜に海鳥がたくさん休んでいた。

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太陽の角度のせいか、空気が澄んでいるからなのか、いつでも、どこでも、何度でも、感動する風景が、この国には彼方此方にある。

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昨日で1ヶ月。
1週目より2週目のほうが、2週目より3週目のほうが早かった。
これ以上加速度を増してほしくなーと願う。

 

 

 

7km続く崖の道。クリフウォークを歩く、歩く

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さて、日本で予約した公演(リヴァーダンス、U2)は観てしまったし、それぞれ一緒に行った友人たちも帰って、今日から普通の日々。
少し外食し過ぎたから、しばらくは自炊の日々を送らなくちゃ、と冷凍庫のイカを冷蔵庫に移して家を出る。

 

4週目、誰よりもクラスに長くいる私だけれど、喋るのはやっぱり苦手。隣の人と話して、と言われると、ハーッとため息が出てしまう。
今日のジョンの授業は「犯罪と裁判に関わること」で、聞いたこともないような単語が次々に。現役高校生のフィリッポ(18歳)も、シェアメイトでもあるアレクシ(23歳)も、単語を知っているだけでなく、どんどん喋るので、私が入るとテンポが狂う。
そのうち諦めたように二人で喋りだしたので、私は脱落を決め込んで単語の意味を一つ一つ確認していく。
英語って、100万語あるらしい。で、裁判官とか弁護士、医者、科学者、作家などスペシャリストを除くと、実際にはその1%しか使わないで生活しているとか。
1%といっても1万語。大学受験で目指すのはそこなのか、と改めて思う。
一方、キャロライン(先生)の授業は、句動詞(phrasal verb)で、turn out とかget alongとか簡単な動詞と助詞(?)の組み合わせの意味を学ぶ。これがまた推測が難しい。

 

今週入ってきたエリカとジュリアは、優秀で勝気なイタリアン・ガール。びっくりするくらい言葉を知っていて、二人とも早口でよく喋る(ともに17歳)。
エリカはべジタリアンで、5年前のある日、たまたまビデオを観て肉を食べるのを止めたそうだ。動物たちには意識も感受性もあって、食べられるために生きているわけじゃない、と。
5年前といえば12歳。凄い感性と意志の力だ。

 

午後は久しぶりに学校主催の遠足に参加。
ドッグ・レース、ボウリングに続いて、サリーが引率してくれる。加えて、イタリアから2ヶ月臨時スタッフとして来ているニコラスも。
エリカも友達2人を誘って参加していて、私と娘を合わせて生徒は5人。計7人でブレイからグレイストーンまでの“Cliff Walk”に出発。

 

それにしても、“Cliff Walk”って何なのだろう。ボウリングのとき、サリーが勧めてくれたから申し込んだものの、海沿いの崖(!)7kmを2.5時間かけて歩くイメージが全然持てない。アスリートである必要はない、という言葉に頼って参加したものの、若干の不安がよぎりながらサンディコーヴからブレイまで電車に乗る。

ブレイの街は、前に来た時とは全然違っていて、移動式遊園地のアトラクションが、ダン・レアリーとは比べ物にならないくらいたくさん、シーサイドを埋め尽くしていた。

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「アレ乗りたい!」と騒ぐ娘をなだめながら、サリーとニコラスがどんどん先を行くので、必死でついていく。
フィッシュ&チップスやアイスクリームもガマンガマン。しばらくはトイレがないというので、みんな公衆トイレに行って、いよいよスタート。

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降りかけた雨も止み、綺麗に晴れ渡った空を移して海の色はエメラルドグリーンからネイビーまでグラデーションで光り輝き、海鳥がその間を旋回している。

崖線は歩けるように整備されていて、起伏はあるもののなだらかで、歩くほどに海と空と崖と線路と野生の花々の壮大なパノラマが出現する。

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モハーの断崖に一緒に行ったアンジェラは別の予定があったのだけど、そちらは雨で中止になった模様。一緒に来られればよかったね、見せてあげたかったね、と娘と二人で悔しがる。
まあ、お金もかからないし、お天気のいい日にまた来ればいいのだけれど。

 

脚の長さがまるで違う私たちは、何度もみんなの足を引っ張りながら、なんとかついていく。私と二人こんな道を歩くには、しりとりでもやらないと耐えられない、と娘が言うので、英語しりとりをやりながら歩く、歩く。

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眼に映る景色はどんどん変わり、崖に張り付くように咲いている濃いピンクのヒースの花やワタスゲ(?)、風に舞う大きなタンポポの綿毛、波打つ黄金の草など、アイルランドならではの風景は、とても写真に収めきれない。

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そのうちグレイストーンの海岸に出て、みんなで記念撮影。
詳しいことを知らずにエリカについてきたらしいイタリアン・ガール(最初サリーに「どのくらい歩くの?」と尋ね、7kmと聞いてショックを受けていた)は、革の編み上げブーツの底が外れてパカパカしていた(>_<)

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歩いたあとはもちろんアイスクリーム。
ニコラスが教えてくれて空を見ると、太陽を縁取る雲が虹色に光っていた。

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家に帰って、イカとブロッコリーとトマトのパスタをつくり、ワインを開けて、グラタン・ド・フィノワとともに夕ごはん。
「このパスタ、超美味しい!」と娘。「食べてしまうのが惜しいくらい」と。
そういえば、昔初めて両国の焼肉屋でイベリコ豚を食べたとき、帰りの電車の中でもずっと何かを噛んでいるので尋ねたら「イベリコ。飲み込むのがもったいない」と言っていたな。

ベジタリアンにはとてもなれそうにない娘と、サウジアラビアやコロンビア、クラスメートの生まれた国のことを調べたり、話したりしながら、夜が更けていった。

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ダン・レアリーに夕陽が沈む

ここダン・レアリーの天気は気まぐれで、降ったり晴れたり、強い風が吹いたり凪いだりを一日のうちに何度も繰り返す。
朝から雨模様、野菜をたくさん入れたスープをつくったり、たまった洗濯物を2回に分けて洗濯したりしていたら、次第に雲が去って太陽が見えてきた。

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4週目に入った授業もやっぱり降ったり晴れたりで、今日は雨模様。
ディベートは苦手だ。自分の意見はさておき、賛成派と反対派に分かれて議論する。イタリアやフランスの子たちは慣れているのか、凄い勢いで話す。私も議論は嫌いじゃないけれど、どうやっても自分が賛同できないテーマだと言葉が出てこない。いや、言葉が出てこないのは、賛同できるテーマでも同じか。要は語彙と文法の問題。
それに加えて、大勢がいっぺんに喋るから、教室は喧騒に包まれる。誰かが話しているときに遮ったり、大声で持論を滔々と述べる人がもともと苦手なので、辟易としてしまう。
まあ、それも言い訳で、もっと英語を聞き取れるようになれば、ストレスも少なくなるのだろう。

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授業が終わったあとは、ダン・レアリーの駅で待ち合わせて、明日日本に帰る友人と最後の食事。結婚と恋愛に寄ったテーマで友人に話を聞く娘。どんどん耳年増になっていく。
友人の話とシンクロするように窓越しに見える空はかき曇り、やがて海と空の境がないほど灰色に。
テディズ・アイスクリームを食べさせてあげたかったけど諦めて、デザートにアイスクリームを取ってゆっくり食べる。

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そのうち太陽が戻ってきて、外へ出たら海が紺碧に輝いていた。

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ダン・レアリーは、ダブリン中心部からDARTという電車で25分の海辺にある高級住宅地で、昔は港町として栄え、ロイヤル・マリーン・ホテルという高級ホテルには英国王室も泊まったとか。
私にはもったいない、こじんまりとして上品な街で、ダブリン市街から帰ってくるとほっとする。
友人も気に入ったようで、何度も「いいところだね」と言っていた。
彼にも大雨の過去はあるけれど、いまはとても軽やかで人生を楽しんでいる風情。
海辺には移動式遊園地が出現し、アイスクリームやフィッシュ&チップスの屋台も並んで、八月を待ち構えているよう。

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2kmくらいはありそうな半円に弧を描く埠頭の先まで歩いてみたら、だんだん夕陽が沈んできて、海鳥は最後のごはんを捕まえて巣に帰っていく。
そうか、ダン・レアリーはアイルランドの東側、アイリッシュ海に面しているから夕陽は見られないと思っていたけど、ここまで来れば水平線まではいかなくても見えるのか。

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「旅の最後に、気持ちのいい場所で夕陽が見られてよかった」と友人。「映画のエンドロールが流れてきそう」と。
降ったり、晴れたり。
繰り返しながら、人生は進む。

 

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ショッピングと米と石畳

日本から来ている友人のこと。
あの厳しい入国審査で、「(アイルランドに)何しに来たんだ?」と聞かれ、「U2のコンサートを観に」と答えたら、ものの2秒でパスしたそうだ。
30年近いブランクを経てfbで再会、このところ一緒にコンサートに行く機会が増えた友人は、ギターとサッカーと鉄道が好き。U2と会社の休暇、私がこちらに来ていることも重なって、初めてアイルランドを訪れることになったのだ。

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U2を観る以外に彼に託された使命は、米を運ぶこと。
決して頼み込んだわけじゃなく、このブログを読んで哀れに思い、米とその他もろもろを持ってきてくれたのだ。

 

今日はスーツケース片手に、ありがたくそれをいただきにダブリン市内へ。
「テンプル・バー」で待ち合わせると、巨大なトートバッグに米が5㎏(!)。
加えて、茶筅、茶托、梅昆布茶、お多福ソース、紅生姜、とろろ昆布、胡麻きびなご、菜箸、爪楊枝……。痒いところに手が届く、いや届き過ぎるラインナップ。親切が服着て歩いている人だとは思っていたけど、まさか、ここまでとは……。

とにかく空のスーツケースにいただいた食材を詰めさせていただく。持つよ、とは言ってくれるものの、米のせいで重量ギリギリ、30kgのスーツケースを運んできた彼に、これ以上持たせるわけにはいかない。

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その後、大勢の友人たちにお土産を買わなければいけない彼につき合い、珍しくショッピングへ。女性たちにはAVOCAの綺麗な色のストールとかいいんじゃない? と案内し、その後、ほとんどのアイルランド製品が揃うキルケニー・ショップへ。
青山通りを歩く人みたいに、綺麗な色のショッピング・バッグが次々に彼の肩にかけられていく。
自分は買わなくても、自分が好きなものを見るショッピングは楽しい。アイルランドの織物は見たり触ったりするだけで満たされるものがある。

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私は必需品の靴下とリップクリーム、娘にせがまれてバトラーズのベリーチョコを買った。

それにしても、スーツケースにとってダブリンの街は強敵だ。石畳にキャスターがボロボロにされたという話も聞いていたので、慎重に持ち運ぶ。
クレア・ストリートのバス停近くで買った重量感のあるパンも入っているスーツケースは、およそショッピングにはふさわしくない。

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夜は松井ゆみ子さん(料理研究家)のパートナー、マークに初めて会って、みんなでごはん。
“Thank you, thank you” 、“Sorry, sorry”と言葉を繰り返し、しかもゆっくり喋ってくれるマークの英語は聞き取りやすく、友人ともいきなりサッカーの話で打ち解けていた。
チップスを食べるのに、やはりチップス好きの娘のことを気にしてくれたり、デザートで注文と違うアイスクリームが載っていたらすかさず引き受けてくれたり、親切であたたかくて大らか。
松井さんとの出会いを聞いたら、「う〜ん……ロング・ロング・ストーリー」と照れた顔で言葉を濁す。
大学(トリニティ・カレッジ)では政治と経済を学んでいたそうで、松井さんが言うには、マークの家族はそういう話題でしょっちゅうディスカッションしているそうだ。
「政治は大事。一人一人が政治のことを考えることが」と言う真剣な顔に、この国の歴史が少しだけ覗いた気がした。

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美味しい地ビールと食事をいただいて、バスで帰宅。家に着くと、ヘトヘト。
改めてスーツケースを開けて、その充実ぶりと重さに感じ入りながら、気がついたらベッドで爆睡していた。

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レオナルド・コーヒーとグラタン・ド・フィノワ

さあ、4週目のスタートだ。
と張り切ってはみるものの……U2ライヴとモハーの断崖の後で、からだはheavy、心はempty。
4人のクラスメートが帰ってしまって、新たなクラスメートが来る日。掲示板を見ると、私の名前が一番上。そう、一番の古株になってしまったのだ。

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クラスに入ると元気で知的な女子が二人。イタリア人のエリカとジュリア。誰よりも早く席に着いている。
授業が始まると、喋る、喋る。イアン(先生)の質問に誰よりも早く答え、先生が「ちょっと待ってね」と言うほど。
やっぱり元気なのは圧倒的に女の子だ。

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この学校は夏場、ヨーロッパからクラス単位で留学生を受け入れたりするので部屋も時間もいっぱいいっぱいで、ZIG ZAGスタイルといって、午前と午後の授業が曜日で入れ替わる。
月・水・金は午後からなので、とても助かる。
代わりに火・木は午前9時からだけど、その分午後に出かけることができるからそれも嬉しい。
90分授業が2コマで途中に休憩が15分。娘のクラスは休憩時間も席に座っている子が多いが、私のクラスはほとんどの生徒が先生よりも先にサーッといなくなる。そしていい香りのコーヒーを片手に帰ってくるのだ。

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今日、初めて「コーヒー買いにいく?」と声をかけてもらった。ちょっと嬉しい。学校の近くにあるレオナルド・コーヒーはカフェ・ラテのテイクアウトが€2.2。安い。でも、本格的なコーヒーで、泡立てたミルクを注ぎ入れるときはちゃんと綺麗な模様が描かれる。
クラスメートたちと一緒にコーヒー片手に戻ってくるとジョン(先生)がクラスに行こうとしていたので追い越して部屋に入る。

 

ジョンの授業は文法もやるけれど、2〜3人でちょっとした話題について話し合うことが多い。たとえば「いらないけど、つい買っちゃうものって何?」とか。
そして生徒から必ず「ジョンは?」と尋ねられ、ひとしきり自分の話をする。
ジョンの「いらないけど買ってしまうもの」はスーツで、理由はスーツを着ると立派に見えるから。でも、着る機会がめったにないから、クローゼットにスーツを並べては「誰か結婚するか亡くなるかしないかな」と考えているそうだ。

 

さて、夕方授業が終わり、このところ外食が続いて財布も胃腸も疲れているので、家ごはんにする。
青りんごといただいた新ジャガがあるので、ポークソテーりんご添えとグラタン・ド・フィノワをつくることにして、豚肉と生クリームを買いにいく。
スーパーに行くと、食材が安いのに感動し、ついつい多めに買ってしまう。
今日は果物をたくさん、ペチャッとつぶれた形が可愛い桃と赤いりんごとレモンとバナナ、そしてブロッコリーと青ネギ(!)、そして燻してないベーコンも買ってしまった。
豚肉はロースの厚切りを3枚(600g)、生クリームは500gのを買ったのに、全部で€16(2000円ちょっと)。
嗜好品のアルコール類は日本と変わらないけれど、生活必需品、とくに食材は安くてびっくりしてしまう。

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家に戻るやキッチンに直行。グラタン・ド・フィノワが好きと言っていたアレクシ(シェアメイト。いまはクラスメートでもある)を誘って、一緒に夕飯を食べる。
席に着くと「レストランみたい」と目を丸くして「いただきます」と上手な日本語でアレクシ。
グラタン・ド・フィノワは前にクリスマス・ホームパーティーでつくって以来だったけど、頂き物の新ジャガが美味しくて、いい感じに仕上がった。
「これは、本物のグラタン・ド・フィノワだ」とアレクシ。りんごをポークに合わせるのは珍しいそうで、それも気に入ったようだった。

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オススメの音楽を聴きあいっこしながら、2時間以上食べ続けた。デザートはアレクシが買ってきたヨーグルト・アイスクリーム。
気がつくと、からだは軽く、心はすっかり満たされていた。

 

 

 

西へ。モハーの断崖へ

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U2明けの日曜日。
頑張って早起きして、東京からコンサートを観にやってきた友人と、娘のクラスメートと4人でモハーの断崖日帰りツアーに参加した。
アイルランドの西端にはいくつか凄い崖があって、その中でもモハーはその美しさで有名なところ。ダブリン中心地からバスで3時間半。
どこを切り取っても絵はがきになる緑の丘とのんびり草を喰む牛や馬、湖や川を眺めながら、一路バスで西に向かう。

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娘のクラスメートのアンジェラは、コロンビアからの留学生で、ひと月前からこちらに滞在している。娘にとっては初めてのクラスメートとの旅だけど、なんとか英語でコミュニケーションを図っている様子。
私はその後ろの席で、U2の感想を言い合ったり、だらだらと日本語のお喋りを楽しんだ。

 

あいにくの天気で霧がかかっていたけれど、長い時間をかけて荒波に削られた自然の要塞は、人間の手が及ばないものの屹立した美を湛えていた。
波の向こうに見えるのは、アラン諸島。アランの男たちは、いのちがけで海を渡らなければならず、女たちは独自の模様を編み込んだセーターを着せて、無事を祈ると同時に溺れてもわかるよう目印にしたという。

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カモメたちは崖など怖れることなくスイスイ飛んでいる。
私はへっぴり腰で近づき、200m下を覗き込んで、くらくら。
ジャガイモ飢饉のときには、ここから多くの住民たちが海を越えて西へ、アメリカ大陸を目指した。ちなみに、200mの高さから落下したら、たとえ下が海でも内臓破裂で間違いなく死に至るそうだ。
戦争中に(このモハーではないけれど)崖から海へ飛び込まなければならなかった人々は、どれほどの恐怖だっただろう。

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途中で娘らとはぐれ、合流してから尋ねると、もっと先へと歩いたらしく、写真を見ると霧が晴れ、空と海とがめちゃくちゃ綺麗だった。
あきらめが早い私たち大人とは違って、娘らは「霧よ晴れよ」と念じながらひたすら歩いていたらしい。
果たして霧は綺麗に晴れて、崖はその全貌を見せてくれたとか。

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その後、ボート(小型船)に乗って海から崖を眺める。
見事な地層は3億年前にできたそうだ。
波が穏やかな日にもかかわらず、アラン諸島にも行く船はけっこう揺れて、人間の小ささを思い知らせる。
ペンギンに見える岩の近くにカモメたちが集まっているのは、魚が集まる場所だからか。
飛べて、海の上で休むこともできるカモメたちに、私たち人間はどんな風に見えているのだろう。

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ダブリンに帰り着いたのは午後9時過ぎてから。
アイルランドを東から西へ横断したのだから当たり前だけど、けっこう長かった。
スペイン料理屋さんに入ってギネスを飲むと、いきなり2日間の疲れが押し寄せてきた。

濃い2日間だった。なんだか、もう、夏が終わってしまった気分……。

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U2のLIVEに行ってきた

2017年夏に3ヶ月のダブリン留学を決めた後、友人から「7月22日、部屋の隅っこでもいいから泊めてもらえないかなー」というメールが来た。
「なんで?」
「ホテルがどこも一杯だから」
「なんで?」
U2のコンサートだから!」

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1983年、WAR TOUR@新宿厚生年金会館でボノが掲げた白旗を、生涯忘れない、と思った。1980年に東京に出てきて、海外のバンドのLIVEが観られることに超感動し、新聞配達の人になりたい、と思っていた頃(いち早く来日公演情報を知ることができるのは新聞だった)、必死でチケットを取って観たコンサートの中でも、U2は飛び抜けて鮮烈な印象を残した。
抗う魂がそのまま音になり、歌になり、血のように、嵐のように迸っていた。
私は22歳。こういうバンドがいちばん好きだ、と思った。

 

とはいえ、その後ずーっと聴き続けていたわけじゃない。
『The Joshua Tree』であまりにもビッグ・バンドになってしまった彼らは、その後の日本公演は東京ドームになったし、社会に向けてメッセージを放つことも頻繁で、どこか雲の上の存在になってしまった。
そのバンドが、私がたまたまダブリンにいるときに、ホームグラウンドでLIVEをするなんて。


知ったとき、チケットはもちろんSold Out 。
でも、探してみたらすぐに転売サイトに行き着いた。
深夜2時。ドキドキしながら、清水の舞台から飛び降りたのだった。

チケットは高額で、しかもサイトの手数料がくっついて、2枚でちょうど日本からの往復航空券1人分と同じくらいだった。
勢いで買っちゃったけど、最近の乏しい収入からすれば、泣きたいくらいの出費。
前にドームで観た時は、スタンド席だったせいか年齢のせいか以前ほど感動しなかったし……と翌朝になって正直若干の後悔も押し寄せてきた。


でも、こんなタイミングでU2のダブリン公演があるなんて一生に一度、と思い直し、何の思い入れも苦労もなくチケットを1枚ゲットした娘に恩を着せまくりつつ、加えて友人も東京から来ることが決まって、7月22日はこの3ヶ月の一つのハイライトとして、心待ちにする日になった。

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テンプル・バーで友人と待ち合わせると、街はU2一色。あちこちのパブから流れて来るのはU2だし、マーケットには古いU2アイテムが並んでいるし、あちらこちらで飲んでいる人たちの多くがU2のツアーTシャツを着ている。

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コンサートのためにやってきた人たちを歓迎する街のムードは、花火大会のよう。花火が嫌いな人がいないように、U2が嫌いな人はいない。人々がみんなU2を誇りに思っている空気が街中に溢れていた。

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ギネスを半パイント引っかけて、早めに会場に向かう。
The Croke Stadium という、ふだんは国技(ゲーリックフットボール)にしか使われない巨大なスタジアムが会場で、警備はさすがに厚い。
ほとんどの観客は近くにホテルを取っているのか、手ぶらに近い。男性はボディ・チェックもされている。

念のためと望遠レンズをつけたカメラも持っていたので(ハンカチで包んでいたけど)ドキドキしながらカバンの中身を見せたら、すんなりOK。Checkedのリボンを付けてもらって中へ。

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ゲート前には仮設トイレがいくつも設置され、ビールやバーガー、チップスが売っているけれど、PITという席がないアリーナ席なので目もくれずに会場内へ。
でも、ツアーTシャツを買うのに時間がかかり、PIT内の場所を確保しようと思った矢先に娘がトイレに行きたいとかチップス買いたいとか言い出し、そうこうしているうちにPIT内は埋まり、背の高い観客の隙間から果たしてステージは見えるのか状態に。
PAを囲むフェンスの脇をなんとか確保して開演に備えたのだった。

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会場は巨大で、8万人収容できるとか。
ステージに設置されたプロジェクターも巨大で、ずっとメッセージが映し出されている。
世界の歪んだ正義によって殺された一人一人の名前が、夢が、見ることのなかった風景が、終わりのない映画のエンドロールのように流され続ける。

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オープニング・アクトはノエル・ギャラガー
オアシスの大ヒット曲も何曲か披露し、観客のほとんどが一緒に歌っていた。派手な演出は一切なく、きっちり演奏して「じゃ、ローカル・バンドにステージを譲るね」と去っていった。
ローカル・バンド? と一瞬思ったが、何のことはない、U2のことだ。

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30分くらいのインターバルを置いて、The Waterboysの“The Whole of the Moon” が流れ始めると、観客のざわめきが一気に弾ける。どうやらメンバーが登場したらしい。
私がいる場所からはPAの陰になって全く姿が見えない。巨大なプロジェクターは何も映さない。
「Sunday Bloody Sunday」が始まると、ほとんどの観客が総立ち(最初から立っているけど)で大合唱、そのまま「New Year’s Day」へ。

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そのうち、ピンスポットの下を探すと、隙間から見えた、ボノが。エッジが。ラリーが。アダムが。
プロジェクターの文字メッセージが動き出し、真っ赤な砂漠に立つ一本の樹、The Joshua Treeが映し出されると同時に、エッジのギターが、あの光の瞬きのようなフレーズを奏でる。ラリーとアダムのリズム隊が加わり、どこまでも続く一本道の映像とともに3曲目「Where the Streets Have No Name」。

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ああ、U2だ。
胸をかきむしるバンド・サウンド。
ボノの歌は深みを増してはいても激情を手放すことはなく、エッジのギターは少年の純粋さと怒りを変わらず宿している。

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1980年に4人で始めたバンドがいまも続いている奇跡。
人間がつくった社会システム、不条理が跋扈する世界への疑問、苛立ちを、音にして、言葉にして、放ち続ける情熱とエネルギー。

1983年に厚生年金会館で観たときと、もちろんバンドの成熟度も規模も社会的な意味も違うけれど、変わらない。
誰にも傷つけることができないもの。奪えないもの。
一人一人の中にあるはずなのに、巨大なシステムに呑み込まれて、あったことすら忘れてしまいがちなもの。
それが、バンドという形の中で奇跡のように護られて、眩しいほどの熱量で放射されている。

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ボノは歌だけでなくMCでも直接的なメッセージを口にし、驚くほどクリアで美しい巨大プロジェクターには、疑問と怒りと祈りを放つ映像が照射される。
そして、聴衆は共に歌い、腕を掲げ、Yesのメッセージを放ち続ける。

 

アイルランドがこのバンドを生み出したことへのリスペクトとプライド。

このバンドを好きでいる自分自身への信頼。

個の自由。愛と平和。言葉にすると薄っぺらく、すぐに風に吹かれてしまうから、何度でも意識的に満たされ続けなければならないものが、ギネスのように注がれ続ける。

エッジのギターは激しく空気を切り裂きながら、深く余韻をどこまでも広げていく。

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The Power of the People is Stronger than the People in power.

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最後は、愛と自由のために抗い続ける女性へのリスペクトとエールに溢れていた。

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4時間、いや待っている時間を含めると5時間立ちっぱなしだったけど、全然疲れなかった。っていうより、凄く力をもらった。
私より年上らしき女性たちも、ずっとビールを飲んで歌ってた。
明るくなったPITには、カールスバーグのペットボトルが、それこそ足の踏み場もないほど。

23時に終わり、市の中心地までの道は手を繋いで歩くたくさんのカップルをはじめ元気な人々で溢れ、やっぱり花火大会のよう。
深夜バスに乗り込んで思った。


清水の舞台から飛び降りて、本当によかった。

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